息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

十二月八日

2012-12-08 10:17:18 | 著者名 た行
太宰治 著

ひとりの平凡な主婦の日記の形で、開戦の日を語る。

多くの人がこの日のことを語り、書いている。
それは上海であったり、宮家であったり、軍隊の中であったり
それぞれなのだが、本書も含めて共通するものは高揚感ではないか。
勝ちいくさが続き、日本も大きくなった強くなったという自覚が
国民の中に芽生えている。
そして大国アメリカを敵に回すことへの不安感が、国民の一致団結や
悲愴な愛国心へと形を変えている。

本書もそうであるが、結構のんきだ。
あえて明るく振舞う、というのもありそうだが、目の前の現実では
まだ何も起こっておらず、ただラジオが勝利を華やかに伝えるのみ。
だからこそ細々と書かれる生活の様子が面白い。

既に物資は不足しつつあるのか、食料もあまり種類がないようだ。
烏賊と目刺しかない、とある。
そして自分の履物を買おうとして、今月から三円以上二割の税がつく
ことを知る。そうか、こうやって戦争の費用を捻出していたのね。
二割って結構すごいんですけど。
清酒は配給で、瓶を持参して取りにいったり、
既に灯火管制が行われ、銭湯の帰り道が真っ暗だったり。
現在の感覚でいえば、かなり不自由な状況があったわけだが、
人々はしばらくの辛抱ののちには勝利があると信じていたのだろうか。

著者は女性目線の文章が本当にうまい。
そしてそのときは、ものの見方まで女性となっていると思う。

戦争は第一線の激しさ悲惨さも伝えるべきものだが、好むと好まざるに
かかわらず巻き込まれたごく普通の人々の話が胸を打つ。
この先にある暗い未来を彼女がどう生き抜くのか。
そんなことまで考えてしまう。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿