息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

行人

2013-04-16 10:59:38 | 著者名 な行
夏目漱石 著

彼岸過迄』に続く、後期三部作の二作目。

「友達」「兄」「帰ってから」「塵労」の4篇からなり、知識人と自負する
男とその妻のすれ違いを描く。

学者の一郎は、妻を信じきれず、そんな自分に苦しんでいる。
そして弟の二郎に妻を試してくれと頼む。
根負けした二郎は、義姉と嵐の中で一夜を過ごすが、一郎はその後
あきらかにおかしくなっていく。

学問を生きがいとし、両親からも妻からも理解されないことに苦しむ一郎。
愛情はあるのに表現するすべを知らず、試すようなことばかりを
してしまう。

まったくめんどくさい男だ、という感じだ。
しかも弟まで巻き込み、はた迷惑なことこの上ない。
それなのに、不器用にそんなことをするしか解決方法を知らない
一郎の姿は哀しい。
コミュニケーションの方法を身につける機会を逸し、心を通わせられない
男は、どうしたらいいか分からず、己の中でひとり葛藤している。

死ぬか、気が違うか、宗教に入るか。
一郎が言う彼のこれからは、なんとも絶望的だ。
しかしそのひとつすら選べない苦しさを込めてこの言葉が出てくる。

本作が書かれた当時よりも現代の方が、同じ気持ちをもち苦しむ人が
多いのではないか。
なんともやりきれないこの気持ちは、人間がある程度の教養をもち、
あす食べるものに困らないからこそ生まれる、文明病なのかもしれない。

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