
北で低気圧が発達し、冬型の気圧配置になって、強風が吹いた。夜、建物の角に風が当って、笛の音のような音がでる。一般の家屋では、柵や垣根に当って出る音であるが、高層の建築物に当る音とはだいぶ異なった趣だが、これも大きな意味では虎落笛ということになる。万葉時代の殯(もがり)の宮は、死者の遺体を安置する仮喪で、ここで演奏される歌は、挽歌で死者を送る合唱歌であった。今日、葬送のあたって僧侶の読むお経が、この挽歌にあたあるものかも知れない。
建物当ってでる笛のような音と、挽歌ので貴人を送る葬送の合唱曲とは、ほとんど関係がないもののようだが、眠りのなかで聞いていると、もの悲しい口笛のように聞こえないでもない。オイゲン・クロアサンの詩に秋と題する詩がある。
けふつくづくと眺むれば、
悲しみの色口にあり。
たれもつらくはあたらぬを、
なぜに心の悲しめる。
秋風わたる青木立、
葉なみふるひて地にしきぬ。
きみが心のわかき夢
秋の葉となり落ちにけむ。
上田敏博士の翻訳による。オイゲン・クロアサンは19世紀末のドイツの叙情詩人である。上田敏訳詩集『海潮音』所収。この訳詩集が明治以降の日本詩壇に与えた影響大きい。「秋の日のヴィオロンのためいきの身にしみてひたぶるにうら悲し」こんな詩句に魅入られ、当時の青年は、秋の風景に、そこはかとないうら悲しさを感じていた。
