息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

凸凹デイズ

2012-03-05 10:29:42 | 著者名 や行
山本幸久 著

働くっていいな、って素直に思える一冊。
安定とか給料がいいとか、それ何のことですか?って感じの
デザイン事務所を舞台に、仕事に向かい合うそれぞれの立場が
描き出される。

醐宮、大滝、黒川はデザイン事務所“凹組”の立ち上げメンバー。
しかし切れ者の醐宮は自分の会社を立ち上げ社長となっている。
変わって凹組に参加しているのが凪海。
とてつもなく厳しい労働条件と、同棲していた彼に逃げられるという
悲劇を背負いつつ、おっさんデブ二人とともに働く毎日。
すごく軽やかな語り口の中で、リアルな仕事の日々がつづられる。

私は小さな編集プロダクションを経験している。
規模の割にはすごく恵まれた環境だったのだが、小さいなりの大変さは
とてもとても!共感できる。

読み捨てられる小冊子にも、手にするだけのパンフレットにも
いろんなドラマがある。自分が作ったものは無条件に可愛い。
そしてクライアントが神様である以上、理不尽な理由ですべてが
ひっくり返されることも珍しくない。
こっちがいいかなと思って、という理由で、窓口の担当者が
勝手にいじった文章を、クライアントからこんなものプロの仕事ではないと
罵倒されたこともある。

そして小さいところほど労働量と報酬は比例しない。

それでも働くことには楽しさがある。
それはクリエイティブだからではない。
凪海の母は父が定年になったのを機にファミレスでパートを始めた。
「働くって楽しい」と無邪気に言う彼女は労働の貴さを知っている。
そしてそんな母に負けないと頑張る凪海もまたそうだ。

変わり者ばかりの凹組関係者だが共通点はそこにある。
一生懸命さはあるときは不器用でそれでも魅力にあふれている。

折々に登場する広告代理店の磐井田がすごくいい味を出している。
彼なりの仕事への姿勢がまたいい。
ずっと大切にしている版画への想いもまた、いい。

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