垣根にカラスウリの花が咲いた。派手さはないが、白い花弁に尻尾のような毛をつけている姿は、見るほどに不思議な花だ。図鑑では、夜にだけ咲く花と解説されているが、撮影したのは9時ころで、午前中はまだ花は咲いたままであった。夕方、電灯のスイッチを入れたように咲くのは、夜行性の蛾を集めるためであるらしい。ユーチューブに開花の瞬間を捉えた動画がアップされている。寺田寅彦に『からすうりの花と蛾』という随想がある。
「からすうりの花は「花の骸骨」とでもいった感じのするっものである。遠くから見ると吉野紙のようでもありまた一抹の煙のようでもある。手に取って見ると、白く柔らかく、少しの粘りと臭気のある繊維が、五葉の星形の弁の縁辺から放射し分岐して細かい網のように広がっている。つぼんでいるのを無理に指先でほごして開かせようととしても、この白い繊維は縮れ毛のように巻き縮んでいてなかなか思うように延ばされない。しいて延ばそうとするとちぎれがちである。それが、空の光の照明度がある限界に達すると、たぶん細胞内の水圧の高くなるためであろう。螺旋状の縮みが伸びて、するすると一度にほごれ広がるものと見える。」
寺田の観察眼は、いつも微細を究め、読んでいて説得力がある。花が咲ききると、カラスウリが無線電話で招集したかのごとく、蛾があちらから、こちらからと飛んで来て、花の蜜をせせる。蝶々と比べると、蛾はどちらかと云えば気味が悪い。妙齢の女性などは、蛾を見て大騒ぎすることもあるらしい。寺田寅彦の家の飼い猫は、蛾を捕らえる名人であった。飛び上がったと思うと、両手で蛾を叩き落とし、空腹のときにはむしゃむしゃと食べてしまう。