常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

梁上の君子

2014年09月03日 | 日記


梁上の君子と語る夜寒かな 夏目 漱石

夜の気温が20℃を切って、タオルケットでは寝冷えするのではないかという気候である。秋の夜長は、漱石の俳句を繰るのが面白い。梁上(りょうじょう)の君子という故事を俳句に取り込んだところが、読みなれた俳人とは違うところだ。『後漢書』という中国の古典に出てくる話である。太丘県の長に陳寔という人がいた。ある夜、陳寔が部屋で本を読んでいると、男が忍びこんで梁の上にうずくまった。

陳寔が気づかぬふりをして、部屋に子や孫を呼び寄せて語り始めた。「いいかな人は生まれながらに善良なのだ。だから自ら勤めて不善に陥らぬようにしなければならない。悪人も最初から悪人なのではない。悪い習慣がつけば悪人になる。たとえば今梁の上に隠れている君子がそれだ。」この話を聞いた盗人は、心をうたれ梁から降りて、床に頭をすりつけて謝った。陳寔はこれを許し、絹二疋を与えて放免した。梁上の君子が盗人と同義あることはこの話から出ている。転じて鼠をさすようにもなった。

漱石の句はまさか屋根裏の盗人と語ったのではあるまい。屋根裏をがたがたと騒ぐ鼠に声をかけたのだろう。「おいおい、そう騒いじゃあ寝られないじゃないか。少し静かにしてくれよ。」と。かつての日本家屋には、鼠が這い回る隙間がいたるところにあった。密閉された新しい家屋には鼠の入り込む余地はない。かくして「梁上の君子」は死語となった。


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