6日早朝の深夜便「明日へのことば」は、大阪大学の中野珠美さんでした。顔の話で興味深かったので著書をもとめました。『顔に取り憑かれた脳』です。その本から転載です。
最近は、近赤外光カメラを使って、瞳孔の形状や角膜の反射光を計測することで、人がどこを見ているかを簡単に調べることができるようになりました。そこで、筆者らも映画やテレビ番組を見ているときの人々の視線を調べてみました。すると視聴者の視線は、登場人物を追いかげろように動いており、背後の風景にはまったくと言っていいほど向いていないのです。そして、やはり目と囗のあたりに視線は集中していました。これまでの研究を合わせると、見ている時間のおよそ6割は目を、2割は囗を見ることに費やしているようです。
こんなにも人が目を好きこのんで見るのはなぜでしょうか。それは「目がものを言う」からです。ただそれはすべての霊長類が手にしかものではなく、人類の長い進化の歴史の中で獲得Λにりたものなのです。
「目」の進化
人間の目がものを言うように進化した可能性を殼初に報告したのは、霊長類を研究する囗本人研究者たちです。彼らは、目の縦横比辛強膜(人でいう白目にあたる場所)の大きさをさまざまな霊長類で比較しました。すると、樹の上で生活している霊長類は目の形が円いのに対し(図1r2上)、地上で生活している霊長類は横に長く、強膜の露出面積が広いことがわかりました(図1-2中)。地上での生活は、敵や獲物がいないかを水平方向に幅広く見渡す必要があります。顔を動かすよりも、目だけ動かす方が使う予不ルギーは少なくて済むため、まぶたの割れ目が横長に広がり、水平方向の広い視野を見ることができるようにするためだったのだと考えられています。なかでも、人間の目は、断トツに横長で、強膜の露出面積も一番大きいのです(図1-2下)。
さらに、強膜が白いのも重要な特徴です。チンパンジーなど、ほかにも白い強膜を持つ霊長類の個体の事例報告はあるものの、多くの霊長類は、強膜が肌の色に近い茶色です。そのため、黒目の位置がわからず、どこを見ているかが外からはわかりづらくなっています。そのおかげで、外敵や仲間からの不意打ちの攻撃を避けることができるのです。
一方、人間は横長の白目を持つために、自分が今どこを見ているのかが他者に伝わりやすくかっています。そのおかげで、自分が関心を向けている対象に他者の目や注意を導くことができるようになりました。このように、人間の目は、外部から動きがわかりやすくなる方向に進化したために、社会的なシグナルの交信という新たな役割を持つようにだっ
たのです。つまり、私たちが他者の目ばかり見てしまう癖に、他の霊長類とまったく違う
適応戦略をとったことの表れと言えるのではないでしょうか。縄文時代の人々は集団で狩
、現代の私たちは脳の前頭部が大きく拡大したために額が前方に張り出し、その代
わり、目の上の骨の出っ張りはほとんどありません。ただし、眉毛だけは残り、平たくなった顔の中でかえって目立つようになりました。しかも、骨が引っ込んだおかけで、眉を動かすことも簡単にできるようになりました。眉毛の役割は、一般的には汗が目に入るのを防ぐためと考えられていますが、それだけでなく、内に抱えるさまざまな感情を外に表すことができるようにもなったのです。おまけに、眉毛の形が大によってさまざまなので、顔を見分ける際にも役に立ちます。このように、人の眉毛も、目と同様に進化を通じて社会的なシグナルを発信する機能を持つようになったのです。(つづく)
最近は、近赤外光カメラを使って、瞳孔の形状や角膜の反射光を計測することで、人がどこを見ているかを簡単に調べることができるようになりました。そこで、筆者らも映画やテレビ番組を見ているときの人々の視線を調べてみました。すると視聴者の視線は、登場人物を追いかげろように動いており、背後の風景にはまったくと言っていいほど向いていないのです。そして、やはり目と囗のあたりに視線は集中していました。これまでの研究を合わせると、見ている時間のおよそ6割は目を、2割は囗を見ることに費やしているようです。
こんなにも人が目を好きこのんで見るのはなぜでしょうか。それは「目がものを言う」からです。ただそれはすべての霊長類が手にしかものではなく、人類の長い進化の歴史の中で獲得Λにりたものなのです。
「目」の進化
人間の目がものを言うように進化した可能性を殼初に報告したのは、霊長類を研究する囗本人研究者たちです。彼らは、目の縦横比辛強膜(人でいう白目にあたる場所)の大きさをさまざまな霊長類で比較しました。すると、樹の上で生活している霊長類は目の形が円いのに対し(図1r2上)、地上で生活している霊長類は横に長く、強膜の露出面積が広いことがわかりました(図1-2中)。地上での生活は、敵や獲物がいないかを水平方向に幅広く見渡す必要があります。顔を動かすよりも、目だけ動かす方が使う予不ルギーは少なくて済むため、まぶたの割れ目が横長に広がり、水平方向の広い視野を見ることができるようにするためだったのだと考えられています。なかでも、人間の目は、断トツに横長で、強膜の露出面積も一番大きいのです(図1-2下)。
さらに、強膜が白いのも重要な特徴です。チンパンジーなど、ほかにも白い強膜を持つ霊長類の個体の事例報告はあるものの、多くの霊長類は、強膜が肌の色に近い茶色です。そのため、黒目の位置がわからず、どこを見ているかが外からはわかりづらくなっています。そのおかげで、外敵や仲間からの不意打ちの攻撃を避けることができるのです。
一方、人間は横長の白目を持つために、自分が今どこを見ているのかが他者に伝わりやすくかっています。そのおかげで、自分が関心を向けている対象に他者の目や注意を導くことができるようになりました。このように、人間の目は、外部から動きがわかりやすくなる方向に進化したために、社会的なシグナルの交信という新たな役割を持つようにだっ
たのです。つまり、私たちが他者の目ばかり見てしまう癖に、他の霊長類とまったく違う
適応戦略をとったことの表れと言えるのではないでしょうか。縄文時代の人々は集団で狩
、現代の私たちは脳の前頭部が大きく拡大したために額が前方に張り出し、その代
わり、目の上の骨の出っ張りはほとんどありません。ただし、眉毛だけは残り、平たくなった顔の中でかえって目立つようになりました。しかも、骨が引っ込んだおかけで、眉を動かすことも簡単にできるようになりました。眉毛の役割は、一般的には汗が目に入るのを防ぐためと考えられていますが、それだけでなく、内に抱えるさまざまな感情を外に表すことができるようにもなったのです。おまけに、眉毛の形が大によってさまざまなので、顔を見分ける際にも役に立ちます。このように、人の眉毛も、目と同様に進化を通じて社会的なシグナルを発信する機能を持つようになったのです。(つづく)