『不機嫌な果実』に続いて林真理子2冊目は『葡萄が目にしみる』。辻村深月の『鍵のない夢を見る』に掲載されていた対談で言及されていた作品です。両作家の出身地である山梨が舞台になっています。ヒロイン・乃里子はブドウ農家の娘。彼女の中学3年から大人になるまでの青春記録小説といったところでしょうか。
容姿にコンプレックスを抱き、異性の目を気にしながら、男子受けのいい女子(今風に言うと、「クラスのヒエラルキー上位の女子」だろうか?)に憧れと侮蔑とが入り混じった感情を抱き、ある男子には淡い恋心を抱き、別の男子には恋とは違った意味で興味を持ち、さしたる将来のビジョンもないまま憧れで東京の大学に行き、ラジオ局に就職。30になって結婚こそしなかったけど、確固とした目標なしに上京した割には比較的うまくいった人生と言えるのではないでしょうか。
この彼女の目を通した1970年代後半から1980年代前半の世相がまた興味深いですね。高度経済成長期で、周りがみんな景気の良さを謳歌し、テレビを買ったり、電化製品を買ったり、車を買ったり、家をリニューアルしたり。でもその贅沢にどっぷりつかってるわけでもなく、乃里子の父をして「百姓が贅沢してどうする」と言わしめる程度には距離感があり、「これでいいのか」というそこはかとない不安も漂っているんですね。
自意識過剰なおデブちゃんがどう変わっていくのかな、どういう恋をするのかな、などと思いながら読んでたので、高校卒業寸前で「小川君が…」と言ってた第8章「窓の雪」から、いきなり大学時代もすっ飛ばしてすっかり「マスコミの女」になった乃里子が登場する第9章「再会」の展開にちょっとびっくりしました。ついて行けない程ではないけれど、もうちょっと彼女の途中経過を追っていきたかったのに残念という感じがしましたね。乃里子はどちらかというと純朴なので、すれた感じのある『不機嫌な果実』のヒロインより好感が持てます。まあ、年齢も違いますが。
最後の、恋ではないけど気になっていた同級生で有名なラグビー選手になった彼にひょんな縁で再会して、故郷の言葉で親しげに話すシーンには「ほっこり」します。
私はそういえば高校の同級生には再会してないですねぇ。たまり場だった「図書室」やとある喫茶店繋がりの先輩や同学年の子には再会したり、SNSで繋がってますが、同級生は見事に無縁です。ベルリンに住むFB友達から「今度ボンに行くことになってるFB友達がいるからよろしく」と紹介された人が、実は高校の先輩で交友関係も重なってる知り合いだった、というのが高校繋がりでは一番不思議なめぐり合わせでした。人の縁とはわからないものですね。
『葡萄が目にしみる』は高校生時代がメインになっているので、自分のちょっと恥ずかしい高校時代を思い出さずにはいられませんでした。もっともそんなに具体的に覚えていることはそれほどないんですけど、当時考えていたことや悩んでいたことや、憧れた人や、付き合った人など、「高校生的感覚」とでもいうものが自分の中で呼び戻される感じです。こうして振り返ると確かに青春時代の輝きが「目にしみる」かも(笑)