期待に違わず、前編同様最後まで重厚な人間ドラマが描かれていてスクリーンにクギ付けにされた。主演の佐藤浩市はもちろんのこと、永瀬正敏、吉岡秀隆、緒形直人、柄本佑など演技達者なバイプレイヤーが存在感を示した映画でもあった。
試写会「64(ロクヨン) 後編」は、昨夜(6月3日)共済ホールで開催された。
前編はどちらかというと、G県警内の刑事部と警務部との暗闘、県警広報室と記者クラブのせめぎ合い、などに軸足がおかれている感があったが、後編は本来の昭和64年に発生し、未だ未解決の少女誘拐殺人事件の真犯人の追及に軸足が移った感があった。
映画は結末において原作とは違った展開になるということで、原作を読んだばかりの私はその点に注目してスクリーンに見入った。
原作では少女誘拐殺人事件を引き起こした犯人を示唆しつつも、完全に解決した形で終末を迎えた形ではなかったが、映画においては三上広報官(佐藤浩市)が刑事魂から犯人を徹底して追い詰めたところまで描いている。
そのことによって三上は傷害事件を引き起こし、警官の職を追われることを示唆して映画は終わった。
つまり、原作はこれからも三上の広報官としての仕事は続いていくような余韻を残って終わっているが、映画では一応の終末を描き、三上は失踪した我が娘の行方を一人追うことに専念したい、と彼は語るのだった…。
今回も佐藤浩市の存在感は抜群だった。ある意味、映画「64(ロクヨン)」は佐藤浩市の映画だったといっても過言ではない。
ところが、この映画では佐藤以外の俳優も半端ではないのだ。前編でも述べたが綺羅、星のごとく名優たちが名を連ねているのだ。
そうした名優たちの中でも、この後編においては誘拐犯役を演じた緒形直人の鬼気迫る演技が印象的だった。名優緒形 拳の息子として注目されながらもいま一つ脱皮できないでいた彼だが、今回の役はかなりの存在感を示すことができたのではないだろうか。
その他にも、永瀬正敏、吉岡秀人、柄本佑、三浦友和、奥田瑛二、綾野剛など、それこそ綺羅、星のごとく並んだバイプレイヤーの演技が映画を引き締めていた。
主人公の広報官・三上はもともと刑事畑の人間なのだが、自らの意志に反し警務畑の広報官を任じられ、刑事部と警務部の反目する中で、自らをどう処するのか逡巡する中、家庭においては愛娘が失踪するという難しい環境におかれている。
職業人として、一家庭の父親として、思い悩みながらも、誠実に生きようとする三上の人間性が佐藤浩市を通して深く描かれていて、見応えある内容として結実したといえる映画だった。