雪に遊び、歩くことに癒される日々。人には心に抱く様々な思いがある。年を重ね、明日を思いながらも浸るのは、遠い故郷の思い出。戦中、西川町の岩根沢に疎開した丸山薫に、こんな詩がある。
言葉なき愛 丸山薫
山の高い嶺のあたり
ふりつもつた厚い雪の上や
陽を浴びてかたむく木の下をとほるとき
ふと想ひ起す
いまは亡い母や
家に在る妻のことを
また世のゆきずりに出遭つて
すぐ迹形もなく離れ去った女性達の
つつましく小さなこころづくしを
それら自然の中に寂びて
風のやうにも ときに吾が心に鳴りきたる
言葉なき愛の思い出―
雪深い大井沢の山中を歩きながら、詩人の心に去来し、鳴りひびくもの。それは九州の故郷で出会った女性たちの、言葉に出さない愛の思い出であった。