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私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

対談 小泉悠 vs 藤村忠寿

2024-06-11 10:58:22 | 講演・講義・フォーラム等
 片や軍事評論家、片や民放のバラエティ番組のディレクター。こんな水と油ほど違う世界に住む二人が話をして噛み合うことがあるの?と訝りながら参加したのだが意外や意外、けっこう楽しませてもらった90分間だった。

 6月9日(日)午後、北海道大学の学園祭「北大祭」の一環として、北大クラーク会館において小泉悠氏と藤村忠寿氏の対談が行われると知って駆け付けた。
 小泉悠氏はウクライナとロシアの戦争勃発以来、ロシアの軍事研究畑を歩んできたことからマスメディアの寵児となり大活躍されている方である。
 一方の藤村忠寿氏は、HTB(北海道文化放送)のディレクターとして、北海道発のバラエティ番組として全国を席巻した(?)あの名物番組「水曜どうでしょう」を産み出したディレクターである。

    
    ※ 入場整理券を得るために午前10時半から並んだ長蛇の列です。

 二人のバックグランドを見るかぎりどう考えても対談などは成立しない、と思われた。ところが聞いてみると、二人には意外な繋がりがあったのだ。それは小泉悠氏が「水曜どうでしょう」の大ファンで、これまでにも二人は何度か対面して話をされている間柄だということを明らかにされた。
 また主催した北大の学生側は、小泉悠氏がマスメディア上で活躍されていることから、二人の間でメディア論を語っていただくことで共通点が見いだされると考えたようだ。対談の大きなテーマは「メディアの役割とその影響について」ということだったが、具体的には学生側から何点かの質問が与えられ、それについて二人が話し合うという形式の対談だった。学生側からの質問は、
 ◇バラエティと政治の関り
 ◇「編集」と「切り取り」の違い
 ◇SNS隆盛の中におけるTV
 ◇中央と地方におけるメディアの違い
等々であったが、対談は口八丁手八丁といった感のある藤村氏が絶えずリードする形で進められた。
 藤村氏はもともと政治には興味があり、大学も北大の法学部を卒業しているのだが、いろいろないきさつから政治とは縁遠いTV界のバラエティ分野に身を置いているが、バラエティの目ざすところは「世界平和」であると言い切った。「世界平和」とは大きく出たな、と思ったが、藤村氏が言うにはバラエティには「 “なあなあ” ですます」文化があるという。 この “なあなあ” こそが世界平和を語る時にキーワードとなるのではないか、といった論だった。小泉氏は「世界平和には “グローバルなあなあ力” が必要ということですね」と応えた。

    
    ※ 飛行機の事情でやや遅れて登壇した小泉悠氏です。

 「編集」と「切り取り」については、テレビにおいて「編集」は当然のことと藤村氏は言い切った。バラエティ番組において面白く見せるためには当然編集は行われているし、政治的番組においても、編集者の考えた番組づくりをする中で編集はされていると…。むしろ取材される側が、取材する側の意図を見抜く力が求められていると小泉氏は話された。だからトーク番組などで毎週出演するような識者と称する人間の言は信用しない方がいいのでは、と小泉氏は指摘した。
 「切り取り」もある意味「編集」と通ずるところがあるが、特にドキュメンタリーなどでは作者(ディレクター)が意図して切り取って編集している場合が多いとした。

    
    ※ 終始対談をリードした藤村忠寿氏です。

 ロシア事情に詳しい小泉氏は日本とロシアのマスコミ事情の違いを披露してくれた。日本では地方における地域新聞が住民に影響力を持っているが、ロシアにおける地方紙はほとんど存在しないようなもので、ロシア国民の多くはモスクワ発のテレビの影響を受けているという。したがって、プーチン政権は権力を握ると同時にマスメディア(テレビ)支配に意を注いだという。
 対談は前述したように終始藤村氏がリードする形で進行したが、私としてはできればテレビでは語ることのできないロシア事情などについて小泉氏から聴きたかったとも思ったのだが…。そして意外なことに小泉氏の声質がマイクに乗りづらい声質だったようだ。運営側もそのことを気にし、何度も何度もマイクを交換したのだが、残念ながら聴きづらさが最後まで残ってしまったのは残念だった。
 小泉悠 vs 藤村忠寿というある意味で意外な組み合わせを考えついて学生たちのセンスに感心したが、私には二人のお話に楽しく耳を傾けることができた90分間だった。