初物

初物を食べると75日長生きすると言う諺が有り
薬も使わずに長生きできるなんてこんな良い事は無い。

早速買い求め妻に食べさせると、いつもは食の細い妻が
美味しそうに3切れ食べた。

味覚障害に陥っていて何を食べても味がしないと言っていたけれど
このスイカは甘いと言って喜んで食べているのを見ると嬉しくなる。
水も上手に飲めないので、水代わりには丁度良い果物です。

75日長生きするなら安いもんだ。
初物が出る度に食べさせて、なんとか年を越させたい…なんてね。

妻の事

妻の世話をしていると
妻が「ごめんね」と謝る。

謝らなくてもいいよ。
生きていてくれるだけで充分です。と答える。

覚悟

覚悟は出来ている。
自分で何度も言い聞かせて、大丈夫？と念を押す。

大丈夫！

その時が近づいて居る事が分かると、オロオロし始めて
あの「覚悟」って出来てないじゃんと思う。

さて、昨晩の騒動から今朝は寝坊をして
愚息の弁当造りも危うかったのだけど何とか乗り越えたら
疲れがどっと出た。

覚悟していたはずなんだけど…。

どうしてそんなに優しいのと聞かれ
もう直ぐ死ぬからだよと答えたら
あの屈託の無い笑顔でこちらを見た。

そして疲れたと言って眠りにつく。
この所眠っている時間が増えて
会話が少しづつ少なく成って来た気がする。

声が出ないからしょうがないけど。

パペット

終末の晩飯は自宅で手巻き寿司にしようと思い立ち寿司ネタを買いに魚に行くとサーモンを下ろすのに少し時間が掛かると言われた。
店先で待つにはちょっと長く家に帰るには短いので次郎長通り商店街をぶらぶらして時間を潰す事にした。

次郎長の生家まで来ると見慣れないシャッターが有り、此処の店は何だったけ？と振り返ると張り紙が貼ってあった。



何と不幸な。
そうだ喫茶店が有った。店の名前はカタカナで…思い出せない。

確か一度だけ入った記憶が有る。
個人的には馴染まない店だったけれど年寄りには評判の良い店らしい事は伝え聞いていた。

そのまま歩き続けると大して時間を潰す事も出来ないまま商店街を通り過ぎていた。仕方がないので港橋に有る100均の店に行って何か役に立ちそうな雑貨を探すことにした。

*-*-*

そろそろ約束の時間に成ったので魚屋に戻るとちょうど下ろし始めた所で店先でまた少し待つ事に成った。
若女将に閉まっていた店の事を聞くとさすが情報通。

パペットさんね。
その日、何時まで経っても奥さん（亡くなった方）が来ないと近所の人が集まって居たらしい。
すると自宅を知っている方が直ぐに尋ねに行って見ると亡く成って居たらしいです。
一人暮らしの上、娘さんはカナダに住んでいて連絡が取れなかったとか。

店を続ける事も出来ず閉店してしまうのは年寄りの集まる場所が減った様で少しずつ繋がりが切れている。

妻の女子会

妻の高校時代の友人達が清水で女子会を開いてくれて、会場まで送って行くのだけど車から降りて店先まで歩くのがやっとだった。（約20ｍ）
店先まで来ると中から友人たちが飛び出してきて妻を連れて行くのを見送ると友達っていいなあと思う。

その時の妻の顔は昔の笑顔に戻っていてなんだか嬉しそうでホッとする。
幹事の方に長く座って居られない事と最近体調がすぐれない事を簡単に説明して会にお預けする事にした。

「一緒にどうですか」と誘われたのだけど、私が居たんじゃ妻が楽しめないからと丁重にお断りする。

後は体調を見ながら本人の意向を尊重して、本人の希望で最終的には3時間ほど話の中に居た事に成り、友達パワーの威力を目の当たりにする。（此れが一番の特効薬に思える）

幹事の方が自宅まで送り届けてくれてて、ほっとすると同時に「ただいま」と言う妻の声がいつもと違う張を感じ、またちょっと元気に成ったらしいと思うのでした。（長くは続かない事も知っている）

実は妻の女子会の中に、私の中学時代の部活（吹奏楽部）の後輩が居るので笑っちゃうでしょ。
再会したけれどまったく面影が無くて驚いちゃいます。（お互い様か）