みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0172「おねだり」

2018-03-04 18:57:27 | ブログ短編

 休日の朝、娘(むすめ)は猫(ねこ)なで声で父に話しかけてきた。父には分かっていた。娘がこういう行動(こうどう)をとった場合(ばあい)は、何かをねだるつもりでいるときなのだと。そこで、父は先手(せんて)をとった。
「ダメだぞ。絶対(ぜったい)にダメだ。お前にはまだ早い」
「まだ何も言ってないじゃん」娘はもっと可愛(かわい)く、父の愛(あい)を揺(ゆ)さぶるように続けた。「だって、みんな持ってるし。あたしも欲(ほ)しいんだもん。ねーえ、いいでしーょ」
 父はこれしきのことでは動揺(どうよう)しない。ここは、父としての威厳(いげん)を見せなければならない。
「いいか、みんなが持ってるから欲しいなんて、そんないい加減(かげん)な気持(きも)ちで…」
「じゃあ、あなた」朝食(ちょうしょく)の支度(したく)をしていた妻(つま)が口を挟(はさ)んだ。「昨日(きのう)言ってたあれも…」
 父は、まさかここで妻が参戦(さんせん)するとは思っていなかった。しかし、ここで退(しりぞ)いては、威厳どころか今の地位(ちい)も危(あや)うくしかねない。
「お母さん、あれとこれとは話が違(ちが)うからね。今はこっちの話だから…」
 そこは夫婦(ふうふ)の間のこと、娘の前ではお互(たが)いに平静(へいせい)をよそおわなければならない。妻もそこのところは分かっていたようで、クスッと笑って退散(たいさん)した。
「じゃあ、いいもん。お母さんに頼(たの)むから。ねえ、お母さーん」娘は矛先(ほこさき)を母に向けた。
 父は、娘との距離(きょり)が遠(とお)のいたような、淋(さび)しい気持ちに襲(おそ)われて娘を見つめた。
<つぶやき>娘を持つ父の気持ちは複雑(ふくざつ)なのかも…。娘には幸(しあわ)せになってほしいのです。
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