天命を知る齢に成りながらその命を果たせなかった男の人生懺悔録

人生のターミナルに近づきながら、己の信念を貫けなかった弱い男が、その生き様を回想し懺悔告白します

カズオ・イシグロ著『日の名残り』執事語る”見世物小屋の記憶男にさせれば”は映画『三十九夜』を彷彿さす

2012-04-23 21:12:10 | 日記
今日の日記は、今読んでいるカズオ・イシグロ著『日の名残り』のことです。添付した写真は、その著書の表紙です。
私は、今年の2月18日付日記『執事Aホプキンスが客テーブル食器セッティングに定規使用した英国映画”日の名残り”を旅行代理店に鑑賞を』で、イギリス映画『日の名残り』(1993年製作 ジェームズ・アイヴォリー監督 アンソニー・ホプキンス エマ・トンプソン主演)を皆さんに紹介しました。
そして、この映画の原作者であるカズオ・イシグロ氏(注:1954年11月8日生まれの長崎県出身のイギリス人作家、両親は日本人であるが、日本語をほとんど話せず、国籍を英国に移し、現在はロンドンに在住)が、1989年に執筆しブッカー賞を受賞した英国貴族邸の執事を描いたこの名著『日の名残り』をとても読みたくなって、ネット購入して、今自宅で読んでいます。
著者のカズオ・イシグロ氏は、親の仕事の関係で幼年期に渡英して以来、そのまま現地に滞在しているので、ほとんど日本や日本語を知らない完全なイギリス人小説家です。だから、日本人の小説家の影響は受けておらず、むしろ現地で観た小津安二郎や成瀬巳喜男などの日本映画に強く影響されていると、イシグロ氏は語っています。
この著書にも、彼が映画ファンらしいことがよく分かる記述があります。でも、それは、日本人が監督した映画ではなく、彼を育てた母国イギリスが生んだサスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックが監督した『三十九夜』の一シーンを彷彿させるものでした。
この著書では、英国貴族ダーリントン卿の執事スティーブンスが、1920年から1930年代にかけて、その邸宅を訪れた客人の思い出を語っています。この中で、その客人がその邸宅の執事に、昔の英国ダービーの優勝馬を質問するクイズを”その場の座興”とした「執事を小馬鹿にした行為」を、執事スティーブンスに強く非難させています。
彼は、”そんなことは、見世物小屋の記憶男にさせればよい”と自らの心境を吐露しています。この”見世物小屋の記憶男”は、映画『三十九夜』(1935年製作:詳細は私の3月18日付日記を参照)で冒頭とラストに登場した、Mr.メモリー(ウィリー・ワトスン)と称する記憶力の達人を、強く示唆していると私は思いました。この映画と小説に書かれた時代背景もまったく同じ時期です。だから、カズオ・イシグロ氏は、間違いなくこのイギリス映画『三十九夜』を観ています。
彼は、日本人監督の小津安二郎や成瀬巳喜男より、英国人監督のアルフレッド・ヒッチコックにより強い親近感を抱いていたと、私は思っています。小説家カズオ・イシグロ氏の”アイデンティティー”は、両親の母国・日本ではなく、育ててくれたイギリスにあります。だから、当然のこと成人したら、彼はイギリスに帰化したのです。
この彼の”アイデンティティー”には、私も強く共感します。だから、逆の意味で、ロンドンオリンピックのマラソンレースに出場したいが為に、日本からカンボジアに国籍を変更しても、その母国語すら知らない某芸能人に、この名著『日の名残り』を、私は是非読んでほしいと、今思っています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする