[7月8日21:03.天候:晴 東京都江東区豊洲 とある寿司屋]
……まずい酒だ。
だけど、どういうことだろう。
飲まないと、俺は何かに捕らわれてしまいそうな気がしてならない。
俺はグラスの酒を一気にグイッと飲んだ。
愛原:「大将、もう一杯」
大将:「は、はい」
大将は私の大酒飲みっぷりに驚いているようだが、そんなことは気にしない。
俺はカウンター席に1人で座っているが、その隣にはさっきから寿司を頬張る若い兄ちゃんがいる。
兄ちゃん:「この辺りは東京湾に近いくせに、なかなか美味い寿司が食えねぇ。だけど、この店のはアタリだよ」
愛原:「あー、そうかい……」
今時珍しく、他人に気軽に話し掛けてきやがる兄ちゃんだ。
それとも、こいつも俺と同じく酔っ払ってるのか?
そんなことを考えていると、大将が酒のお代わりを持って来た。
だが、徳利を傾けてみると、お猪口一杯分しか入ってやがらねぇ。
愛原:「大将、何だよ、これ?もっと入れてきてくれよ」
大将:「お客さん、飲み過ぎですよ。うちはヤケ酒出すような店じゃないんですから」
愛原:「……おい、大将、聞けや。オメェは愛想良く笑顔で、客に酒やら寿司やら出してんだろ?あ?だったら、黙って仕事しろ!」
大将:「あんたに出す酒は無ェ!帰ェってくんな!」
愛原:「……帰る場所なんて、無ェんだよ……」
そうだ。
俺には帰る場所が無い。
帰る場所が無い?どういうことだ?俺の家は……。
俺は、出口とは反対の方向に歩き出した。
すると、今度はどこかのオヤジが私に口出しをしてきた。
オヤジ:「おい、あんちゃんよ?帰れって言われただろ?」
愛原:「うるせぇっ!!」
俺はオヤジをテーブルに押し付け、手近にあったビール瓶を振り上げた。
だが、それを止める者がいた。
俺の隣に座っていた兄ちゃんだ。
ビール瓶を振り上げた私の手を握り、首を横に振る。
兄ちゃん:「ブザマですね。愛原学先生」
愛原:「あ!?何だ、オメェは!?」
兄ちゃん:「ちょっと話があるんです。ここに座ってください」
兄ちゃんは空いているテーブル席へ私を座らせた。
愛原:「誰だ、お前は?」
兄ちゃん:「高橋です。高橋正義です」
愛原:「……知らねぇな」
高橋:「じゃあ、これはどうです?」
高橋と名乗る青年は、俺に手持ちのスマホを見せた。
その画面には、何だか分からない惨状が映し出されていた。
愛原:「何だこれは?何の映画だ?」
高橋:「映画ではありませんよ。ガチです。これは本当に、今から約半年以上も前……年末年始にとある場所で起きたバイオテロの光景です」
愛原:「バイオ……テロ……?うっ……!」
私の頭の中にフラッシュバックが起きた。
業火の中にもだえ苦しむ人々の姿……。
高橋:「まだ思い出せませんか?俺と先生、一緒にこの中から生還したんですよ?」
愛原:「うう……!や、やめろ……!」
何だ?何だこの頭痛は……!?
高橋:「本当に忘れてしまったんですね。俺の事……」
高橋と名乗る青年は寂しそうな顔をした。
高橋:「それなら、これはどうです?」
高橋はスマホの画面を切り替えた。
そこに映し出されたのは、白い仮面。
それが1番目を引く少女の姿だった。
目の部分しか細い穴が開いていない為、彼女の表情を読み取ることはできない。
少女だと思ったのは、この仮面の者が女子用の学生服を着ていたからだ。
どちらかというとセーラー服に似たデザインのものだが、一体どこの学校の制服だろう?
愛原:「何だこれは?……い、いや、これは……!」
私は目を背けた。
こいつは見てはいけない。
何故か、そんな気がしたのだ。
高橋:「見ろ!見ろよ、オラ!俺が……いや、あんたが忘れちゃいけない敵なんだよ!!」
愛原:「やめろ!!」
俺は顔ギリギリにスマホを近づけて来た高橋の手を払った。
高橋:「クソッ!」
高橋は憤然として椅子にどっかり座った。
そしてスマホをテーブルの上に叩き付ける。
高橋:「半年以上も必死に捜し回って、やっと見つけたと思ったのにこれかよ!!」
その時、テーブルの上に叩き付けられたからなのか分からないが、スマホの画面がまた切り換わった。
そこに映っていたのは、笑顔で写る俺と高橋、そしてもう1人、若い女が映っていた。
その後ろには看板があって、そこに書かれていたのは……。
愛原:「愛原学……探偵事務所……」
それに高橋が反応して、またズイッと身を乗り出して来た。
高橋:「そうです!あなたは1つの探偵事務所の経営者なんです!そして俺は先生の唯一の弟子、高橋正義です!」
愛原:「…………」
そう言われれば、そんな気もする。
だけど、まだ釈然としない。
高橋はまた画面をあの仮面の少女に切り替えた。
高橋:「こいつの居場所は分かってる!兵隊も用意した!今こそ、乗り込むべき時です!」
愛原:「兵隊?」
高橋はパチンと指を鳴らした。
すると、今まで歓談をしていた若い男達がぞろぞろとやってきた。
高橋:「俺は先生を迎えに来たんです!何が何でも連れて行きます!いいですね!?」
愛原:「…………」
高橋:「……先生!」
愛原:「……分かった。だけどこの通り、俺は殆ど何も覚えていない。その現地とやらに向かう前に、ちゃんと説明してもらおうか」
高橋:「分かりました!まずは一先ず事務所へ!……おい、車回して来い」
高橋は近くにいた似た年恰好の男に言った。
男は急いで車を店の前に回して来たが、その車というのが……走り屋仕様であったことだけは伝えておく。
そういえば高橋はかつて、ヤンキーとして暴れ回り、少年院に入っていたんだっけなぁ……。
ていうか……。
俺は……何から逃げて……何でここにいたのだろう……?
高橋:「事務所の場所、変わったんですよ。少しでも先生の記憶を取り戻したいから、本当は事務所もそのままにしておきたかったんですが……」
愛原:「どうして変わったんだ?」
黒塗りのチェイサーのリアシートに、私と高橋で座る。
加速する度に、改造されたマフラーから賑やかな音が響いて来る。
高橋も短い髪を金色に染め、ピアスをしているが、運転している似た年恰好の男も負けず劣らず、かなり『オシャレ』をしていた。
まるでこれから、暴走族同士の抗争会場に向かうかのようだ。
高橋:「テロですよ」
愛原:「テロ!?」
高橋:「どこかのバカが、先生の大事な事務所に爆弾仕掛けて行きやがったんです!」
高橋はまたスマホを私に見せた。
そこには、半壊した雑居ビルの姿があった。
愛原:「お、おま……!俺って、こんな爆弾テロされるようなことをしてたのか!?」
高橋:「全部、テロ組織のせいですよ。先生のせいではありません」
やっぱり……私は逃げていたのだろうな。
現実から……。
一探偵が、本来首を突っ込むべき事案ではなかった事から……。
……まずい酒だ。
だけど、どういうことだろう。
飲まないと、俺は何かに捕らわれてしまいそうな気がしてならない。
俺はグラスの酒を一気にグイッと飲んだ。
愛原:「大将、もう一杯」
大将:「は、はい」
大将は私の大酒飲みっぷりに驚いているようだが、そんなことは気にしない。
俺はカウンター席に1人で座っているが、その隣にはさっきから寿司を頬張る若い兄ちゃんがいる。
兄ちゃん:「この辺りは東京湾に近いくせに、なかなか美味い寿司が食えねぇ。だけど、この店のはアタリだよ」
愛原:「あー、そうかい……」
今時珍しく、他人に気軽に話し掛けてきやがる兄ちゃんだ。
それとも、こいつも俺と同じく酔っ払ってるのか?
そんなことを考えていると、大将が酒のお代わりを持って来た。
だが、徳利を傾けてみると、お猪口一杯分しか入ってやがらねぇ。
愛原:「大将、何だよ、これ?もっと入れてきてくれよ」
大将:「お客さん、飲み過ぎですよ。うちはヤケ酒出すような店じゃないんですから」
愛原:「……おい、大将、聞けや。オメェは愛想良く笑顔で、客に酒やら寿司やら出してんだろ?あ?だったら、黙って仕事しろ!」
大将:「あんたに出す酒は無ェ!帰ェってくんな!」
愛原:「……帰る場所なんて、無ェんだよ……」
そうだ。
俺には帰る場所が無い。
帰る場所が無い?どういうことだ?俺の家は……。
俺は、出口とは反対の方向に歩き出した。
すると、今度はどこかのオヤジが私に口出しをしてきた。
オヤジ:「おい、あんちゃんよ?帰れって言われただろ?」
愛原:「うるせぇっ!!」
俺はオヤジをテーブルに押し付け、手近にあったビール瓶を振り上げた。
だが、それを止める者がいた。
俺の隣に座っていた兄ちゃんだ。
ビール瓶を振り上げた私の手を握り、首を横に振る。
兄ちゃん:「ブザマですね。愛原学先生」
愛原:「あ!?何だ、オメェは!?」
兄ちゃん:「ちょっと話があるんです。ここに座ってください」
兄ちゃんは空いているテーブル席へ私を座らせた。
愛原:「誰だ、お前は?」
兄ちゃん:「高橋です。高橋正義です」
愛原:「……知らねぇな」
高橋:「じゃあ、これはどうです?」
高橋と名乗る青年は、俺に手持ちのスマホを見せた。
その画面には、何だか分からない惨状が映し出されていた。
愛原:「何だこれは?何の映画だ?」
高橋:「映画ではありませんよ。ガチです。これは本当に、今から約半年以上も前……年末年始にとある場所で起きたバイオテロの光景です」
愛原:「バイオ……テロ……?うっ……!」
私の頭の中にフラッシュバックが起きた。
業火の中にもだえ苦しむ人々の姿……。
高橋:「まだ思い出せませんか?俺と先生、一緒にこの中から生還したんですよ?」
愛原:「うう……!や、やめろ……!」
何だ?何だこの頭痛は……!?
高橋:「本当に忘れてしまったんですね。俺の事……」
高橋と名乗る青年は寂しそうな顔をした。
高橋:「それなら、これはどうです?」
高橋はスマホの画面を切り替えた。
そこに映し出されたのは、白い仮面。
それが1番目を引く少女の姿だった。
目の部分しか細い穴が開いていない為、彼女の表情を読み取ることはできない。
少女だと思ったのは、この仮面の者が女子用の学生服を着ていたからだ。
どちらかというとセーラー服に似たデザインのものだが、一体どこの学校の制服だろう?
愛原:「何だこれは?……い、いや、これは……!」
私は目を背けた。
こいつは見てはいけない。
何故か、そんな気がしたのだ。
高橋:「見ろ!見ろよ、オラ!俺が……いや、あんたが忘れちゃいけない敵なんだよ!!」
愛原:「やめろ!!」
俺は顔ギリギリにスマホを近づけて来た高橋の手を払った。
高橋:「クソッ!」
高橋は憤然として椅子にどっかり座った。
そしてスマホをテーブルの上に叩き付ける。
高橋:「半年以上も必死に捜し回って、やっと見つけたと思ったのにこれかよ!!」
その時、テーブルの上に叩き付けられたからなのか分からないが、スマホの画面がまた切り換わった。
そこに映っていたのは、笑顔で写る俺と高橋、そしてもう1人、若い女が映っていた。
その後ろには看板があって、そこに書かれていたのは……。
愛原:「愛原学……探偵事務所……」
それに高橋が反応して、またズイッと身を乗り出して来た。
高橋:「そうです!あなたは1つの探偵事務所の経営者なんです!そして俺は先生の唯一の弟子、高橋正義です!」
愛原:「…………」
そう言われれば、そんな気もする。
だけど、まだ釈然としない。
高橋はまた画面をあの仮面の少女に切り替えた。
高橋:「こいつの居場所は分かってる!兵隊も用意した!今こそ、乗り込むべき時です!」
愛原:「兵隊?」
高橋はパチンと指を鳴らした。
すると、今まで歓談をしていた若い男達がぞろぞろとやってきた。
高橋:「俺は先生を迎えに来たんです!何が何でも連れて行きます!いいですね!?」
愛原:「…………」
高橋:「……先生!」
愛原:「……分かった。だけどこの通り、俺は殆ど何も覚えていない。その現地とやらに向かう前に、ちゃんと説明してもらおうか」
高橋:「分かりました!まずは一先ず事務所へ!……おい、車回して来い」
高橋は近くにいた似た年恰好の男に言った。
男は急いで車を店の前に回して来たが、その車というのが……走り屋仕様であったことだけは伝えておく。
そういえば高橋はかつて、ヤンキーとして暴れ回り、少年院に入っていたんだっけなぁ……。
ていうか……。
俺は……何から逃げて……何でここにいたのだろう……?
高橋:「事務所の場所、変わったんですよ。少しでも先生の記憶を取り戻したいから、本当は事務所もそのままにしておきたかったんですが……」
愛原:「どうして変わったんだ?」
黒塗りのチェイサーのリアシートに、私と高橋で座る。
加速する度に、改造されたマフラーから賑やかな音が響いて来る。
高橋も短い髪を金色に染め、ピアスをしているが、運転している似た年恰好の男も負けず劣らず、かなり『オシャレ』をしていた。
まるでこれから、暴走族同士の抗争会場に向かうかのようだ。
高橋:「テロですよ」
愛原:「テロ!?」
高橋:「どこかのバカが、先生の大事な事務所に爆弾仕掛けて行きやがったんです!」
高橋はまたスマホを私に見せた。
そこには、半壊した雑居ビルの姿があった。
愛原:「お、おま……!俺って、こんな爆弾テロされるようなことをしてたのか!?」
高橋:「全部、テロ組織のせいですよ。先生のせいではありません」
やっぱり……私は逃げていたのだろうな。
現実から……。
一探偵が、本来首を突っ込むべき事案ではなかった事から……。
「あれ?豪華客船の中でバイオハザードじゃねぇの?」
と思われるでしょうが、申し訳ございません。
ネタ帳を紛失してしまったので、やり直しです。
もっとも、私の記憶の断片に残っているネタは流用していくので、全く関係無いわけではありません。
何せ、あの豪華客船に乗ってから7ヶ月後という設定なもので。