旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

やっと辞めます菅総理 其の七

2011-08-30 15:54:38 | 政治
■またまた民主党らしい後味の悪い「ノーサイド」の一言で締め括られた代表選挙が終わり、一夜明けて本日30日の午後には衆参両院で野田佳彦新代表が第95代内閣総理大臣に選出されたようです。今回の党代表選の主役は海江田ゴウキュウ万里さんだったような気がします。この人が鳩山サセテイタダク元首相の「未練」とクラッシャー小沢の「怨念」を呼び覚まして濃縮するような動きを見せたことで、民主党内には菅アルイミ前首相がニンマリするような「反小沢」のどす黒い気運がむくむくと湧き起こり、決選投票では一挙に大爆発してしまったようなものでしょう。不思議なことに「反鳩山」という言葉は一度も聞いたことがありませんが、同様に「菅降ろし」はあっても「反菅」と書かれた政治記事を読んだ記憶がないのは何故なのでしょう?結党時に大金を投じたオーナーとして鳩山サセテイタダク元首相は別格扱いなのかも知れませんが、菅アルイミ首相の方は余りにもコロコロと言う事が変わるので、何に反発してよいのか分からなくなってしまって敵対勢力が結集する機会が無かったとしか思えませんなあ。本当に不安で不愉快な449日間でありました。

菅内閣は30日午前の閣議で総辞職した。菅直人首相の後継となる野田佳彦民主党代表は30日午後の衆院本会議で首相に指名されるが、組閣はずれ込む方向。それまでは憲法の規定により菅内閣が「職務執行内閣」を務める。菅首相は昨年6月8日に就任し在職日数は8月30日で449日。現行憲法下で首相を務めた30人の中では、大平正芳氏(554日)に次ぐ19番目の長さとなる。野党から内閣不信任決議案が提出され、6月2日の採決直前に退陣の意向を表明。実際の退陣まで約3カ月居座る異例の展開となった。
2011年8月30日 産経ニュース 

■日本語で忌み嫌われる四と九が組み合わさった449日という数は菅アルイミ内閣を象徴していますが、最後の最後まで唐突な決定と軽率な言動は衰えることを知らず、次の政権にとっては決して有り難くない置き土産をちまちまと作り続けていたのでした。大事な課題は何も解決できず、小さな棘になって後々毒が出て来そうな置き土産ばかりのように見えるので、野田新首相は菅アルイミ内閣が食い散らかした政策のテーブルを片付けて掃除することから仕事を始めねばならず、これは瓦礫の除去や放射性物質の洗浄作業に似たようなものでしょうなあ。ご苦労様なことであります。


細野豪志原発事故担当相がまとめた原子力規制行政の見直しに関する政府の最終案の全容が11日、明らかになった。経済産業省から原子力安全・保安院を分離し、内閣府の原子力安全委員会などと統合して新設する「原子力安全庁」(仮称)を環境省の外局に設置すると明記した。12日にも関係閣僚会合で決定し、15日に閣議決定する方針。
2011年8月11日 産経ニュース 

■新代表の選挙騒ぎに掻き消されてしまった感がありますが、この環境省の外局として誕生する新組織には多くの難点が指摘されております。本来ならば米国を見習って完全に独立した機関として多くの専門家を結集させねばならないはずなのに、誰の差し金かは知りませんが最初から行政府の中に組み込む話になっていたようです。電力会社の下請け組織同然だった保安院は何の責めも受けずに新組織の中核に移入され、原子力ムラはぬくぬくと温存されて生き延びたも同然。「原子力安全庁」なる仮称からも、「原子力は安全に決まっている」という安全神話がしぶとく生き延びている疑惑を感じてしまいますぞ。いっそのこと「原子力危険監視庁」とか「原子力禁止庁」とか、菅アルイミ首相の置き土産らしい唐突感溢れる名称にした方が良かったかも?


菅直人首相は12日昼、民主党の石井一副代表らと官邸で会食し、自身の退陣後に関して「(自然エネルギーの)バイオマスをやっていきたい。前首相として邪魔にならない程度に活動したい」と述べた。公債発行特例法案の衆院通過については「次の人に背負わせると重荷になるので良かった」と語った。民主党の当選1回議員十数人が同席した。
2011年8月12日 産経ニュース 

■ご相伴に預かった1年生議員達はタダ飯が食えるからのこのこ出向いたのか?腐っても鯛とて総理大臣との会食が嬉しくて参加したのか?中には本気で菅アルイミ首相を尊敬している変わり者も紛れ込んでいたのでしょうか?「バイオマスをやりたい」のは勝手ですが、議員を辞めてお遍路を終わらせてから実業家にでもなるのか?それとも臆面も無く「前総理大臣」として議員を続けて法案作りに精を出すおつもりか?「邪魔にならない程度」などと遠慮せずに大いに頑張って活動してみれば良いでしょう。誰も協力しないでしょうから、邪魔になるような存在感は決して望めないでしょう。総理大臣の椅子にしがみ付いていたから「邪魔」だったのですよ、と誰か教えてあげればよいものを……。


……安全庁の設置は原子力の「規制と利用」を分離させるのが狙い。原発を推進してきた経済産業省から、規制を担当する原子力安全・保安院を分離し、内閣府原子力安全委員会、文部科学省の放射線モニタリングの司令塔機能などと統合する。
「事故発生時の初動対応その他の危機管理」を重要な役割と位置づけ、危機管理対応の専門官を新設する。環境相の助言・諮問機関として「原子力安全審議会(仮称)」を置き、原子力規制行政の中立性を保つ方針だ。
来年4月以降は「第2段階」として、12年末までかけてさらに組織を強化する方策を検討。新たに制定するエネルギー基本計画や事故調査・検証委員会の報告などを踏まえ、組織を改編する。新組織では人事の独立性にも留意した。安全庁長官には官僚出身者だけでなく、民間有識者も含め幅広く人選をする方針。経産省内で原発を推進する資源エネルギー庁と、規制する保安院との間で人事異動が行われ、「なれ合いになる」と問題視されてきた。安全庁では、他府省から来た幹部職員を元に戻さない「ノーリターンルール」を徹底させる。…… 

■菅アルイミ内閣が描く構図は原発推進役は経済産業省に集中させて核エネルギーの「利用」を進める一方で、これまで同省と文科省に分かれて住み着いていた原子力ムラの住人を新組織に移住させて原子力を「規制」させるという対立関係になるわけですなあ。でも、頑として「メルトダウン」を認めなかった保安院と爆発事故は起こらないとタカを括っていた安全委員会、そしてSPEEDIを宝の持ち腐れにしてしまった文科省が環境省内に引っ越して来たからと言って急に君子豹変して原発安全神話を投げ捨てて原子力の危険性を真剣に考え始めるとは信じられません。保安院が移住するのなら、それまで丸投げ仕事を請け負っていた怪しげな独立行政法人や電力会社からの派遣社員達も一緒にくっ付いて行かないと仕事は出来ないでしょうに?!

■百害あって一利なしの税金泥棒・無駄飯喰らいだった保安院の責任を明らかにして廃止することもなく、またぞろ新たに諮問機関として「原子力安全審議会(仮称)」を作ったところで、「原子力規制行政の中立性」など保てる筈もなく、クラッシャー小沢が無罪放免となる来年4月に「第2段階」の組織改編などやっている暇があるのでしょうか?またまた党を真っ二つに割って血みどろの政治抗争が始まり、5箇月後の本物の代表選挙に向けて大混乱が起こっている可能性が高そうですからなあ。愚かな政争を横目に原子力ムラは強かに蘇生して以前に増して原発安全神話をあの手この手で広めようとし始めるような気がしますし、役人に「ノーリターンルール」など押し付けても直ぐに抜け道を作って天下り互助会が作られて元の木阿弥にならねばよいのですが……。


安全庁の参考になったのは脱原発を進めるドイツ。チェルノブイリ原発事故を受け、86年に環境と原子力規制行政を一本化する「連邦環境・自然保護・原子力安全省」を設置した。安全規制の基本政策を策定する一方、実務は州政府が担う。米国の「原子力規制委員会」(NRC)は独立性が高く強力な権限を持つ。5人の委員と約3000人の職員で構成、放射線被害から公衆の安全と環境を守るため、地方組織が設置されている。英国は環境省が原発規制を担ったが、現在は雇用・年金省の下部機関「保健安全委員会」が、原発を含むすべての産業の安全規制を行う。規制機関が上部環境省に比べ、大きくなりすぎたのが理由とされる。
8月15日(月) 毎日新聞 

■チェルノブイリ原発事故の後、日本だけは安全神話に磨きを掛けて今回の大事故の遠因となったと言われておりますから、四半世紀遅れで日本は真面目な原発行政を始めることになります。こんな重大な政策変更を菅アルイミ首相の置き土産仕事でやってしまって良いのでしょうか?きちんと国会でみっちり議論して自民党政権時代からの罪と垢をしっかり削り落とし、国民的議論を経ておかないと後々トンデモないことになるかも知れません。8月15日に靖国神社に参拝にも行かず菅アルイミ内閣はこんな事をしていたことをよく覚えておきましょうぞ。

やっと辞めます菅総理 其の六

2011-08-30 15:24:47 | 政治
■原発事故から5箇月も経って、福島圏内の子供たちが内部被曝していました、などと重大な事を発表する菅アルイミ内閣には危機管理能力はまったく有りません。自分は頑張っているのに国民に分かって貰えないなどという泣き言は誰も聞いてくれませんし、原発事故から1週間は眠れなかったなどと苦労話を披露しても、何でも自分がしゃしゃり出て事態を悪化させるくらいなら担当部署に任せて最後の責任を取る時までは枕を高くして眠っていた方が良かっただろうと皮肉を言われるのが関の山。大震災と原発事故、復興は進まず電力不足がエネルギー危機を呼び、そこに円高が襲い掛かって日本の将来は真っ暗だ!と国民は不安を募らせているというのに、「子供手当て」だどうしたこうした、次の民主党代表は誰にしようか?等々、国民にとってはどうでもよい事で国会が動かない。

■「犬死はしない」などと犬に対して失礼だ!と愛犬家に叱られるような遠吠えをしていた菅アルイミ首相も、脱原発と再生可能エネルギーで支持率が上向くかと淡い夢を見ていたものの、就任以来の無能無策ぶりに愛想を尽かした国民の心は遠く離れて戻っては来ませんでした。市民運動家出身というのも単なる看板でしかなかったことが、大震災と原発事故の対応ぶりが証明してしまいました。本来ならば痒い所に手が届く「さすがは菅さんだ」と被災者の皆さんが涙を流して感動・感謝する現場感覚にぴたりと適合した施策が連発されるはずが、初期対応の初動で躓いてから手持ちの情報を隠蔽し続けた上に事故直後のデータ収集を怠り、責任の所在と指示命令系統を混乱させるだけの本部濫立を命じる一方で訳の分からない記者会見を官房長官に続けさ、自分が引き起こした国会のネジレ現象に手足を縛られて大連立だのマニフェストの見直しだのと復旧・復興に逆行する事ばかりに精力を注がざるを得なくなり、自分の存在自体が最大の風評被害だとまで言われるようになったら、唐突に脱原発!再生可能エネルギー!を持ち出してまるで原発事故が収束したかのように不気味な前のめり政治に突き進む姿は墓場をうろつくゾンビそのものでありました。

■民主党の代表選挙も日程が決まり、どうやら2日間で政策論争を終わらせて投票をすることになるのだそうですが、急いでやるべきことは先送りで時間を掛けねばならぬことは拙速。何をやらせてもチグハグな民主党という集団は何処までも素人集団のようですなあ。


細野豪志原発事故担当相がまとめた試案は、菅直人首相の意向に沿って、経済産業省と原子力安全・保安院の「分離ありき」が優先した。地球温暖化のため原発を推進してきた環境省の外局として「原子力安全庁」(仮称)を新設するなど課題を多く抱えている。…… 

■原発の安全基準の見直しよりも先に東京電力を税金を使って救済する仕組みを作った菅アルイミ内閣が新しい原発監視組織を作ったところで経産省の官僚が番人を務める原子力ムラは微動だにしないでしょう。


首相は東京電力福島第1原発事故の発生以来、原子力を規制する立場にある原子力安全・保安院が規制に消極的だと強い不満を持っていた。5月18日の記者会見では「原子力を進めている資源エネルギー庁とチェックする保安院が、ともに経産省にある原子力行政のあり方を根本的に見直さないといけない」と述べた。…… 

■昔の橋本行革で役所の頭数だけ減らした皺寄せで原子力ムラはそれ以前よりも強固で濃密な組織になったと言われていますから、政権交代用マニフェストで原子力行政の改革を少しでも言及しておけば良かったものを、原発事故が起こるまで民主党政権は地球温暖化ガスを削減する切り札として原発を高く評価して新設計画まで進めていたのでしたなあ。菅アルイミ首相もベトナムに原発プラントを売り付けて得意満面でした。福島第一原発の大事故によって「考えが変わった」と個人的な感想を述べていますが、一国の総理大臣として何がどう変わったのか、歴史的な名演説で聴かせて欲しかったのですが……。


細野試案は、保安院のほか、内閣府にある原子力安全委員会や文部科学省の関係部局も一つの組織に統合させた。「脱原子力依存」を掲げ、原発推進より規制に重点を置きたいとする首相の強い意向を反映させた内容にもなり、巨大な規制官庁が誕生することにもなる。「安全庁」が環境省の監督下になることで、安全規制と原発事故発生の初動対応が一元化されるというメリットはある。だが、経産省内からは「原子力行政が、菅首相の一言だけで簡単に変えられるものか」(幹部)との批判も出ている。さらに環境省はこれまで原子力行政には直接的には関与してこなかったため、実効性を疑問視する声もある。…… 

■マニフェストの目玉だった「国家戦略局」も看板倒れで終わってしまった民主党に新しい組織の立ち上げと運営など無理に決まっています。その証拠に経産省の原発行政トップ三人組は更迭ではなく「人心一新」の順送り人事でお手盛り辞任を自らの意思で取り仕切って菅アルイミ首相の面子は丸潰れになっておりますし、経産省や文科省などの所管部署が激しく抵抗しているという話も出ていませんから、官僚の目から見て何も変わらないことが分かっているのでしょうなあ。


民主党の政務三役経験者は「行政改革全体の中で議論すべき内容だ。規制部分だけ急にまとめても意味がない」と問題視する。輿石東参院議員会長も「急ぐべきはそういうことではない。新しい(政権の)体制に入ることが最優先すべき問題だ」と指摘したように、退陣表明した菅首相の都合だけで原子力行政の組織改編が進むのは避けなければならない。
2011年8月3日 産経ニュース 

■こんな重大な政治課題でも菅降ろしにネタに使われるようでは民主党はいよいよ終わりです。菅アルイミ首相は業績の破片でも歴史に残そうと必死なのでしょうが、鼬の最後っ屁みたいに迷惑な置き土産を慌てて作ったりすると後で官僚たちが好き放題に悪用する可能性がありますから、行政組織の切り張りは余程の知恵と経験が無い者がやっては行けない危険な仕事なのですが、自信過剰の病気が治らない菅アルイミ首相の唯我独尊姿勢は誰にも治せないようです。かと言って菅アルイミ首相の暴走を押し留める気概と力のある政治家が民主党内には皆無だというのも困ったことであります。


細野豪志原発事故担当相は5日、東京電力福島第1原発事故を受けた原子力規制行政の見直しに関する試案を正式発表した。経済産業省から原子力安全・保安院を分離し、内閣府の原子力安全委員会などと統合し「原子力安全庁」(仮称)を新設をする。平成24年4月の発足を目指す。安全庁の所管府省は環境省と内閣府の両論併記とした。環境省の場合は環境相の所管とする。内閣府の場合は担当相を配置するため内閣法を改正して閣僚枠を増やす必要がある。閣僚間では内閣府を主張する意見が多いという。 

■何かと言うと辞任するまでは「責任を果たす」と繰り返していた菅アルイミ首相は、何の根拠もなしに後継内閣が自分の名前と業績を後生大事にして継承してくれると素朴に信じているとは思えません。いくつもの問題を秘めていると今から危惧されている自然再生エネルギー法案を強引に成立させて、脱原発依存の端緒として最終的には脱原発を達成する未来を見通して自分が突破口を開いたのだ!といつまでもエネルギー行政の権威として政界の何処かに居座ろうとでも考えているとしか思えません。与野党共に菅降ろしの一点でのみ「大連立」は実質的に成立したようなもので、似たような名前の法案を準備していたこともあって野党第一党の自民党も極僅かな修正を要求しただけで法案に賛成するようですが、決定的な情報が隠蔽されたまま原発事故の真相は不明で、安全基準の見直しも未着手、事故収束の「一定のメド」などまったく立たないまま、今頃になって事故現場周辺の土地には人が住めないと公式に発表するという乱暴で拙速な政治手法で原子力行政の見直しなどが出来るのでしょうか?この8月5日の段階では新しい監督機関の所属先は両論併記でありました。


また、第三者的な立場から助言や意見を言う「原子力安全審議会」(仮称)を設置。安全庁はデータ公表の遅れが問題になった緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)など環境モニタリングに関する司令塔機能も担う。当面の組織規模は500~600人の見込み。政府は来週にも閣議決定。組織改編に必要な法案は来年の通常国会に提出する。また、原子力政策の転換や原発事故の検証、人材育成など中長期的な課題を踏まえた第2段の見直し案を24年末をめどにまとめる。
2011年8月5日 産経ニュース 

■「24年の末」に民主党という政党が消滅している可能性が高く、SPEEDIの取り扱いに関して重大な過失があったことを素直に認めようとさえしない菅アルイミ内閣が、とうとう事故から現在に至るも作れなかった「司令塔」をハリボテながら形だけは作って自分の業績として誇りたいだけなら虚しいばかりでありますなあ。