徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:辻村深月著、『かがみの孤城』(ポプラ社)~生きにくさを感じるすべての人に贈る辻村深月の最新刊

2018年01月21日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『かがみの孤城』(ポプラ社)は2017年5月発行で、辻村深月の最新刊。私には珍しく文庫ではない本を読みましたが、これは名作です。

言えない。だけど助けてほしい・・生きにくさを感じるすべての人に贈る辻村深月の最新刊。涙が止まらない、感動溢れる一冊です!」と商品紹介にあるように、きめ細やかな愛情をもって描かれたこの小説には癒しと勇気づける力が溢れています。

主人公・こころおよび主要人物たちが中学生なので、最初は感情移入がどれほどできるかちょっと疑問だったのですが、あっという間にストーリーに引き込まれました。

「鏡の国のアリス」か?と思えるような感じで、5月末のある日、不登校になっているこころの部屋にある鏡が光り出し、彼女はその鏡の中に引き込まれてしまいます。最初は何が何だかわからなくて、いきなり現れた狼面の少女の説明も聞かずに逃げ帰ってしまいましたが、次の日も同じように鏡は光り、もう一度中に入ってみると、そこには狼面の少女以外に6人の同じ年頃の子たちがいました。狼面の少女の説明によると、そこは鏡の城で、日本時間の午前9時から午後5時まで自由に使ってよく、「願いの部屋」の鍵を探して、見つかれば、願いを一つ叶えられるという。城は翌年の3月30日まで開いていて、それまでに鍵が見つからなければ、そのまま参加者7人はそれぞれの現実に帰っていくが、それ以前に鍵が見つかり、願いが叶えられれば、その時点で城は閉じられるというルールです。また午後5時を過ぎても城に残っているとオオカミに食べられてしまうとか。

この不思議な城は何なのか、なぜこの7人が選ばれたのか、本当に鍵があって願い事が叶うのか。という謎解きの枠組みの中で、7人それぞれの事情が徐々に明かされて行きます。

たとえば、こころが「心の教室」とかいう不登校の子供たちのためのスクールに通い、そこの仲間たちとだんだん親しくなって、また理解のあるスクールの先生に癒され、母親の理解と援護を得ながら立ち直っていくという筋書きでも十分ドラマは成立すると思うのですが、それはリアルである一方、もしかしたら平凡で味気なかったかもしれません。けれど、こころはそのスクールにすら足がすくんで行けなかったのです。

そこに「鏡の城」というファンタジーの異空間を最後の逃げ場のように出現させ、そこに集められたの子たちの意外な繋がりが(最後に)明かされる仕掛けが加えられることで、こころの成長物語にぐっと面白味が増しているように思います。

その構成力の秀逸さもさることながら、言葉の通じない同級生や無理解な担任の先生等から受けるこころの衝撃や恐怖や憤懣がきめ細やかな愛情をもって描写されているところも素晴らしいです。是非とも「生きにくい」と感じている人ばかりでなく、10代の子供を持つ親御さんたちや学校の先生や学校教育にかかわるすべての大人たちに読んでもらいたい一冊ですね。そのメッセージが果たして通じるのか、やっぱりかなり疑問ではあるのですが。

私も中学時代の一時期不登校でした。知らない先輩に目を付けられたり、クラスの中心的女子グループに目を付けられて、いちゃもんつけられたり、友達だと思ってた子たちに裏切られたり、で教室に居場所を失くした結果でした。自殺未遂経験もあります(たいして本気ではありませんでしたが)。しばらくして生来の負けず嫌いと口の達者さで立ち直って反撃に出ましたけど、トラウマになった部分もありますし、中学卒業後もどこにも属せず、【普通】という型が理解できずに苦悩し、人間の裏表に失望した時期もありました。「人は人、私は私」という開き直りと、「なぜ自分は【普通】からはみ出してしまうのか」という劣等感の混じった疑問との間で揺れた青春時代でした。。。

作中の「毎日闘っている」という描写がまさに自分の過去にも当てはまり、すごく共感しました。主人公のこころみたいに「言えない子」ではなかったですけど。キャラ的にはしっかりして、ちょっと肩肘張ってしまってる「アキ」が近いかな、と思います(笑)


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書評:辻村深月著、『鍵のない夢を見る』(文春文庫)~第147回(2012上半期)直木賞受賞作