「僕(ぼく)は、あなたを連(つ)れ戻(もど)しに来たんです。すぐに会えてよかった」
典子(のりこ)の家で傷(きず)の手当(てあ)てを受けながら男は言った。彼女は嬉(うれ)しくて涙(なみだ)が出そうになるのをグッとこらえて、微笑(ほほえ)んだ。これでやっと家族(かぞく)に会うことが出来る。彼にも…。
「本当(ほんとう)に帰れるんですか? 私、帰れるんですね」
疑(うたが)っているわけではないのだか、彼女はまだ信じられないのだ。男は肯(うなず)いて、
「もちろんです。さあ、行きましょう。もう、あまり時間がないんです」
「はい。でも、少し待って下さい。荷物(にもつ)をまとめて…」
「そんな時間はありません。急(いそ)がないとあいつらに――」男は突然(とつぜん)口をつぐんだ。そして、何かを誤魔化(ごまか)すように彼女の手を取り、「さあ、行きましょう」
二人は家を出ると、外に停(と)めておいた車へ向かった。そして、乗り込もうとしたその時、どこからともなく叫(さけ)び声がして、目の前に大きな黒いものが飛び出してきた。毛むくじゃらのその生き物は男に襲(おそ)いかかり、男は数メートル跳(は)ね飛ばされた。典子は足がすくんで声も出ない。その生き物は彼女を見ると、のそのそと近づいて来た。典子は後退(あとずさ)る。その時、車のエンジン音が聞こえた。一瞬(いっしゅん)の間(ま)もなく、男は猛(もう)スピードで車を発車(はっしゃ)させた。
――いつの間にか動物たちに取り囲(かこ)まれて、典子はその場にしゃがみ込むしかなかった。
<つぶやき>典子はどうなるのか。男は助けに来てくれるのでしょうか。彼女の運命(うんめい)は?
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