
恋飛脚大和往来/封印切
2001年11月 歌舞伎座
2005年12月 歌舞伎チャンネル
原作は近松門左衛門の人形浄瑠璃。
それを改作して歌舞伎に仕上げたのが、この「恋飛脚大和往来」
近松は物語性を重視していますが、
こちら「封印切」では、忠兵衛が善人なのに対して、八右衛門は完璧な悪人。
文学性、芸術性は低くなるが観ていて面白い作品となっている。(イヤホンガイドより)
WOOOOOーーー!!!
ああ嬉しや。やれ嬉しや。やややややや。
善人・忠兵衛は鴈治郎(現:坂田藤十郎)
悪人・八右衛門は急病の富十郎に替わって仁左衛門!!
やんや!!やんや!!
鴈治郎は”花道の出”からしてまさに上方!!
こんな味誰にも出されへんわっっっ
10日もご無沙汰している遊女・梅川の処へ
フラ~っと来ちゃった忠兵衛
「あかんあかん。大事の金があるんや」(懐に手をあて)
…花道をちょっと戻り…振り返って「でもちょっとだけ会うてこよ~」
格子から手だけだして「おえんさん。おえ~んさん」
振り向くおえん「なんや!びっくりした!誰かと思たら忠さん」
ムムム…おえん役は田之助であった。
上方人ではなかった…。嗚呼片岡秀太郎ー!!
先月の『吉田屋』あの「上方芝居」を思い出した。
松嶋屋三兄弟の!上方和事!完璧!!な!あの!
いくら関西弁を喋っていても、「テンポ」「間」「空気」がちゃいまんねやわ。
こんなこと同郷人じゃないと判らないことは100も承知。
でも、観てて気持ち悪いんや~。
別室で忠兵衛と梅川の逢い引きをセッティングするおえん。
「じゃらじゃらじゃらじゃら言うてんと。どうならどう。こうならこうと早してや」
秀ちゃんのおえんは良かったな~。(1999・4)しみじみ。
梅川は時蔵。
ええ味出してるで。萬屋。
忠兵衛が2階に上がった所へ、花道からッッ!!
悪の華!はッちえもん登-場-!!やんや!!やんや!!
仁左衛門のメイクが面白かったゼ。
目元・眉元が薄墨のような黒で”和事の悪”を醸し出します。
づかづかと店に上がり込み
「ほ~ら、梅川の身請けの金250両や」
と大金をほおり投げる。嫌な奴。はっちえもんっ。
おえんに「そうすかんのはっつぁん。ゲジゲジのはっつぁんに比べて
この店のもんは台所の鼠までチュウチュウ言うて忠さんが好きなんや」
悪口言われても平気な八右衛門。
「梅川も聞いときや」
と忠兵衛の悪口を、あることないこと喋りまくるっっ。
二階の忠兵衛。たまらず階段を駆け下りる。
「あッ。…来てんたんかな。いるなら、いるって言うてくれんと。
わいは、お前がおれへんと思うさかい~」
あいたたた~。という仕種と表情の仁左衛門。
無表情の鴈治郎。
あれだけ登場前に、さんざ言われてると
”いじめられている忠兵衛像”というものが、お客の中に刻み込まれ
舞台に出た時の忠兵衛に対する同情が、客にはたっぷりあるある。
そこで、あの、怒りに震えた表情の鴈治郎!
劇的効果とはこのこと!!まいりました~。
「金は返したやないか!ここに証文もちゃんとある!」
忠兵衛の言葉にホッとする梅川。
ややや。
台詞の無い役者がオブジェにはならずに反応しています!
「金の方が、<八右衛門さん><好きやで>って寄ってくるんや~
忠兵衛。お前はどうや~」
「俺かて金くらい持ってるわい」
身請けの金が用意出来ない忠兵衛は、八右衛門にいびられる。
悔しそうな顔をする梅川。
「お前の金は大和の金とちゃうか。本物か~?。どれくらい持ってるんや
ちょっと、拝ませてんか」
「大和の金もお前の金もおんなじ金や。よっしゃ。見せたる!」
忠兵衛が、そぉっとそぉっと懐から取り出す大金。
皮の袋をチラッと見せて、サッと隠すと
「何や??今のはほんまに金か??音聞かせてんか~
俺のはな。ほら。ええ音するやろ」
忠兵衛…。大切そうに皮袋から取り出し
コンコンコンと優しく叩いては、すぐ懐へ
そうしてクライマックスッッ!!
「その金はほんまにお前の金か?
金のあるのが俺の因果!!金の無いのがお前の因果!!
小判の姿を見せてみぃ!!」
頭真っ白状態の忠兵衛!…封印を!切る!!
「そ~れ100両ッ!200両!!250両!!」
バラバラと忠兵衛の手元から落ちていくお金…お金…お金…
この世の終わりを見るような表情の忠兵衛
つけ打ちの音。
見得を切る鴈治郎。
成駒屋ッッ。大向こうの声声声。
「ほんまに持ってたんかいな。…でもこの金は…」
触ろうとする八右衛門
必死に身体全体で金を隠す忠兵衛
さり気なく、破れた金の包の端を拾い上げ、
何気ない顔で仁左衛門
「総すかんのはっつぁん。ゲジゲジのはっつぁん。いなしてもらいまっさ!」
格子戸をガラガラと閉め、玄関先の明かりで包を確かめ!
はッ!と息をのむ!
花道から脱兎の如く退場する仁左衛門!!
松嶋屋ッッッッ!!!
やんや!やんや!良かったでぇ仁左衛門!!
「ニンにない役」なのかはたまた「線が細いのか」
強烈さはなかったけど、ええ味出してたでぇぇぇぇぇ
店の人々と梅川が喜ぶ中、ひとり虚脱状態の鴈治郎…。
忠兵衛の24歳の若さが裏目に…。
愛する女を取り合ったばっかりに…。
ここから悲劇がスピードアップするのよ!!
ワクワクしておりましたら…。
なななんと!
客がチラホラ帰り始めたッッ!!
それも、1階の前の方に座っている奴らがッッ。
オイッ。ちょっと待ったれよ!
ここから鴈治郎の名演技が観れるんやぞ!!
どーやッ!観たかッッ!
<上方和事>の真髄は<上方人>にしか出来んやろッ!
鼻高~になっていただけに…、その仕打ちはショックやわ~。
「もう良いわ。帰りましょ」
ラスト10分を観ずに帰る客がッ!1等席で!5、6人もッ!
阿呆~。大阪・京都ではこんな事絶対にないゾゾゾ!!
なんか…信じられない光景を目撃してしまった…。
話はつづく…
「西の門で待っているんやで…」と梅川を急かす忠兵衛
店の皆に「嬉し涙さま。嬉し涙さま」と囃されて
「嬉しいやら…悲しいやら…」と呟く梅川…。
後に残った忠兵衛は、おえんに金を渡し
「ねんごろに供養…」と言いかける…。
門口でおえん「忠さん。また近いうちに」
忠兵衛、花道で思い入れ…振り向いて
「…近いうち…」
…よたよたと歩き出す忠兵衛
…歩いては、立ち止まり…またよたよたと歩き出す…
柝の音と共に…去っていく忠兵衛…。
幕
くううううううううううううう
花道の引っ込みを最後まで観れる。この幸せ!
思い入れたっぷりの鴈治郎の引っ込み!!
ラストシーンはこうだったのか!
3階席からは到底知れない!この!引っ込み!
ああ…涙…涙…。
仁左衛門と鴈治郎の台詞の応酬!!
漫才にも聞こえる話の中の<上方歌舞伎としてのテンポ>
これが、<確かな上方和事>の真骨頂~!!
とっても、とっても、すんばらしいじゃ~あ~りませんか!
毎日でも観たかった!!
役者交代というアクシデントがあって、暫くは凄い緊迫感があっただろ~な~。
でも、役者達は楽しんだことでしょう。
忠兵衛役は鴈治郎が当代一。
目の前!しかも1階!で観て、
「出」から「引っ込み」までぜ~んぶ目にしたおかげで、
バリバリ納得っっ。
この、昼の部上演の『封印切』の後が
当月夜の部に上演される『新口村』…
これ観てから、夜も観る客の割合って、いったあいどれくらいなわけ?
松竹も変な商売ッ気出さずに、純粋に続けて上演すれば良いのに。
そうしたら作品の素晴らしさが判るのに。
松竹の大馬鹿もんっっっ!!!!
でも!私は!続けて!夜に部へ!!
突入する!!そんな!千秋楽であった!!
>鴈治郎は”花道の出”からしてまさに上方!!
>こんな味誰にも出されへんわっっっ
ホントにそうですね!
今年1月の浅草歌舞伎で成駒屋型・松嶋屋型の「封印切」が出ましたが、誰が教えたか
一目瞭然でしたね。
文楽の「冥途の飛脚」は作者が異なりますし全く別作品ですね。梅川・忠兵衛・八右衛門の3人の心理の絡み合い・・。
私は八右衛門が帰り際に梅川に言う「梅川殿、へゝよい男持つてお仕合せ」に何もかも
見通した上での強烈な皮肉を込めた冷徹な言い方にいつも背筋が凍りつきます・・。
見通した上での強烈な皮肉を込めた冷徹な言い方にいつも背筋が凍りつきます・・。
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八右衛門が帰り際に梅川に言う詞「梅川殿、へゝよい男持つてお仕合せ」があります。
何もかも全てお見通しであろう(多分)八右衛門の
強~烈な皮肉を込めた冷徹な物言いに、私はいつも背筋が凍りつきます・・。
に以上訂正します。スミマセン。
最初は忠兵衛が持っているはずがないと絶対確信していたお金を、持っていた!そんなはずはない!でも、いくら何でも公金に手はつけないだろう。じゃあ、自分の金か?いや、まさか!だからこそ金包みの紙切れをこっそり持ってきて確かめた。店を出てから公金だと知り驚愕!解釈の違いでそこのところでどれくらい「驚愕」するかが違ってくると思うのです。
はじめまして。
私が紛らわしい書き方をしてしまいスミマセン。
上記の八右衛門は近松原作の「冥途の飛脚」の
八右衛門の詞章で、文楽版八右衛門の事を
書いたつもり・・なんですが。
歌舞伎版「恋飛脚大和往来」の八右衛門は
喜の字さまがおっしゃる通りだと私も
思っております。
文楽版をご存知だとは思いますが、文楽版の
八右衛門は歌舞伎のように紙切れを外で見たりする
所作はなく、梅川に「良い男持ってお仕合せ」と
声を掛け遊女らと店を出て行きます。
素晴らしいブログですね~。
私は、ミーハー演劇好き且つ、歌舞伎永遠の初心者なのです。
これからも時々覗かせてくださいませ。
寝ぼけマナコで書き込みしたので
名前が違ってます。自分の名前を間違うとは
焼きがまわりました
私は文楽はまだ3回しか見たことがなく、「冥土の飛脚」はまだ見ていないのです。でも高校の古典の教科書に「冥土の飛脚」の「新口村」が載っていて、その頃もう歌舞伎が大好きだったので大喜びして丸暗記したのです。(今を去ることン十年前、今では忘却の彼方に、ですが。)授業的にはマイナーな分野で試験にも出ませんでしたけれど。でもその良い調子、本当にうっとりしました。でも「恋飛脚大和往来」は少し違うからつまらない。「冥土の~」のほうが良いですよねえ。
それで、話は戻りますが、そうなると「良い男持ってお仕合わせ」というのに背筋が凍るというのはとてもよくわかります。人形の方が怖さを感じるというのが。歌舞伎だと八右衛門はどこか憎めない要素がありますものね。火鉢にカチカチカチなんてね。「曽根崎」の誰だっけ?九平次とはだいぶ違いますよね。
戸浪様、喜の字様、楽しい意見交換ありがとうございました。
私は、文楽だといつも寝てしまうんですヨ~。いつか、きちんとこの目で観たいもんです(笑)
くりすぴぃ~ぬ様
私も永遠の初心者です。どうぞ宜しくお願いします~。
ただ、こんな事言うと嫌味みたいですが、昔見た舞台って目に焼きついて絶対に忘れないんですよ。ボーっと観ててもね。先月観た舞台よりもずっと鮮明です。脳が若かったということでしょうか。
それから、戸浪様、「饅頭娘」って「伊賀越道中双六」のあだ討ちの資格を得る為に不自然に結婚させられる小さい娘のことなんですね。この間の国立劇場での通しも、我當と鴈冶郎がどっちも似たような体型の上にどっちも二役やったのでイマイチ筋がね。いやはや。もちろん「沼津」はあくまでも「沼津」ですから忘れやしませんが。
>饅頭娘」って「伊賀越道中双六」のあだ討ちの資格を得る為に不自然に結婚させられる小さい娘のことなんですね
はい、そうですね。政右衛門(又右衛門)との
婚礼で杯事より「饅頭が食べたい」と言い
政右衛門が一個では幼女(確か、おのちという
名前だったか?)には多いので半分づつ食べ
杯事の替わりとした事から上記のように
呼ばれているようですね。
「沼津」は良く出来た芝居だと思います。
歌舞伎・文楽ともに数回観ていますが
マイ・ベスト「沼津」は今年2月の文楽
公演です。文楽に軸足を置いている
私の贔屓の引き倒し~もあるのをご承知
下さいねぇ(アッハハ)