報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「事務所への帰還」

2018-07-11 19:32:29 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月8日22:15.天候:晴 東京都墨田区菊川]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 私はここ半年以上もの間、記憶を無くしていた。
 都内の寿司屋で飲んだくれになっていた時、高橋君が私を見つけて連れ戻してくれている。

 手下A:「高橋さん、もうすぐ事務所ですよ」

 走り屋仕様の黒塗りのチェイサーのハンドルを握る男が言った。
 皆、高橋君がグレていた頃の知り合いらしく、だいぶ『オシャレ』の進んでいるコ達だ。

 高橋:「事務所の真ん前に着けてくれ」
 手下A:「了解っス!」

 ボボボと吹かしながら車は新しい事務所の前に止まった。

 高橋:「先生、どうぞ。ここが新しい事務所です」
 愛原:「ここかぁ……」

 それは北区に構えていた頃よりは新しいビルの中にあった。
 墨田区の住宅街の中にあるようなビルなので、そんなに高いビルではない。
 5階建てビルの最上階にあった。

 手下B:「それじゃ高橋さん、俺達はこれで」
 高橋:「サンキューな。俺は先生に状況を説明してから向かうから」
 手下A:「了解っス!つか、むしろ高橋さん達が来る前に俺達でやっときますよー」
 高橋:「バイオハザードをナメんなよ。銃が無いと生き残れねぇ世界だ。油断すんじゃねぇ」
 手下B:「さすが高橋さん、パねぇっス!」

 一体、何の話をしてるんだろう?
 というか高橋君に、こんなコネがあったとは……。

 高橋:「すいません、先生。お待たせしました。早くエレベーターへ」
 愛原:「ああ」

 私と高橋君は1機だけのエレベーターに乗り、5階へ向かった。
 ビルも新しいので、エレベーターも新しい。

 愛原:「今のコ達は、どういう関係?」
 高橋:「俺が先生に弟子入りする前に、色々と遊び歩いた仲間ですよ。あと他に……少年院少年刑務所にいた時の知り合いとかもいます」
 愛原:「ちょっと待て。キミが少年院に入っていたことは知ってるけど、少年刑務所は初めて聞いたぞ?」
 高橋:「大丈夫ですよ。先生に弟子入りする前にちゃんと満期で出所して、けして脱獄なんてしてませんから」
 愛原:「そこじゃない!」

 エレベーターが5階に到着し、ドアが開くと、事務所はすぐ目の前にあった。

 愛原:「ん?電気が点いてるぞ?」
 高橋:「ああ。姐御がいるんですね」
 愛原:「アネゴ?」

 高橋君が入口のガラス戸を開けた。

 高野:「先生!よく御無事で!」

 すると、中から黒髪のショートボブが似合う女性が出て来た。

 高野:「高橋君から『見つけた』って連絡を受けた時は、もう嬉しくて泣いちゃったんですよォ!」

 えーと……あ、思い出した。
 うん、高野芽衣子君だ。
 あくまでも、私の記憶は昨年末から無いだけであって、それ以前はちゃんとある。
 少年院に入りながら、なお今でも愚連隊時代の仲間を引き連れて歩ける高橋君が『姐御』呼ばわりするほど、気の強いコだったはずだ。
 高野君は私の両手を掴んでブンブン振っている。

 高橋:「アネゴ、年甲斐も無くはしゃいでんじゃねぇよ」
 高野:「うるっさいわね!別にいいでしょ!……ささ、先生、早く中に入ってください」
 愛原:「あ、ああ」

 年甲斐も……って、高橋君がまだ20代前半という若さってなだけであって、高野君もまだ30歳にもなっていなかったはずだが?
 私?私はまあ……アラフォーだけどさ。

 事務所の中はやはりというか、前の事務所よりも明るくて広かった。
 私を入れて、たった3人だけのスタッフだけで回すには勿体ないくらいだ。
 ここに住んでもいいくらいだな。

 高野:「先生、コーヒー入れますね」
 愛原:「あ、ああ。すまない」

 私は応接室に入ると、そこのソファに座った。

 愛原:「なあ、高橋君?」
 高橋:「はい!」
 愛原:「こんなきれいな事務所、どうしたんだ?名義とか、どうなってるんだい?」
 高橋:「順を追って説明するつもりでしたが、これは探偵協会からの御褒美です」
 愛原:「御褒美!?」
 高橋:「はい。俺達、豪華客船に乗って年末年始をエンジョイするはずだったって……記憶に無いですか?」
 愛原:「……覚えてないな。って、そんなカネ、どこにあったんだ!?」
 高橋:「探偵協会からの招待ですよ。昨年、先生のおかげでこの事務所、世界探偵協会から注目されましてね。そんな優秀な探偵事務所の連中を集めた船上パーティーをやろうって、胡散臭い話があったんです。でもそれはテロ組織の罠でしてね、船内でバイオハザードが発生したんです。先生はとても活躍してました」
 愛原:「俺が?」
 高橋:「はい!霧生市のバイオハザードを思い出しましたよ。だけど、それでも俺達を罠にハメやがった大馬鹿野郎がいましてね。先生が記憶を無くしたのは、それが原因です」
 愛原:「そうだったのか……。それで?」
 高橋:「結果的に船は沈没。生き残ったのは、俺達だけですよ」
 愛原:「は!?」
 高野:「厳密に言えば、他にも助かった人達はいたかもしれませんけど、取りあえずヘリで脱出できたのは私達だけってことです」

 高野君がコーヒーを入れて持って来た。

 愛原:「全然覚えて無いぞ?」
 高野:「先生、意識を失っておられましたから……。だけど、探偵協会がそんな私達を手放しで褒めてくれたんですよ。賞金もたんまり出してくれるって話だったんですけど……」
 高橋:「その矢先に爆弾テロですよ!テロ組織はまだ潰れちゃいなかったんだ!」
 高野:「そりゃそうでしょ。悔しいけど、あの船での戦いは私達の負けよ。私達、結局何もできず、脱出を考えることだけしかできなかった……」
 高橋:「とにかく、探偵協会がその後、全部面倒見てくれて、代わりの新しい事務所を用意してくれたんです」
 愛原:「そうだったのか……」
 高野:「ああ、先生。後で病院に戻ってくださいね」
 愛原:「病院?」
 高野:「先生、記憶障害の治療で入院されてたんですよ?そこから抜け出して、飲みに行ってたんですね」
 愛原:「そ、そうだったのか!」
 高橋:「アネゴ、俺のチームメイトが現地に向かってんだぞ?」
 高野:「あのね!先に主治医の先生に謝ってからでしょう?筋ってモンを考えなさいよ!」
 高橋:「だけどなぁ!」

 ああ、また高橋君と高野君の言い争いが始まった。
 まるで、姉弟ゲンカだ。
 本当に、私は事務所に帰って来たんだなぁ……。
 私はほっこりして、コーヒーを口に運んだ。

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