中島さおり『パリの女は産んでいる』(ポプラ社、2005年)

最近はこうしたフランスをリスペクトした本をよく見かける。曰く『フランスの子供は夜泣きをしない』、曰く『フランスの子供はなんでもよく食べる』、曰く『フランス人は子供にふりまわされない』、『フランス女性は十着しか服をもたない』などなど。
中島さおりさんの本は『哲学する子どもたち』というのを読んで感想を書いている。
こちら
これは小学校から大学受験にあたるバカロレアまでの話だったが、今回は恋愛と出産・子育てというところに焦点が当てられている。著者自身がフランス人と結婚し、フランスで出産・子育てをしてきた経験や彼女の友人たちの話をもとにして書いたものなので、日仏のシステムや文化の違いが分かって面白い。
第一の違いは、フランス人女性が結婚・出産・子育てという一番大変な時期でも「女を捨てない」ということだろう。最近の日本の女性たちも子育てをしながら女性としての輝きを失わないようにしようと一所懸命だ。でもそのために決定的に欠けているのが、夫の協力だろう。
フランスでは日本に比べてはるかに労働時間の短縮のための施策が充実しており、夫が家事を分担する時間が長い。私の息子など、傍目にも心配になるほどの長時間労働で、子どもが二人いるが、妻の母親の協力がなければ、やっていけない。週末に夫婦ででかけたいからおばあちゃんに孫を預けるという程度の話ではなくて、おばあちゃんが夫代わりになってくれているのだ。そういう若い夫婦は日本では多いだろう。
第二の違いは女性が女性に関わることを自分で決めることができるようになっている、すなわち女性が自立しているということにある。はっきり言えば、出産の自由を女性が持っているということだ。それはピルの使用によって、自分の意志でいつ出産をするかを決められることにかかっている。結婚していても、未婚でも、出産や子育てが、制度的にも精神的にも差別を受けることはないという。
手厚いサポートが出産・子育てを応援してくれるし、子どもが学校に行くようになっても、大学を出るまで教育費は無料だ。もちろん子どもの数に応じて累進する子ども手当もある。
その結果、出生率がヨーロッパでもダントツに高い。法律で中絶が認められている国では一番高いと思う。
フランスは第一次世界大戦で戦場になったこともあって、多数の死傷者を出した。そのため第二次世界大戦ではあっという間にドイツに負けてしまったが、あれは戦傷者をださないための政府の取った方針だったのではないかと思うくらいだ。それでも多数の死傷者が出たので、今日のEUにあたるドイツやヨーロッパ諸国との協力関係を築くとともに、国内では、協議離婚を認め、妊娠中絶を認め、事実婚を法的に認め、出産・子育てをしやすい国を目指してきた。
だから、現在の日本が直面しているような、人口が急激に減少して、労働人口が減少して、国家が立ち行かぬようになるという不安はない。目先のことしか見ていない人たちがリーダーをしている日本は、フランスを見習うべきだろう。