読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「月光の夏」

2006年08月04日 | 映画
『月光の夏』(神山征二郎監督、1992年)

テレビで神山征二郎監督の『月光の夏』という映画を観た。もう14年も前の映画になるのだなと思いながら観た。若村真由美がいる、田中実がいる、渡辺美佐子、仲代達也、内藤武敏、山本学、田村高廣がいる。もう故人となった人もいる。特攻隊員が出撃のまえにグランドピアノを思い切り弾いてみたいと思い、離れた町の小学校まできてペートーベンの「月光」を弾いて出撃して死んだ、というだけの話しかと思っていたら、それは前半の一部で、それから40年後に残されて使われなくなったピアノの保存をめぐって、特攻隊員の話を小学生たちの前でした吉村―特攻隊員がピアノ演奏に立ち合ったピアノの先生―のことが新聞に載り、ピアノを保存しようとか、そのときにピアノを弾いた特攻隊員を捜すというように話が展開していく。二人の特攻隊員のうちの一人―風間―生存していて、最初は当時の話をするのを拒否するが、吉村からの手紙に、彼女やピアノと再会を果たすという内容で、あたりまえと言えば当たり前かもしれないが、特攻隊員たちの無念の思いをいかに今に伝えていったらいいのかという、反戦の映画なのであった。

この映画が作られてから十数年のあいだに日本もずいぶん変わってしまった。曲がりなりにもこうして反戦の映画が作られ、それなりの影響力ももっていただろうに、いまやイラクに自衛隊を派遣し、人を一人も殺さず、殺されずに帰ってきたのはよかったが、いわばてこ調べのようなもので、これからは、中東情勢がもっと危機的になってきており、どんどん派兵されるようになってくるだろう。この映画が主張していたような、国家のため、国防のためという言葉の裏に隠されたごまかしのために、戦死者がでることのないようにという思いは、アメリカ言いなりの首相―それに輪をかけたような、後継候補有力者―によって完全に押しつぶされようとしている。

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