徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:林真理子著、『みんなの秘密』~第32回吉川英治文学賞受賞作

2018年01月20日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

林真理子の本3冊目は、1998年第32回吉川英治文学賞受賞作の『みんなの秘密』。受賞からちょうど20年ですね。内容で時代を感じさせるものがあるとすれば、登場人物たちの連絡方法くらいだと思います。それ以外の人間ドラマ、人妻の不倫、夫の浮気、親子問題、兄弟問題、嫁姑問題、ご近所問題などはそうそう変わるものでもないのではないでしょうか。

先に読んだ『不機嫌な果実』と『葡萄が目にしみる』は1人称の小説でしたが、『みんなの秘密』は12編の1人称短編連作小説で構成されています。スタートを切るのは「爪を塗る女」の倉田涼子、34歳。キスに対して少女よりもおぼこな人妻は、不倫という甘い蜜を手に入れ、キスだけの淡い恋に酔いしれ、その先の関係におそれおののくという不倫に関する秘密。その後に、「悔いる男」で彼女の夫の倉田紘一の秘密に話が移ります。その次の『花を枯らす』は倉田紘一の「悔い」の対象となっていた女性・篠田博子の独白。というように、次々に語り手がバトンタッチして、それぞれの秘密を独白していきます。このため、共有体験したはずの同じ事象に対する捉え方の違いも浮き彫りになることが多々あって、非常に興味深いです。人って、夫婦でも家族でも近しい間柄でもその内面はやっぱり分からないものですね。通常触れられるのはほんのわずかなので、相手を「分かったような気になって」しまうと思わぬ落とし穴がある、ということでしょうか。それでもこの連作の最後が「二人の秘密」というタイトルで、夫婦二人が大きな秘密を共有しようと約束する(つまりまだ共有していない)ところで終わるところに、ある種の希望と言いますか、「人間同士の関わり合いがそう捨てたもんでもない」と思える余韻を残しているように思えます。

林真理子の描く恋愛・性愛ドラマとその心情描写はとてもリアルで、あまり夢がないと言えばそれまでですが、身近にありそうだから親しみやすく共感できるまたは「自分だけじゃない」と思えるのが魅力なのかな、と思います。セックスレスになる夫婦、増える贅肉、失われていく肌の張り、衰えていく勃起力(?)等の老いの兆候を前に必死に自分のプライドやアイデンティティを保とうとあがく様は、あんまり連続で読みたいものではないのですが。

人間諦めが肝心、とは思いますが、私はリアリティのない夢物語のハーレクイン的なものも好物です(笑)

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書評:林真理子著、『不機嫌な果実』(文春文庫)

書評:林真理子著、『葡萄が目にしみる』(角川文庫)~第92回(1984年下半期)直木賞候補作