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風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

韓国政界の闇

2018-04-09 01:40:26 | 時事放談
 朴槿恵・前大統領の一審判決で、ソウル中央地裁は懲役24年、罰金180億ウォン(約18億円)のの実刑を言い渡した。収賄や職権乱用、強要など18の起訴事実の大半を有罪と認定したという。また先月には、前任の李明博・元大統領が収賄容疑で逮捕された。
 かねがね韓国大統領の末路は悲惨と言われるが、まだ確定していないとはいえ、この国のありようは異様と言うほかない。2016年11月5日の朝鮮日報によると、「1993年の文民政権発足以後に誕生した5人全て(当時)の大統領が、任期末期から退任後にかけて『大統領になったことを後悔する』という趣旨の発言をしている」(Wikipedia)という。二つ問題があるように思う。
 一つは、大統領個人の、というよりも、大統領=絶対権力者をとりまく構造的問題である。BBCは、「朴前大統領のスキャンダルによって、韓国の政治エリートと韓国経済で圧倒的な力を持つ『チェボル(財閥)』の密接なつながりがあらためて浮き彫りになり、批判の対象となった」と報じているが、韓国の政・官・財の支配階層における腐敗として曖昧に捉えれば、李氏朝鮮の時代から連綿と続く歴史的問題ではないかと思う。
 朝鮮社会で問題とされる「両班」は、高麗の時代には、官僚制度の中で文官を「文班」、武官を「武班」、両者を併せて「両班」と呼んで、官僚制度を意味したが、李氏朝鮮の時代に旧弊を改める制度改革を通して、官僚登用試験である「科挙」を受けることが出来る身分を指すようになる。日本では根付くことがなかった「科挙」は、三年に一度しか行われず、四書五経の膨大な知識が必要なため、中国では最盛期には競争率3000倍、最終合格者の平均年齢36歳だったとされるように、相応の経済力がなければ太刀打ちできず、一族に優秀な子供がいれば一族をあげて経済的に支援し、合格の暁には特権のおこぼれに与かるという伝統があったことで知られる。こうして特権階級化し腐敗するのは朝鮮半島においても同様だったようだ。やがて「両班」を筆頭に、「中人」(翻訳技術、医学・陰陽学などの特殊な専門技術職)、「常民」(農・工・商)、「」と言う四段階の身分制度ができあがった(こうして見ると徳川時代の士・農・工・商は上下の身分制と言うよりヨコの機能分担の色合いが強い穏やかなものという印象を受ける)。そして、李氏朝鮮の国教になった儒教の教えのもとで労働行為そのものが忌み嫌われるようになり、「転んでも自力では起きない」「箸と本より重いものは持たない」と言われる所謂「両班」が形成されるとともに、富を奪う身分と奪われる身分に二分されて、(徳川時代に花開いたような)庶民文化・教育・伝統・芸能・職人の技術・労働意欲などは育つことはなかったと言われる。
 韓国では、今でも「志操の高い精神構造を両班精神、両班意識などと呼んだりする」(Wikipedia)らしいし、産業基盤の裾野が乏しく、中小企業が育っていないのは、そもそも職人の技術への敬意が育っていなかったからであろうし、現代の特権階級である官僚や財閥企業を目指す受験戦争の厳しさは「科挙」を彷彿とさせるし、中国の格言である「昇官發財(官吏になり、財産を築く)」、つまり「官僚となって任地や担当分野の許認可権を握れば、賄賂や付け届けによる多額の非公式な収入が得られるのが当然」(Wikipedia)とするような考え方は、小中華を自任した朝鮮の面目であって今も脈々と生き続けいてると思わざるを得ない。
 もう一つ、韓国という国のありようが異様だと思うのは、党派対立の激しさであろう。朴槿恵被告は、昨年10月16日の公判を最後についぞ法廷に姿を見せなかったが、この時、勾留期間が最長6カ月延長されたことに対して、「受け入れられない。法治の名を借りた政治報復は私で最後になるよう望む」と批判した。李明博被告も、捜査について、文在寅大統領の左派政権による旧保守政権への「政治報復だ」として強く反発している。
 調べてみると、
 初代(~第3代)・李承晩は1960年の所謂4・19革命で失脚しハワイに亡命。
 2人目(第4代)尹潽善は1962年の5・16軍事クーデターで国家再建最高会議が政権掌握したことに抗議し任期満了前に辞任。
 3人目(第5~9代)朴正煕は1979年に暗殺。
 4人目(第10代)崔圭夏は1980年の全斗煥・盧泰愚らによる5・17クーデターにより軍部に政権を掌握されて辞任、大統領経験者としては唯一本人・親族ともに難を逃れているのは、単に在任期間が8ヶ月と歴代最短だったからだろうか。
 5人目(第11~12代)全斗煥は1988年の退任後に不正蓄財と民主化運動弾圧の罪で逮捕され無期懲役(後に特別赦免)。
 6人目(第13代)盧泰愚も1993年の退任後に同じく不正蓄財と民主化運動弾圧の罪で逮捕され懲役12年(後に特別赦免)。・・・と、軍政下でなかなか激しいのは、理解できなくもない。
 7人目(第14代)金泳三は初の文民政権で、次男が斡旋収賄と脱税で逮捕(後に特別赦免)。
 8人目(第15代)金大中は在職中に3人の息子を含む親族5人が権力を悪用した不正蓄財で逮捕(後に次男と三男は特別赦免)。
 問題の9人目(第16代)盧武鉉は、税務職員だった兄が収賄で逮捕され、妻と自身も在任中の収賄疑惑により退任後に捜査を受け、2009年4月の訴追直前の出頭要請前に投身自殺した。文在寅大統領は、弁護士として市民運動や人権運動に参加した後、2002年12月に行われた大統領選挙に盧武鉉が立候補した際、釜山地域における選挙対策本部長を務め、盧武鉉政権では大統領側近として活躍、常に盧武鉉の側にあったことから「盧武鉉の影法師」の異名をとるほどだった。
 そして10人目(第17代)李明博、11人目(第18代)朴槿恵と続く。
 BBCは7日付“Park Geun-hye: Poisoned chalice of South Korea's presidency”と題する記事の中で、何故、韓国政界に腐敗が多いのか?と疑問を呈した上で、1960~70年代に朴正煕元大統領が「漢江の奇跡」と後に呼ばれる高度経済成長を実現した経済政策は、かつてのソ連の計画経済をモデルとする開発独裁であって、伝統的に財閥や国策企業を通じて政治(国家)主導で産業育成を図ってきたことが背景にあり、政治(国家)が経済から身を引かない限りスキャンダルは続くだろう、といった内容の分析を紹介している(Many believe the tradition of the South Korean government taking a strong role in leading the economy is one of the major contributing factors. South Korea's modernisation was only kick-started in the 1960s and 1970s with dictator Park Chung-hee directing the heads of family-run conglomerates known as chaebols to establish industries. "Until the state steps back from the economy, such scandals will continue." he told the BBC.)。
 世界の国は、古代・中世・近代・現代と大体四階建てに歴史が積み上がっているが、中国は古代と中世はあるが近代がない、と喝破されたのは日下公人さんだった。中国は二階(中世)から四階(現代)へ駆け上がるのに、三階部分は縄梯子になっていると懸念される。韓国に至っては一階(古代)から四階(現代)に駆け上がるのに、二階、三階部分は縄梯子すらないと突き放しておられた。縄梯子というのは、歴史的経験の厚みがないことの比喩であろう。韓国大統領の悲劇の末路や、慰安婦問題や歴史認識問題を通して看取される反日・侮日・用日の発想など、韓国の政治のありよう、あるいは民主制が危うく見えるのは、国家(政治)としての成熟が遅れているからだと思わざるを得ないのは、四階建ての歴史をそれぞれまっとうに歩んできた日本だからこそ感じることなのだろう。日韓関係の難しさはこの感覚のズレにあるように思う。
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