アッパレじゃ!

大好物は舞台観劇♪ようござんすか?ようござんすね。”私見”バリバリ入りますっ!ネタばれアリアリ~。

黒塚

2005年07月28日 | 歌舞伎
1995年7月 歌舞伎座
2000年6月 NHK猿之助奮闘公演
2005年7月 歌舞伎チャンネル

猿翁十種の内 黒塚(くろづか)

めぐりくるくる車の糸は、長きよすがら誰を待つよ


三日月が耿耿と照る秋の夜。ここは奥州安達原。
人里離れたあばら家に老婆が独り…。
道に迷ってやって来た高僧達に、老婆は泣きながら語ります。

「私を裏切った夫と、この世を呪って生きてきました。
でも、人を恨んだ罪は重いでしょう…」

「どんな人間でも、仏の力にすがれば成仏出来るのですよ」

高僧のその言葉に心が軽くなった老婆は、
彼等に暖かい夜を過ごしてもらおうと、

「奥の部屋は決して見ないで」

そう言い残して、薪拾いに出掛けます。

「…見るなと言われれば見たくなるもの」

そっと、月明かりに覗いてみると

「た、大変ッ。死骸の山…あっちには腕、
こっちには足…あたり一面血汐の海ッ!」

「さては噂に聞く鬼のすみかかッ!」

何も知らない老婆は、薄ヶ原でこれまでの悪行を反省し、
清々しい気持ちで影と戯れて踊っています…。
そこへ、慌てて走ってきた客人の一人が老婆に突きあたり、

「逃げる方角を間違えたッ!南無阿弥陀仏…」

「さては約束を破ったな!」

老婆は憤り、憎しみのうちに、
怖しい人喰い鬼女の正体を現して怒り狂うのです。

しかし、高僧一行の必死の祈りと法力の前に、鬼女は遂に力尽き、
夜の闇に紛れて何処へか消え去るのでありました。 


歌舞伎舞踊の中には、能や狂言を題材にした作品がいくつもあります。

この「黒塚」は、安達原(福島県二本松市)の鬼女伝説から成立した
能の「黒塚」(「安達原」)を長唄舞踊化したものです。

琴、尺八を加える斬新さと、ロシアンバレエのトゥダンスや回転、跳躍といった、
要素を取り入れるモダンさで、全く新しい舞踊劇となっています。

舞台上にはデフォルメされた三日月が大きく浮かび、
その明かりが、一面に敷き詰められた本物の薄群のリアリティを照らし出して、
見事に物語の世界を創りあげています。

昭和三十八年。病に倒れた祖父市川猿翁の代役に、二十二才の若さで立って後、
跡を継いで鬼婆を演じている市川猿之助はこう言っています。

「人間は、皆家の中に大量の死骸を置いている。
死骸とは、外では決して見せられない数々の表情である」


猿翁十種の内「黒塚」(新舞踊劇)
 作者:木村富子
 作曲:四世杵屋佐吉
 振付:花柳寿輔
 初演:昭和十四年(1939)


☆あくまでも主観で書いたものです。特に他意はありませんので平に容赦下さい。