徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『探花―隠蔽捜査9―』(新潮社)

2022年04月02日 | 書評ー小説:作者カ行

『スクエア』、『清明―隠蔽捜査8』に続いて、勢いで隠蔽捜査シリーズ第9弾『探花』も読んでしまいました。
それだけ今野作品は一度読み出すと止まらなくなるほどテンポの良い話運び、程よいディテールの説得力などの魅力にあふれているということですね。

今回は福岡から神奈川県警の警務部長へ異動になった同期入庁試験トップの八島という男が不穏な空気をまき散らしています。なんでも入庁試験の成績がトップだったことを殊更に誇っており、警察トップの椅子取りゲームを真剣にやっているようなタイプで、竜崎伸也の価値観とはまったく相容れない人物。
タイトルの『探花』は竜崎が入庁試験で3位だったことに由来しています。
中国の科挙の順位の名称で、1位は状元、2位は榜眼、3位は探花ということを竜崎の幼馴染で「榜眼」の同期入庁である伊丹が竜崎に教えるシーンがありますが、竜崎は自分の順位のことも科挙の順位の呼び名も初耳でした。実に彼らしい。

今回の事件は、横須賀のヴェルニー公園で死体が発見されたことで、近くでナイフを持って走っていく白人を見たという目撃証言があったため、米軍との折衝を竜崎が行い、米海軍の犯罪捜査局から特別捜査官が派遣され、竜崎の判断で捜査本部に加わることになる。横須賀署長を始めとする現場の反感は強く、捜査に支障が出るかもしれない。マスコミや住民感情などの問題が取り沙汰されます。

そして、プライベートではポーランドに留学中の息子が逮捕されたらしい映像がSNSに挙がっていたと娘から知らせを受け、外務省の知人に問い合わせることに。

警察組織内問題、捜査上の問題、プライベートの問題の3本立てなのがいつものパターンという感じですね。

隠蔽や忖度を嫌い、捜査を最優先する姿勢と「ただの官僚ではない。俺は警察官僚だ。」と誇りを持って国のため、国民のために働くという理想を本気で実践している竜崎の活躍は読んでいて胸のすく思いを味わえます。

彼のようなキャリア官僚が組織内では異端な状況はやはりちょっと嘆かわしいとは思いますが。



安積班シリーズ
 
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書評:今野敏著、隠蔽捜査8『清明』(新潮社)

2022年04月02日 | 書評ー小説:作者カ行

昨日読んだ横浜みなとみらい署暴対係シリーズ第5弾『スクエア』 で扱われた事件の容疑者の身柄が確保されたタイミングで竜崎伸也が神奈川県警刑事部長に着任するところから隠蔽捜査シリーズ第8巻の『清明』の物語が始まります。
この小さなリンクがあるために続けて読んでみようという気になりました。
ファンにとって異なるシリーズのストーリーが交差したり、登場人物が重なったりすると、なぜか意外なところで知り合いに再会したときのようなワクワクとした嬉しい気分になれるものです。

神奈川県警の四角四面の流儀・風潮に慣れないなりに、「合理的でない」の一言でバッサリ切り捨てにしてしまうのではなく、そこそこ尊重する柔軟な態度を示す竜崎は少し丸くなったのでしょうか。

着任早々、県境で死体遺棄事件が発生し、警視庁の面々と再会するものの、どこかやりにくさを感じ、また、さらに被害者は中国人と判明して、公安と中国という巨大な壁が立ちはだかります。
一方で、妻の冴子が交通事故を起こしたという一報が入り、地元の警察OBの運営する教習所とのトラブルがあり、なかなか前途多難な様相を呈しています。

しかし、本音と建前を使い分けようとせず、本音の合理性と柔軟性を持つ竜崎節で多くの人の信頼を勝ち取り、最後にはハッピーエンドになるのがいいカタルシス効果です。

結局、人は自分を1人の人として尊重してくれ、正直に対応してくれる人を信用するものなので、何かを隠そうとしてもこじれるばかりで何もいいことはないという姿勢が清々しく、漢詩から引用したタイトルの『清明』がしんみりと心に沁みてくるような読後感を得られます。

 


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