徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:両@リベ大学長著、『お金の大学』(朝日新聞出版)

2022年04月26日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

大分前に紙書籍で日本から送ってもらってそのまま積読本になってしまっていましたが、ようやく読むことができました。

著者はYouTubeのお金の教養チャンネル〈リベ大〉で日々日本人のマネーリテラシーを高めようとたくさんの動画を発信しており、本書はそれら多数の動画に通ずる基礎がまとめられています。
このため、詳細を知りたい読者のためにそれぞれの項目でQRコードをスキャンして該当動画に飛べるようになっています。

お金のハウツー本は数多くありますが、本書(およびリベ大)の特徴は、バランスのよい再現性の高さにあります。つまり、誰が真似してもそれなりの結果が出せる方法とそれに必要な知識、さらにそれに伴うリスクとリスク対策がマンガ的に優しく解説されているので、真似しやすいのです。

煽りに明示されているように、著者のお金にまつわる思想は「貯める力」「稼ぐ力」「増やす力」「守る力」「使う力」の5つの力に集約されます。
本書ではその5つの力のうちの最初の3つの力を重点的に扱い、「守る」と「使う」の2つはある程度の資産が築けた後に重要度が増すため、最後に短く要点だけをまとめてあります。

固定費(通信費・光熱費・保険・家・車・税金)などを見直して支出を抑えてお金を貯め、稼ぐ力を身につけて収入を増やし、余剰金をさらに投資に回して資産を増やし、資産を減らさないように守りを固め、人生を豊かにすることにお金を使うという5ステップで経済的自由を手に入れる、というのがその5つの力による道筋です。

具体的なアドバイスは利用できる公的制度にも及ぶので、一家に一冊置いておく価値があると思います。
また、「稼ぐ」や「(資産を)増やす」にまつわる様々な詐欺行為や落とし穴が分かりやすく紹介されており、相場を知って「うまい話」に騙されないように何度も警告しているところが大変良心的です。

また、貯めるために極端な節約を奨励しているわけではなく、「人生を豊かにすることにお金を使う」というように、使うことも前提としている点でバランスのよい考え方と言えます。
FIRE(経済的自由、早期リタイヤ)を目指すために修行僧のようなミニマリスト的生活をして貯蓄に励む路線にはあまり再現性はありませんが、「無駄を見極めて節約し、本当に大切なことにお金を使う」であれば、本人が頭を使って行動することが必要ではありますが、そのためのアドバイスが盛りだくさんに提供されているので、再現性が高くなります。

非常にカラフルな図解やイラストがふんだんに散りばめられ、大部分が対話形式(一介のサラリーマンの不安や質問に著者が回答)で進行していくため、普段本を読まない人でもとっつきやすい構成になっているところが魅力です。
著者が多くの人に幸せになるためのマネーリテラシーを身につけて欲しいと本気で願っていることが伝わって来る一冊です。

海外に住んでいる私には実際に役に立たない情報も多々ありますが、基本的な考え方は参考になりました。



書評:堀元見著、『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』(徳間書店)

2022年04月26日 | 書評ーその他

例外的に紙書籍をAmazonで予約購入したのが本書『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』でした。
その理由は、著者と田中泰延さんとの対談の「ぶっちゃけ」たほうの後半ライブを視聴できる条件がそれだったから。

対談は非常に楽しかったし、ようやく届いた本書も面白かったです。
堀元見氏はYouTubeの『ゆる言語学ラジオ』の出演・プロデュースしており、私はこのチャンネルで彼のことを知りました。慶応義塾大学理工学部卒業後、就職せずに「インターネットでふざける」を職業にしたという変わり種で、著書に『教養悪口本』(光文社)があります(そちらは未読)。

さて、そのような著者がビジネス書ベストセラーを100冊読んで、教えをスプレッドシートにまとめて行くプロセスをYouTube公開しながら執筆したのが本書なわけですが、このようなノリの著者がまじめな「ビジネス書まとめ本」を上梓するはずがありません。
結論から申し上げますと、本書は「現代アート」です。

とはいえ、装丁といい、中身のレイアウトといい、最後に合宿セミナーの宣伝ページがあることといい、作りはビジネス書そのもの。
うっかり騙されて買ってしまって怒り狂うビジネス書愛読者たちの反応も込みで「作品」なのだそうです。

パロディの本気度と全力でふざける芸は、確かに「アート」と言ってもいいと思います。
通常であれば本を読んだら目次も書評に収録しますが、本書に限ってはそれは無意味なので止めておきます。

本書を通じて、いかに矛盾に満ちたいい加減な主張が本になっており、またそうしたものをたくさん買う人々が多くいることがよく見えてきます。

著者はふざけてはいますが、実際にビジネス書100冊のポイントを抽出しているので、これ一冊で確かに「ビジネス書あるあるのポイント」を知り、それらを比較したり、著者のように変な繋げ方をして楽しむこともできます。

そもそも、「成功者の真似をすれば成功する」という考え方自体に問題があり、「自分はこれで成功したから、これが絶対正しい」というスタンスで書かれた書籍は「サンプル1」の話なので、大して参考になるような所見は得られないものです。

けれども、ビジネス書ビジネスはまさにその間違った幻想を土台にして成り立っています。そうした書籍たちを実際に100冊も読み漁ってデータを集め、結局「自分で考える」結論にしかならないことを証明する(ふざけながら)。

本書の「正しい」読み方や解釈の仕方などはなく、著者の言うように「お好きにどうぞ」という感じなのでしょうけど、私は一緒に笑い転げるのが健全な楽しみ方だろうと思います。