詩の現場

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ピレッサイの泉 1

2015-01-02 | 連詩
ピレッサイの泉という街に住む一人の男
名前は誰も知らない
だからピレッサイの泉の男としか
呼ばれたことがない

ピレッサイの泉は
ピンク色の大理石の産地
家も路も 街中が石造り
だが 男の家はレンガと木でできていて
樹齢400年ほどの樹々のはざまで
森の時間を 刻んでいる

男には 家族がいない
とはいえ この家からはいつも
誰かが出てくる

暗いうちに 大きな鍋をかかえ
戸口を出ていく老女
つづいて 長い髪の向こうに
憂い顔を見せる美しい女
深紅のルージュの香りが
辺りを染めあげ
朝焼けの始まりのように
森がざわめいていく

そして また一人
削りあげたばかりの木箱を持ち
裸足で飛び出していく
大きなメガネをかけた背の高い男たち

ピレッサイの泉の街の朝
駅の時計台は
男の家から誰も出てこなくなるまで
新しい時を告げない
昨日も 今日も

この街に来て一ヶ月ほど経つが
ピレッサイの泉の男の
戸口から出て来る同居人に
私はまだ 同じ人物を見つけたことがない




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