息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

秋の牢獄

2013-04-15 10:37:00 | 恒川光太郎
恒川光太郎 著

時の流れ、空間のありか、当たり前と思っていることが、
そうではなかったら。
独特の世界観をもつ著者が紡ぐ3つの物語。

表題作は11月7日水曜日を繰り返す女子大生・藍。
何をしてもどこにいても、気がつけば自室のベッドでその朝を迎える。
焦りと不安、苦しみのどん底の中、彼女は隆一に見つけてもらう。
彼は自分たちのことを「リプレイヤー」といい、仲間たちが集まる
公園へと連れて行ってくれた。
藍が一人ではないと感じたときの安堵はすごい。

11月7日水曜日を繰り返すさまざまな人々。
お互いの虚しさや苦しさを語り合いながら、つながりが生まれる。
藍にとってその日は特別ではなかった。しかし、妻の浮気を確認した日、
職場で疎まれている日である人もいる。それは延々と繰り返されている。

お金を使い果たしても、遠いところにいても、どんな状態でも
必ず次の朝リセットされるという特性を逆手にとり、彼らは旅をし、
時をともにした。

しかしそこに忍び寄る北風伯爵の影。
彼が一人ずつリプレイヤーを連れ去るというのだが、それが真実なのか、
消えた人々がどこに行ったのかはわからないままだ。

結局藍たちは一人ひとりに戻る。
刹那のときはいつまでも続くものではないらしい。
ただ、あれほどに怯えていた藍が、友人がリプレイヤーになったことを
知ったとき、手を貸すことなく突き放したことに、その心情を察した。

その他の2篇も力作。
さすがに恒川光太郎、という作品ぞろいだ。

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