「ほんとに嫌(きら)いなの?」愛実(まなみ)は悲しそうな顔で言った。
「ああ、あんなののどこが美味(うま)いんだ」剛(たける)はしかめっ面(つら)をしてみせた。
「じゃあ、あたしに任(まか)せて。絶対(ぜったい)に好きにしちゃうから」
次の日。愛実はいろんなトマト料理(りょうり)を作って剛の前に並(なら)べ、楽しそうに言った。
「ちょっと頑張(がんば)っちゃった。食べてみて。どれも美味(おい)しいのよ」
「嫌味(いやみ)かよ。俺(おれ)はトマトは嫌いだって言っただろ」
「だって…。ほんとに美味しいのよ。一口でいいから、食べてみて」
「誰(だれ)が食べるか!」剛はかたくなに拒否(きょひ)した。
愛実はうつむいて身体を震(ふる)わせる。剛が横目(よこめ)で見ると、彼女は泣(な)いていた。
「泣くようなことじゃないだろ。もう、いい加減(かげん)にしてくれよ」
「だって…。だって、トマトが嫌いな人がいるなんて…」
「わかったよ。食べりゃいいんだろ。食べりゃ…」
剛はやけくそになって、料理を口いっぱいにほおばる。その様子(ようす)を見つめる愛実。
「どう? 美味しい?」
「まあ…。不味(まず)くはないよ」剛はぶっきらぼうに言った。
「わぁ、よかったぁ」愛実の顔にお日様(ひさま)のような笑顔が戻(もど)った。
<つぶやき>男の無器用(ぶきよう)な優(やさ)しさなのかも。素直(すなお)に言葉で表(あらわ)すことが苦手(にがて)なんでしょうね。
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