「お前らのしょうもないアイデンティティ確保のために
なんで私が異常扱いされたり凡庸扱いされなきゃならんのだ
お前らの価値観なんてなんの意味すら持てねえ
薄っぺらい思考だって早く気づけやドアホウが」 (第29話より)
一般的なエンターティメントというものがご多分に人の気分をよくする為に作られてるものだとしたら
この作品はある不特定多数の人間にとっての処方箋というか・・・
勿論ある意味エンタメではあるんですけど
ただ、最初から限られた人間、それは世間と馴染めないはみだし者だったり
孤独や孤立を経験している惨めな人間だったり
この世界の「普通」に対して疎外感を受けてしまう人間だったり
そういった世界や他人が決める「正しさ」に付いて行けなかった人間の為の漫画になってる気がして
きっとこの漫画を熱心に読む層っていうのは、何かしらそういう異常性を抱えてそう
要するに、最初から届く人間だけに描いている気がして
まあそれも勝手に感じた事なんですけど(笑
ただ、個人的にはどうしてもそういう繊細な感情を抱えてる人には読んで欲しい
それが週刊の少年誌に連載されてるっていうのは凄い事だと思うんだけど(笑
まー普通にある種のカルトホラー的に?読めるもんなのか
ただ普通にハートフルなお話もありますからね。
それでさえ、一定の哀愁には塗れてたりするんですが・・・。
2巻ではまたポップで可愛らしいコメディ系のお話も増えてたりしたんですけど
この3巻のお話っていうのはそこから一転して殆どがダークで、ペーソスにまみれたお話になってます
読んだ後空っぽ「だけ」が残るような
何ともいえない空虚感と青春の穴だらけの構成
でもそれが、一気に読むには適してるというか、一気に空気感に浸れるので
始めにコメディ系のお話を配置している部分も含めて
これはこれで優れた構成だな、と
要するに今回は割と黒い、暗い結末ばっかりのドロドロの巻になっている訳で
そういう部分にも惹かれた私としてはこういうのはこういうのでフルに楽しめる、というか(笑
良い具合にニッチでシンパシーも悲しみも感じ取れましたけど、
でも裏を返せば
誰にだってある普遍的な心情でもあるのかもしれない
そういう意味では好きな人だけではなく、もしかしたら・・・?という意味合いで
それ以外の人も積極的に触れる価値はあるかもなあ、と。
色々と考えさせられるし
自分に置き換えて空しくもなったりするけど
でも、同じようにこういう煮え切らない感情を抱えて煮え切らない日常を過ごす人々
そういう想いに触れるだけで、ある種助けられる部分はきっとあるかな、と。
共感するもよし、共感しないもよし
この世のありとあらゆるはみ出し者の気持ちを掬ってくれる、そのまんま描いてくれる
本当の意味で痒い部分に手が届くような、堪らない人には堪らない3巻目になったと思います。
全部が全部救われる訳ではないんですけど
それもまたリアルでむしろ更に浸れる要因になるかと。
こういう人たちもいるんですよ、っていう。気持ち悪いのがしっくりと来る、そんな漫画になってました。
以下、個別に気に入った話を取り上げてみる。
◆黴春
これは、ただ単純に思いっきり笑いました(笑
寛太って人間はあまりに単純で思い込みが激しくて、それでいて流されやすい
でもその軟弱っぷりがギャグ的には良い方向に作用しまくり、という。
男も含めた三角関係、ってアイディアは超秀逸だと思うので
いつか続編も読んでみたい一作です。
◆4年2組 熱血きらら先生
この先生のやってる事って全部が全部裏目に出てるんですよね。
無闇に当てるのはからかわれる原因だし
折角仲間に入れてもらってたのに、それを勘違いで叱って台無しにしちゃうし
一人で感動を語って一人で泣いている
要するに誰も共感してない
強迫観念を押し付ける裸の王様、ってところなんでしょうけど・・・。「先生は正しい」っていうのが
あの時期は一般的な共通観念としてありましたけど、それで狂った部分も確実にあるよな。
昔を思い出して切ない気分にもなりました。ただ、傷口を広げてるだけ。
◆歩く道
いや、これ彼の主張は正直分かる部分もあるんですよ。
個性が剥奪される、多数決が絶対の社会通念を浴びせかけられる、というのはその通りだし
何もかもが全部正しくないのもその通り
ただ、だからといって彼自身も正しいのかと言えば・・・。
正直現実から目を背けているだけだし、かといって目に見える努力をしている訳でもない
最初は社会風刺のように思えて、
最終的には何一つ成し遂げてないのに愚痴ばっかいうバカの風刺に摩り替わっている
その冷静と言うか、両方を風刺するような中立的感覚が素晴らしいな、と。
こういうのを本当の「中二病」と言います。
そう思った。
◆少女の異常な普通
「普通」っていうのはただ単にそういう人が多い、っていうだけで
必ずしもそれが「絶対」なわけがない
それも一部分だけを見て勝手に判断した視野の狭い「普通」だったりするのかもしれない
自分の価値観や物差しに他人をはめ込むのは正直滑稽だと思うのと同時に
自分が常識だ、なんて間違っても思うなよ?と。
お前何様だよ、と。
個人的にはちょっとスッキリしました。こういうお話があって本当に良かった。
「お前らさっきから好きなタイミングで自分を特別にしたり普通にしたりしてんじゃねえよ」
◆嘘つき
途中までは凄く楽しそうだったのに・・・。
誰も悪くないのに、
誰もが傷ついてる。
でも、それって悲しい事に普遍的な出来事でもあるんですよね。
ちょっぴり空しい夏の思い出。これは、きっと続編がない方が良いんでしょう。色々な意味で。
◆別に大丈夫やけどな
自分と同じ言葉で話さない人間に対してのリアクションって本当に冷たいですよね。
これもまた掬って欲しい気持ちが直に表現されていて、良かった。
同時に「気を付けなくちゃ」とも。
反面教師って意味合いでは割と少年少女向け、なのか?
それにしてもどこから来たってだけで本当にレッテル張りが好きですよね。日本人は。
◆ただ、ひとりでも仲間が欲しい
仲間は欲しいけど、でも他人のように器用には振舞えない
ずっと自分でいたい、と思ってしまう不器用な人々のお話。
一見異常な話にも思えるけど
しかしマイノリティやニッチな人間にも必ず程度だったり差異が存在していて
きっと一生誰かと共になる事なんてない
自分から受け入れない限り。
でも、結局それが出来ないからあの子も私もいつまで経ってもひとりぼっち・・・。
そんなはみだし者の哀愁が伝わって来る傑作回。ダーク過ぎるオチですが、これが一番好きかなあ。
対して興味もないのに勝手に入って勝手に荒らして勝手に疎外感を与えて帰っていく。
今、自分が描いて欲しい気持ちそのまんまの内容でした。
あの酷すぎる姿は
他人と相容れない人間の傍目から見たら醜すぎる姿のメタファーなのかもしれない。
ここまで極まった内容を書けた事がまず凄いですね。精神的に泣けた。
単純に「面白い」とか「可愛い」とか、そういう言葉で形容出来る漫画では決してないですが
読めば読んだ分だけ、感じれば感じた分だけ爪あとが残る、そんな漫画だと思う。
個人的には、もう大好きですね。最高です。
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