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読書メモ:今野敏著、『リオ』『朱夏』『ビート』『焦眉』『無明』警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ

2022年09月20日 | 書評ー小説:作者カ行

仕事のストレス解消のために立て続けに5冊も読んでしまったのはいいのですが、書評というか読書メモすら書く暇もなく1週間以上過ぎてしまいました。このため、それぞれの作品の読後感はだいぶ薄れてしまい、粗筋しか覚えてません。



『リオ』(新潮文庫)は警視庁強行犯係・樋口顕シリーズの第1作で、マンションで起きた殺人事件で現場から逃げて行くところを目撃されたらしい謎の美少女を追い求めるストーリーです。その後、もう1件、殺人事件が起き、そこでも同じ少女らしい人物の目撃情報があった。彼女が犯人なのか?
この美少女の正体を明らかにするまでにかなり時間が費やされます。
1996年の作品で、当時メディアを騒がせていた女子高生たちの「援助交際」をテーマにしています。
普段冷静で慎重な樋口顕もリオの美少女ぶりには冷静ではいられず、懸命に自省しようとしているところが味わい深いですね。「同じ年の娘がいる」が全然熱冷ましの効果を発揮しないあたり、リオの美少女ぶりが尋常でないことが伝わってきます。


『朱夏』(新潮文庫)は警視庁強行犯係・樋口顕シリーズの第2作(1998)で、樋口顕の妻・恵子が断りもなく一晩中帰って来なかったことからまずは樋口が自分で彼女の足取りを追い始めますが、手掛かりが掴めず途方に暮れ、信頼する荻窪署の氏家に助けを求めます。
一方、恵子は見知らぬ男に誘拐され、部屋に監禁されていましたが、夫が優秀な警察官であり、きっと自分を探し出してくれると信じて仮面をかぶったままの誘拐犯となんとか交渉しようとします。
探す側と探される側の双方の視点で描かれた良作。夫婦間の信頼と絆があるとはいえ、意外にお互いの日常生活を知らない(特に樋口が妻のことを知らない)ことも浮き彫りになり、反省するきっかけにもなっています。


『ビート』は警視庁強行犯係・樋口顕シリーズの第3作(2000)で、日和銀行本店の家宅捜査の日に一人いたたまれない気持ちになっている警視庁捜査二課・島崎洋平警部補の描写から始まります。
いたたまれない気持ちになっていたのは、彼が大学柔道部に属していた関係で、日和銀行に勤務する後輩・富岡和夫に弱味を握られ、極秘でなければならない家宅捜査の日を教える羽目になってしまったからです。
島崎の長男がその後輩に柔道の指導を受けていることもあり、柔道部OBには絶対服従の慣習があることから、長男は父・洋平が日和銀行の捜査に関わっていることを漏らしてしまったのだ。
その息子をかばうため、さらに警察官として懲戒免職ものの情報漏洩をすることになってしまい、親子そろって苦悩します。そんな中、富岡和夫が殺されてしまいます。この殺人の捜査を警視庁強行犯係・樋口顕が担当します。
島崎にはもう一人息子がいて、彼は早くに柔道を辞めてしまい、以来問題児街道をまっしぐらに歩んで、引きこもりの無職だったが、最近ダンスに夢中になっている。この次男が殺人犯かも?!と島崎の苦悩はさらに深まっていきます。
一方で、次男のダンスについてもかなり詳細に描かれており、島崎親子の認識のずれが浮き彫りになります。

この作品は作者が担当編集者を介して電撃チョモランマ隊のQ-TAROの指導するスタジオを見学したことに着想を得ているそうで、ダンスを本格的にやっている若者たちがさらされている世間からの偏見を少しでも取り除く一助となることを願って小説を書いたというだけあって、島崎次男の更生と親子の和解のプロセスに事件とダンスが絶妙に絡めてあります。

同シリーズ第4作『廉恥』(幻冬舎文庫)と第5作『回帰』(幻冬舎文庫)は、シリーズ全貌を知らずに2018年に電子書籍化された時に買って読んでしまいました。😅 



第6作『焦眉』(幻冬舎)は2020年の作品で、つい最近文庫化されたばかりですが、私は文庫でない方をすでに買ってあったのでそちらで読みました。
『回帰』では公安部の人権くそくらえな強引な捜査方法が取り上げられていましたが、『焦眉』では検察の暴挙・暴走がテーマになっています。
警部となった氏家が二課の選挙係に異動になるという知らせから話が始まり、東京5区で当選した野党政治家・秋葉康一の選挙法違反捜査への前振りとなっています。
後に起きた殺人事件では、被害者が秋葉康一に資金提供をしていたということから殺人の嫌疑がかけられることに。検察主導の捜査の中で早くから秋葉康一を狙う強引さに違和感を抱く樋口たちが検察を捜査から締め出そうと画策し始めます。
警察vs.検察の対立構造が鮮烈になりますが、検察の強引さの裏には政治的意図が働いているのか否か、検察官の独断的暴走なのか、検察全体の問題なのかといった疑問に迫っていきます。



シリーズ第7作の『無明』は2022年3月16日に発売されたばかりの最新作です。男子高生が荒川の河川敷で死に、「自殺」と断定されたことに納得していない両親。そのことを女性記者が樋口に耳打ちすることで話が始まります。樋口は最初、千住署が「事件性なし」と片付けた問題なので捜査するのを躊躇しますが、上司の天童の後押しもあり、単独捜査に乗り出します。
ここで取り上げられるのは警視庁対所轄の対立構造です。真実究明とは関係のない警察内のマイクロポリティクスが蔓延し、 所轄の片付けた事件を再調査しようとする樋口に対して巡り巡って「懲戒免職」が言い渡される。それを言ったのは、千住署の誰かから連絡を受けたらしい理事官だった。
しかし、その時にはもう「事件性」に疑いを持っていなかった樋口は正式に懲戒免職になることを覚悟で捜査を継続します。
この理事官と樋口のやり取りはなかなか見もので、普段は発言に慎重な樋口が半ば投げやりに理事官に食って掛かるのが面白いです。



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