徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:木内昇著、『新選組 幕末の青嵐』(集英社文庫)

2018年01月04日 | 書評ー小説:作者カ行

新選組という題材は書き尽くされ、語り尽くされた感が無きにしも非ずですが、マンガやアニメのようにパロディーにするのではなく、史実を辿りつつも、土方歳三、近藤勇、沖田総司、永倉新八、斎藤一などの大勢の人それぞれに語らせることで、『新選組』の物語というよりは、動乱の世の中を自分の立ち位置や生き方を問いながら駆け抜けた若者たちの群像劇のように仕立てられています。でもその中でも大きな比重を占めるのは土方歳三ですね。最後は彼の義兄・佐藤彦五郎が語り手となり、市村鉄之助から土方歳三の最後を聞いたことを追憶しながら、新撰組生き残りのその後などにも触れて終わります。

全体の印象としては、近藤勇が愚直で肩書や学のあるなしまたは弁が立つなどの比較的表層的なことに騙されやすいおバカさんで、土方歳三はこのおバカさんの近藤勇と新選組という生きがいを見つけて水を得た魚のように偉才を発揮し、斎藤一は剣をふるうことしか考えてないようでいて、意外と土方に傾倒してて忠誠心があり、永倉新八は自分の非凡さが見えておらず「自分はなんて凡人なんだ」と悩み、沖田総司は基本的に剣で一番になることしか考えておらず、独特の感性を持っているため話が通じない不思議ちゃんという感じです。

今まで持っていた新選組主要メンバーのイメージとは食い違う部分は結構あるのですが、そうした先入観を払拭するくらい説得力のある語り口です。

この人たちの生き方に共感できるところは一切ありませんが、それでも150年経っても『新撰組』がある種の憧憬を持って語られるのは、彼らが「ブレなかった」ところにその魅力が集約されているのではないかと思います。薩摩藩のように最初長州藩と対立して、後に長州藩と手を結んで倒幕に回るというような鞍替えをせず、大将であるはずの一橋慶喜のように逃げ出さず、その他多くの藩のように事なかれ主義で勝ち馬に乗るようなこともせず、主君に見捨てられても愚直に本懐を遂げようとしたところですね。それの良し悪しはひとまず置いておくとして、彼らなりの信念や忠義を最後まで果たしたその一貫性は尊敬に値すると思います。

もう一つの人気の秘密は、散りゆくものに「もののあわれ」を感じる日本的な美的感覚によるものかな、と思います。

しかしこの小説は新選組小説であって、そうではないというか、それだけではない、一人一人の生き方を問う作品だと思います。登場人物たちがそれぞれいろんなことを思い、迷い、悩み、自問自答し、夢を抱き、策略をめぐらし...とする中で読者は常に「あなたはどう生きる?」と問われているのだ、と感じました。

何かの賞の受賞作品というわけではないですが、いい作品だと思います。

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