徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:森見登美彦著、『四畳半神話大系』(角川文庫)

2018年01月12日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『四畳半神話大系』の舞台は京都で、主人公は大学3回生で、『夜は短し歩けよ乙女』と舞台も登場人物もかぶっています。主人公の住む京都市左京区下鴨泉川町のおんぼろアパート・下鴨幽水荘は、『夜は短し歩けよ乙女』にも登場する樋口師匠(天狗)の住処でもあるので、両作品に登場しますが、『四畳半神話大系』ではこのアパートの四畳半が主要舞台となります。

全部で4話あり、その一つ一つが大学入学当初に入るサークルについての主人公の決断の違いによって導き出されるパラレルワールドとして語られます。サークルの選択肢自体既にかなりうさんくさい(映画サークル「みそぎ」、「弟子求む」、ソフトボールサークル「ほんわか」、秘密機関〈福猫飯店〉)のですが、案の定どれに入ってもいい結果にはなりません。

第1話から第3話までは、微妙に展開が異なるものの、「唾棄すべき親友」小津に出会うこと、その師匠であり、同じアパートの住人である樋口、そして彼の旧友の歯科衛生士・佐貫さん(女性、『夜は短し歩けよ乙女』でも活躍)に出会い、妙な占い師に会って、「好機を掴むキーワードはコロッセオ」のようなことを言われ、最後に賀茂川デルタにかかる賀茂大橋にいる時に大量の蛾が通り抜け、小津は欄干から鴨川へ落ちて骨折し、主人公は明石さんという女性と恋仲になるという大筋は同じなので、1話目はともかく、2話・3話とデジャヴュが多すぎて若干だれます。

それでも面白いことに、それぞれ別のパラレルワールドであるにもかかわらず、微妙に相互に干渉し合っていて、まともな理屈で理解しようとするものを翻弄します。

第4話は、上述の1~3話の重要イベントは共通しているものの、主人公が無限のパラレルワールドの四畳半が連なる世界に入り込み、四畳半の部屋から出られなくなるというミラクルな展開で、2・3話でだれた読者をガッツリ話に引き込みます。無限の四畳半の部屋たちはよく見るとそれぞれ微妙に違いがあり、1~3話との関連性もあるという工夫が面白いです。

結局どんな選択をしても「私」は「バラ色のキャンパスライフ」からは程遠く、運命の「黒い糸」でグルグルに結ばれた小津と共に無為に大学生活を送ることになることに変わりはないという身も蓋もない結論しか出ないのですね。

この小説のアイデアや構成は非常に興味深いと思いますが、全体的に大学サークルのノリのような印象がぬぐえません。悪くはないけど、特別に面白いというわけでもありません。

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書評:森見登美彦著、『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫)~第20回山本周五郎賞受賞作品