
2日目。種池山荘の夜明けは、雲がとれ、今日登る爺ヶ岳が青空の中に姿を現した。山小屋の窓から外を見た仲間たちの歓声があがる。リュックの整理も弾む心に順調に進んだ。東の空がわずかに朝焼けが見られたが、眼下に雲海が広がった。朝の光が十分のまわらない爺ヶ岳の斜面に、これから登るジグザグの登山道がわずかに見えている。目を左に転ずれば、鹿島槍の南峰と北峰、それをつなぐ吊尾根が見えている。高度を上げるに従って表情を変える北アルプスの峰々。後方をみれば、剣岳の奇観が目に飛び込んでくる。

雲表に抽んでた
双頭方峰・・・
標を張れば
さながら
霊地・二見ヶ浦の
夫婦岩だ (藤木九三)
リーダーが拘ったこの山行一番の見どころは、吊尾根から見る岩峰南峰の雄姿と北峰から見る八峰キレットを経る五竜岳への道だ。途中、キレットを越えて南峰へ来た一登山家に出会った。飄々としたその表情には、北アルプス一番と言われる難所を越えてきた高揚感を感じさせない。我々はそんな境地に入るべくもないが、多少足の弱い女性2名を南峰に残して8名が北峰の頂上に立った。大きな荷物を今夜泊まる冷池山荘に残して、サブザックで登ったことも大きなことであった。重い荷物を長く背負っていると、身体全体、特に足にダメージが来る。

急峻な南峰の岩峰をカメラに収めようと試みた。肉眼のカメラの角度ではこれほど実感が異なるものか。登山ガイドには、ほとんどが南峰までが最終目的になっている。また触れてあっても往復50分ぐらいとの記述しかない。吊尾根の中間にある雪田で小豆氷を食べると美味という記述があった。しかし、高齢者である我がパーティにとっては、スリルと緊張感に満ちた場所であった。リーダーの拘りに感謝するほかない。
