報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「イベント最終日」

2015-07-27 19:23:49 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月20日18:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区台原森林公園・野外音楽堂 巡音ルカ、敷島孝夫、シンディ、アルエット]

「……巡り〜姫〜♪私はぁ〜今ぁ〜♪思い出の日々〜綴っていく〜♪」
 ルカが敷島エージェンシーのボカロの中で、1番の歌唱力を惜し気も無く発揮する。
「ルカさーん!」
「ルカぁ!」
 押し掛けたファンの数は、初日のリン・レン、中日のKAITOよりも多いように見えた。

 1時間に渡るミニライブが終わり、ルカが舞台裏に戻って来た。
「ルカ、お疲れさん!」
「お疲れさま!相変わらず、電撃の流れる歌、歌うねぇ!」
 と、シンディ。
 要は、『しびれる歌』ということだ。
「ありがとうございます」
「よし。すぐに科学館に戻って、平賀先生に整備してもらおう。その後で俺は関係者の人達と打ち上げに参加するから、先にホテルに戻っててもらっていい」
「分かりました。明日の朝の新幹線で帰京ですね?」
「そうだ」

 後で敷島は藤野の十条達夫の家に電話してみた。
{「はい、十条です」}
「あっ、達夫博士ですか?敷島ですが……」
{「おお、どうしたね?」}
「いえ、おかげさまで無事にイベントが終了しましたので、その御報告をと……」
{「おう、そうかね。アルエットはどこにおる?」}
「あー、すいません。ちょっと今、私の傍にはいなくて……。もちろん、イベントでよく働いてくれましたよ。明日、お返しに行きますので、その時、色々お話しさせてもらいます」
{「明日、返しに来てくれるのかね?」}
「ええ。そういうお約束だったじゃありませんか」
{「そうか。では、待っておるぞ」}
「はい。それじゃ、失礼します」
 敷島は電話を切った。
「プッ(笑)。もうボケて来たのか、この爺さんはァ……。ま、とにかく無事で良かった。俺の変な胸騒ぎも、たまには外れるもんだ」

[同日同時刻 神奈川県相模原市緑区(旧・津久井郡藤野町) 十条達夫の家 キール・ブルー&バージョン4.0‐058号機]

{「はい。それじゃ、失礼します」}
 敷島との電話の後、受話器を切る……バージョン4.0。
「上手ク、敷島孝夫ニ誤魔化シテオキマシタ」
 4.0はさっきまでの電話とは打って変わって、ロボット喋りに戻っていた。
「よくやった。あとは留守電にしておけ」
「ハイ」
 命令するのはレイチェルではない。
 見た目はこの暑い中、黒いタキシードに蝶ネクタイをした男。
 縁無しの眼鏡を掛けているが、時折右目が赤く光る。
「あとは明日まで、このままにしておこう。どうせ孤独な老人だ。誰も訪ねる者などいない」
「ハハッ」
 家の中は荒れに荒らされていた。
「レイチェルのバカ女は気づかなかったみたいだが、恐らく『にっ寛』上人の御本尊は、アルエットが持っているはずだ。その本人が明日戻って来るのなら、それでいいだろう」
「ハイ」

[同日19:15.仙台市地下鉄広瀬通駅 敷島孝夫、平賀太一、エミリー、シンディ、アルエット、巡音ルカ]

〔次は広瀬通、広瀬通です。一番町、中央通はこちらです〕
〔冨士大石寺顕正会仙台会館へは、終点富沢駅でお降りください〕(←いや、だからこういうCMは流れないって!)

 整備を終えたロイド達は敷島や平賀について、地下鉄に乗っていた。
 酒が入るので、平賀は今日は車で来ていない。
「もう既に主催者のお偉いさん達は、会場に着いているようです」
「あらま、気が早い人達ですなー」
「ロイド達の整備は入念に行ってからで良いとのことです。その代わり、コンパニオンとしてエミリーやシンディだけでなく、アルエットやルカも御指名ですが」
「何スか、それ!アルエットは借り物だし、ルカはうちの看板アイドルなんだから、そうおいそれとレンタルできませんがね!」
 敷島はあからさまに不服そうな顔をした。
「あ、因みにルカに関しては、別途、コンパニオン代を出すそうです」
それを早く言ってください!
 敷島の両目に『¥』の記号が浮かんだ。

〔広瀬通、広瀬通。出入口付近の方は、開くドアにご注意ください〕

 電車が繁華街の駅に滑り込む。
「コンパニオンと言っても、別に普通の恰好でいいんでしょ?」
「まあ、そうですね。人間のコンパニオン頼むにしても、普通のビジネススーツでOKの人達ですし……」
 とはいっても、そこはコンパニオン。
 ビジネススーツといっても、胸元の開いたものを着用している。
「というわけだ。4人とも、頼むぞ」
「イエス」
「分かりました」
「はい」
「……えーと、何をすればいいのでしょう?」
 アルエットだけ、女子中高生の制服風である。
 ……あらぬ誤解を招きそうだが、マルチタイプであるため、確かに違法ではない。
「アタシが教えてあげるよ」
 と、シンディが片目を瞑った。
 アルエット以外は、設定年齢的にも全然OKな顔ぶれなのだが……。

[同日23:00.仙台市青葉区国分町 敷島孝夫、シンディ、アルエット、巡音ルカ]

 

「お疲れさまでしたー!」
 ようやっとお開きになり、敷島達が接待した主催者らが続々と帰って行く。
「敷島さん、3日間ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。いいPRになりましたよ」
「後で儲けの額、教えてくださいね」
 平賀はほろ酔い加減で、敷島を肘でつついた。
「いや、はははは!参ったな……」
「ドクター平賀、タクシーが・参りました」
「おーう」
 タクシーが平賀達の前で止まる。
「それじゃ敷島さん、お気をつけて」
「平賀先生も」
 先に平賀がタクシーに乗り込み、運転席の後ろに座る。
「姉さん、たまには東京に来てよ」
「ドクター平賀が・上京・することが・あれば・その機会も・ある」
 そして、アルエットの方を見る。
「私達とは・新旧の・違いが・あれど、マルチタイプに・求められる・人間の・要望は・大きい。与えられた・使命に・けして・背かないように」
 最年長者として、最年少者に指導した。
「は、はい!」
 エミリーは、自分より身長が20センチも低い従妹機の頭をナデナデしてタクシーに乗り込んだ。
 タクシーはドアを閉めて、国分町通を走り抜けて行った。
「じゃあ、俺達も戻ろうか」
「はい」

 ホテルまで戻る敷島達。
 アルエットの顔は不安そうだった。
「どうしたの?」
 シンディが話し掛ける。
「家に……博士の所に電話したの。だけど、出なかった。留守電になってて、出なかったの」
「この時間じゃ、もう寝てるでしょ?」
「ううん。宴会が始まる前だから、まだ寝てないと思うの」
「うーん……。お出かけしてるとか、研究で忙しいから電話に出られないとか、色々あると思うけど……」
「博士、悪い人達に狙われてるんでしょう?」
「まあ、そうだけど、社長がルカのライブが終わった後に電話したら、ちゃんと出たってよ?」
「えっ?」
「だから、心配することは無いと思うよ。ちゃんとアルの帰りを待っててくれてるよ」
「そ、そう?」
「そう。だから、何も心配しなくていいと思う。達夫博士は朝は早いの?」
「うん!朝は6時に起きて、勤行してるよ!」
「ゴンギョー?……何かの儀式かしら?明日、新幹線に乗った時、電話してみたら?どっちみち、今電話したところで、却ってご迷惑でしょ」
「うん」
 新旧マルチタイプ姉妹がそんな話をしている中、敷島とルカは、
「いやあ、ルカのおかげで、コンパニオン代相当せしめることができたよ」
「えーっと……光栄……です」
 ルカは複雑な顔をした。
「売れっ子アイドルと一緒にカラオケなんて、なかなかできないことだからな。リン・レンやKAITOより、いい売り上げを出してくれたと思うぞ?」
「えっと……ありがとうございます」
「明日は青年漫画雑誌のグラビア撮影だったな。頑張ってくれよ」
「は、はい!」

 KR団の陰謀とは裏腹に、平和な時間が流れている敷島達。
 しかし翌日、彼らもまた現実を知ることになる。
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“新アンドロイドマスター” 「殺人アンドロイド」 3

2015-07-27 15:15:46 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月20日01:30.神奈川県相模原市緑区(旧・津久井郡藤野町) 十条達夫の家・地下室 十条達夫&7号機のレイチェル]

 以下は十条達夫が書いた手記の一部である。
『しばらく静かになっていた外だったが、急にまた騒がしくなった。どうやら、レイチェル達が体勢を立て直してきたらしい。ドンドンと鉄扉が叩かれる音がする。恐らくそのドアは、レイチェルが根気よくこじ開けようとすれば、開かれるだろう。アルエットの帰りを待つ身として辛いことであるが、やはりここを放棄せねばならぬのか。仕方が無い。水路を通って、逃げるとしよう。ここでの手記は、ここまでとする』

 達夫が手記を書き終え、水路へ続く鉄扉を開錠した。
「さらばじゃな……」
 緊急脱出用のボートに乗り込み、水路へ飛び出す直前、達夫は地下室にある細工を施した。
 水路に出ると同時に爆発が起こり、地上からの鉄扉が吹き飛ぶ。
 どうやらレイチェル達は爆弾を取りに行き、それで鉄扉をこじ開けたらしい。
「KR団デアル!ドクター十条達夫!無駄ナ抵抗ハ止メテ……!」

 ピコーン!ピコーン!ピコーン!

「ムッ!?」
 室内の至る所に仕掛けられた特殊時限爆弾ロボット・デコイ。
 特殊な信号音と光を発し、人工知能の劣るバージョン・シリーズなどをおびき寄せ、そして爆発して彼らを屠るアリスの発明品だ。
 この前、敷島夫妻と昼食会を行った際、サンプルをアリスから譲り受け、こういう非常事態に備えて複製したものだ。
 案の定、飛び込んで来たバージョン4.0の集団はロボット・デコイ数発におびき寄せられ、爆発の直撃を受けてほぼ全滅した。
「バカだね。いきなり飛び込むなんて……。役立たず共がっ!」
 後から入ってきたレイチェルがバラバラに壊れた配下達を侮蔑の目で見て罵った。
「レイチェル様!中カラ、ドクター十条達夫ノ反応ガアリマセン!」
 外で待っていた別の個体が、室内をスキャンした。
「この部屋を爆破するくらいだ。当然、待避しただろうさ。アンタ達は他の部屋を捜しな!」
「アラホラサッサー!」
 だが、レイチェルはすぐに達夫が水路を使って逃げたことに気づいた。
 室内にはもう1つドアがあり、それが半開きになっていたからだ。
(もっと早く逃げてくれていれば……!)
 レイチェルは体がまるで誰かに遠隔操作されているかのように、足の裏の超小型ジェットエンジンを噴かせ、水路を追い掛けた。
 水路を走る水は速かったが、レイチェルの速さには叶わなかった。
「ドクター達夫!」
「!!!」
「お願いだから抵抗しないで!」
 レイチェルの悲痛な叫びが届いたのだろう。
 達夫は両手を上げた。

[同日同時刻 天候:雷雨 宮城県仙台市青葉区 ホテル法華クラブ仙台・客室 敷島孝夫]

 敷島は夜中に目が覚め、バスルームのトイレで用を足した。
 何だか、物凄い胸騒ぎがして眠れないのだ。
 その後、冷蔵庫に入れておいたペットボトルの水を飲む。
(外がゲリラ豪雨だからか?)
 台風の影響が無い東北地方だが、何故か仙台はこの天気だ。
 もっとも、ゲリラ豪雨であるなら、明日……といっても、もう日付が変わっているが、イベント最終日もまた良い天候に恵まれるであろう。
 ツインルームにエキストラベッドを使用して3人部屋とした部屋には、他にシンディとアルエットが“寝て”いる。
 充電が満タンになっても、タイマー設定で朝7時までは“寝て”いるようになっている。
 但し、災害やテロ発生の時はこの限りではない。
 明日は朝一の新幹線で、巡音ルカがやってくる。
 彼女が最後のトリを飾ってくれることになっている。
 ミクよりも歌唱能力の高いルカなら、見事に締めてくれるだろう。
 但し、身体能力はそんなに高くはないため、ソロライブの時はそんなに激しい踊りはしない。
(何か計画に不備でもあったかな?)
 敷島は明日の予定を頭の中で思い出しながら、再びベッドに潜り込んだ。
 しばらくの間眠れず、このまま朝を迎えるかと思ったが、何とか寝付くことができたのである。

 ……悪夢というオプション付きで。

[同日02:00.十条達夫の家・地下室 十条達夫&レイチェル]

 焦げ臭さが充満する地下室に連れ戻された達夫。
「そろそろ教えてくれない?あなたの宝物、『にっかん上人の御本尊』と『アルエットの居場所』。このままだと、あなたを殺してしまうことになるわ」
 レイチェルが配下のバージョン4.0に椅子を持って来させ、それに達夫を座らせている。
 レイチェルは顔は優しそうにしていたが、目は時折光り、いわゆる『目は笑っていない』状態であることが分かった。
 そして何より、右手をライフルに変形させて、それを達夫の頭に向けている。
にっ寛上人の御本尊など、存在しておらんわい。大石寺に存在するのは、にち寛上人の御本尊じゃ。兄貴にそれをよく言い渡しておけ」
「そんなことはどうでもいいの。私は信者じゃないんだし。では、アルエットはどこにいるの?」
「それも言えん!『さあ、このワシを撃つが良い!』」
「どうやら、本当に死にたいようね」
 カチカチカチと、自動でライフルがリロードされる音がする。
(嫌だ!嫌だ!私、もう人殺しなんてしたくない……!)
「!? レイチェル、お前……!」
 達夫は両目から涙を流すレイチェルの姿を見た。
 が、それが世に伝わることは無かったのである。

 何故なら……

 家中に銃声が響き渡ったから。

 街から遠く離れた十条家の惨劇、それに気づいた者は誰もいない。

[同日08:00.天候:晴 JR仙台駅・東北新幹線ホーム 敷島孝夫、シンディ、アルエット、巡音ルカ]

〔11番線に8時2分発、“やまびこ”41号、盛岡行きが10両編成で参ります。この電車は、各駅に止まります。まもなく11番線に、“やまびこ”41号、盛岡行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 朝の強い日差しが照り付ける中、東京からの1番列車の接近放送が響いた。
 といっても、東京発の時点では始発列車でも、仙台駅の時点では、既に仙台始発の1番列車が出発しているので、もうそれではないのだが。

〔「11番線、ご注意ください。8時2分発、“やまびこ”41号、盛岡行きが10両編成で到着します。盛岡まで新幹線各駅に止まります。盛岡へお急ぎのお客様は、この後の“はやぶさ”“こまち”1号をご利用ください」〕

 列車が眩いヘッドライトを灯して入線してくる。
 9号車のドアが開くと、そこから複数の乗客と共にルカが降りて来た。
「おはようございます。今日は、よろしくお願いします」
 変装は完璧で、帽子にサングラスという出で立ちであった。
 サングラスを外して敷島に挨拶する。
「ああ、ご苦労さん。よろしく。もっとも、出番は夕方のミニライブの時だから、それまでゆっくりしてくれていいよ」
「調整をよろしくお願いします」
「調整ね……。ま、とにかく行こう。科学館のオープンは9時だから、それまでにこの2人を連れて行かないと」
「はい」

 改札口を出て地下鉄に向かう最中、ルカが言った。
「あの、社長」
「ん?」
「井辺プロデューサーから、伝言があります」
「何だ?」
「昨日、MEGAbyteのライブが山梨県であったそうなんですけど……」
「ああ。確か、甲府だったな。それがどうした?」
「帰りの電車の中で、バージョン4.0を見たそうなんです」
「電車に乗っていたのか!?」
「いえ、電車の中から見たそうです。ちょうど、電車が藤野駅を通過する前、進行方向右側だったそうです。大きな川を挟んだ反対側」
「!」
「井辺プロデューサーは視力が良いですから」
「た、確かに……。眼鏡掛けてやっとこさ1.0ある俺の1.5倍あるもんな。レーシック手術でも受けたんだっけ?」
「それは分かりませんが……」
「藤野駅ってことは、達夫の爺さんの所か……。まあ、あの爺さんのことだから、バージョンが来たところで、どうってことないと思うけどな……」
 そうは言いつつも、敷島は一抹の不安を覚えていた。
(どうする?さすがにこのイベントを放ったからして様子を見に行くわけにもいかないし……。井辺君は井辺君で、MEGAbyteに1日中ついていてやらないといけないし、アリスはこんな時に限って『月のもの』がヒドくて動けねぇとか言ってるし……)
 予定ではこのイベントが終わった後、皆で打ち上げをし、市内でもう一泊する。
 そして明日朝の新幹線で東京に戻り、そのまま中央線に乗り換えてアルエットを返しに行くというものだ。
「ルカ。一応このことは、あの2人……特にアルエットには内緒にしておいてくれ。余計な不安を抱かせると、これからのイベントに支障が出る恐れがある」
「分かりました」
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“新アンドロイドマスター” 「殺人アンドロイド」 2

2015-07-26 20:52:37 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月19日12:00.天候:雨 十条達夫の家 レイチェル]

「エエッ!?一旦退ク!?」
「そうだ」
 レイチェルは配下のバージョン4.0が発見した地下室へのドアをこじ開けようとした。
 厚さ1メートルの鉄扉、バージョン達にはお手上げであったが、レイチェルのようなマルチタイプが本気を出せばこじ開けられると思われた。
「レイチェル様デアッテモ、コジ開ケハ不可能ダト!?」
「頑張れば不可能ではないけど、せっかくだから猶予を与えてあげましょう」
「猶予?」
「そう。そして、こっちは確実にあのドアを開けられる方法を探す。……といっても、もう方法は考えてるけど。私だって、無駄なエネルギーは使いたくないからね」
「デ、具体的ニハドノヨウナ?」
「私達のベースキャンプに、35号が持って来たプラスチック爆弾があるでしょう?あれを使いましょう」
「デスガ、コノ大雨デハ爆弾ガ濡レテシマイマス」
「だからぁ、雨が止むまで待ってあげるの」
「コノ雨ハ、ゲリラ豪雨デハアリマセン。台風ノ接近ニ伴ウモノデス。関東近県ハギリギリ逸レテ、西日本ヘ向カウヨウデスガ、恐ラク今日一杯ハ雨カト……」
「それでいいじゃない。今日は何曜日?」
「日曜!オ休ミデス!」
「このドアホ!ロボットに土曜も日曜も無い!月月火水木金金があるのみ!……だから、日曜日お休みの伝助博士に代わって、私達が動いているわけ。恐らく今日に関しては、伝助博士も私達に全て任せっきりにして下っているはず」
「デハ……」
「雨が止む予報は今夜の夜半から未明に掛けてだったわね?」
「ソウデス」
「では、その時に仕掛けましょう。明日、良いご報告ができれば、伝助博士も文句は無いわ」
「ハハッ」
「というわけで、一旦ベースキャンプに退く。全員、正面玄関まで集合して!」
「アラホラサッサー!」
「総員、正面入口ヘ集合!」
「レイチェル様ノ御命令ダ!捜索ハ一旦中止!直チニ、正面入口ヘ集マレ!」
 先に配下のバージョン4.0達を外に出し、最後にレイチェルが地下室入口から地上に上がる階段を登った。
 そして振り向くと、
(どうか、この間に逃げて……)
 と、願ったのだった。

[同日同時刻 天候:曇 仙台市科学館・レストラン 敷島孝夫&平賀太一]

 一緒に昼食を取る敷島と平賀。
「いらっしゃいませー!レストラン“ウイング”へようこそ!メニューをどうぞ!」
 メイド服を着たメイドロボットがやってくる。
 で、見覚えがあった。
「六海!?何でここに?新宿のカフェにいるはずじゃ?」
「ふっふっふー。事務所のオーナーが、このイベントに潜り込ませてくれたのです。“ガイノイドの全て”の中に、メイドロボットも含まれているということをアピールする為に!」
「そ、そうか。財団無き後、俺がボカロ専門プロダクション作ったのと同時に、メイドロボットやセキュリティロボットの派遣会社を作った人もいたんだっけ」
「結構、需要があるようです」
 実は平賀もその派遣会社に、メイドロボットを送り込んでいるクチだ。
 敷島の事務所にいる一海や、直接敷島の家で息子の子守りをしている二海などは平賀の直接所有であり、そこから借りているわけだが……。
 多くは派遣会社に買い取られて、しっかり派遣されているという。
「俺より商売上手な人がいるんですね。今度会ってみたいなー」
「何気にここにしたりして?(……ってか、敷島さんもなかなか商売上手だと思いますけど……)」
「六海、本当か?」
「いえ、あいにくとオーナーは東京にいます。オーナーもお忙しいですよ」
「なるほどなぁ……。あ、俺はビーフカレー」
「自分はミートソース。食後にアイスコーヒー」
「俺も食後にアイスコーヒーを頼む」
「はい、かしこまりましたー!」
 六海が立ち去ると、敷島はグラスの水に口を付けた。
「ここまでは順調ですね」
「ええ」
「レイチェル達、何も攻撃してこないですね」
「今日は日曜日です。伝助博士も、安息日とかで休んでいるのでしょう」
「本当に伝助博士はクリスチャンなんですか?どうも達夫博士の話しぶりでは、仏教系に見えるんですが……」
「しかし、KR団は元はキリスト教の一新興宗教団体だったわけでしょう?『人間は神が作った』と謳う宗教です。それが、『人間の分際で人間を作るのは何事だ!』ということで、自分達がアンドロイド(スマホじゃなくて、人間型ロボットのこと)を作って実用化させることに猛反対している」
「伝助博士だって反対される側の人間だったのに、反対する側の宗教に入るなんておかしいですよ。だいたい、鷲田警視率いる警察隊でさえ、KR団の宗教施設を1つも押さえることができないなんて」
「それで敷島さんは、KR団は実はキリスト教ではなく、仏教だと?」
「達夫博士が仏教徒だったので、もしかしたら……と思ったんです。シンディがレイチェルと組み付いた時に奪い取った情報からして、レイチェルは達夫博士が保管している仏像……いや、仏像ではないと言っていたけど、とにかくそれに近い何かを強奪するように命令されていたそうです」
「うーむ……。こりゃひょっとして、十条兄弟の仲違いの理由って、研究性の違いではなく、宗教の違いが原因なんじゃ……?」
「えっ?」
「それなら、兄弟同士殺し合う理由も納得できる。宗教って、そういうものでしょう?」
 と、平賀は侮蔑するような顔で言った。
「敷島さんも、イスラム教のテロに遭ったそうじゃありませんか。その時、自爆テロ犯が爆弾を爆発させた場所は、違う派閥……スンニ派だかシーア派だか分かりませんが、そこに所属してる自爆テロ犯の兄弟が働いている場所だったということでしたね?」
「ええ」
(※スピンオフ“敷島孝夫の物語”より。敷島がどうしてアリスと結婚したかの経緯も書かれていますが、多摩準急先生著作のため、公開していません)
「同じ宗教でも、派閥が違うだけで兄弟が殺し合うこともあるわけです。十条兄弟も、正にそういうくだらない理由なのでしょう」
「……かもしれません」
「どちらがどちらの宗教の肩入れすることはありませんが、達夫博士がそれで殺されるようなことがあってはならないと思います」
「ええ。このイベントが終わったら、アルエットを返しに行きます。もう1度その時、達夫博士に会ってみますよ。シンディを護衛に連れて行けば、レイチェルが襲って来ても大丈夫。また相模湖の湖底に沈めてくれるでしょう」

 因みにその戦いで、相模湖の湖底からドラム缶にコンクリート詰めにされた死体が発見された。
 レイチェルが湖底から這い出た際、ついでに持って来たらしい。
 で、警察の捜査により、先日、犯人である暴力団員が逮捕された。
 今現在取り調べが行われているが、日本の警察のことだ。
 その組事務所にガサ入れを行うのは必至であろう。
 シンディ、ついにヤクザ事務所を潰す活躍までしているようだ。
 シンディのようにかつての罪を贖罪し続ける個体がいる一方で、レイチェルのように更に罪を重ねる個体もいる。

「レイチェルは破壊処分ですか?」
「恐らくそうなるはず。もし敷島さんの弁護があれば、自分は黙っていますよ」
「いや、弁護も何も、もう既に色々とやらかしているようですからね。できれば私も、シンディみたいに贖罪の機会を与えてやりたいところですが……」
 敷島達の慈悲、それが報われることがあるのだろうか?
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“新アンドロイドマスター” 「殺人アンドロイド」 1

2015-07-26 15:32:42 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月19日09:00.天候:雨 神奈川県相模原市緑区(旧・津久井郡藤野町)・十条達夫の家 レイチェル]

 それは異様な光景だった。
 2足歩行のロボット集団が金属の足で、ガチャッガチャッという音を立てて隊列を組んで歩いていた。
 もちろん、それを目撃した近隣住民はいた。
 しかし向かう先が町外れの一軒家、十条家であることを知ると、
「ああ、またあの人の発明か」
 くらいで済まされていたのだった。
 何故ならそのロボット達……それを率いる20代の美女を模したレイチェルもまた一心不乱にその家を目指していたからである。
 雨の中、傘も差していない。
 傘を差していても濡れる恐れがあるほどに、強めの雨が降っていた。
 すれ違う車のフロントガラスも、ワイパーが規則正しく動いているくらいだ。
 そんな車も人も全く見かけなくなった所に、その家はあった。
「レイチェル様。コチラデヨロシイデスカ?」
 レイチェルが率いているロボットは、毎度お馴染みのバージョン4.0。
 LPガスとバッテリーの併用で動いていることは先述した。
 だから背中には、ボンベみたいなものを背負っている形に見えるのだ。
「……ああ。ま、恐らく逃げた後だろう。近隣を捜索しろ。但し、いくら人家から離れた場所とはいえ、目立つ行動はするな」
「ハハッ!」
 レイチェルは昨日、達夫の前で振る舞っていた態度とはまるで別人のように、冷たい声で配下のロボット達に命令した。
「レイチェル様、アレヲ……」
「!」
 4.0の1機が伸ばした指先には、1台の軽ワゴン車が止まっていた。
 しっかりと紅葉マークが貼られている。
 達夫の車であることは一目瞭然だった。
「ドウヤラ、目標ハ家ノ中ニイルヨウデス」
「……まだそうとは限らない。車は置いて、電車で逃げたかもしれない。とにかく、油断の無いように」
「ハッ!」
 レイチェルは門扉をヒラリと飛び越えて、敷地内に入った。
 見た目、家からは人の気配は出てこない。
「……フン」
 試しにスキャニング機能を使用してみたが、エラーと出た。
 一応、離れた所からスキャンされない対策は取っているらしい。
 ……ということは、だ。
(あれほど言ったのに……!)
 レイチェルは一瞬、悲しそうな顔をした。
 そして、今一度与えられた命令を思い出す。
『達夫を殺して、宝物(ほうもつ)を取ってこい』
 どう解釈しても、達夫への殺人フラグは解除できそうになかった。
 当の本人が逃げてもぬけの殻でした、というオチに期待していたのだが……。
「レイチェル様、近隣ニ人影ハ全クアリマセン」
「……そうか」
「取リ急ギ、建物内ノ捜索ヲ!」
「……そうだな」
 玄関まで行くとドアには、
『急用の為、しばらく留守にします。尚、玄関ドアのこじ開けは無用。爆発します』
 という貼り紙がしてあった。
「…………」
 しばらくフリーズするレイチェル達。
 そのうち、4.0の1機が右手をマシンガンに変形させた。
「……レイチェル様、撃ッチャッテモヨロシインデショウカ?」
「お前、撃ってみろ」
「エエッ!?」

[同日同時刻 天候:曇 宮城県仙台市青葉区・仙台市科学館 敷島孝夫、エミリー、シンディ、アルエット]

 特設ステージの上でダンスを披露するマルチタイプ達。
 歌は歌えないが、ダンスはできる。
 特に練習などしなくても、その形を入力すればすぐに踊れることを披露した。
「何だか、ボカロの連中の気持ちが少しは分かるイベントだねぃ……」
 ボーカロイド達は上昇した体温を冷やすため、常に体を冷やす必要がある。
 だからソロライブの時などは、あまり大きなダンスはしない。
 しかしマルチタイプ達は、3人で激しい動きのダンスをしても氷嚢などで冷やす必要は無いということをアピールした。
「ボーカロイドは本来、歌う方がメインだからな。『歌って踊れるアンドロイド』を謳い文句にはしているけども、まだ踊った後の冷却がな……」
 因みに今、控え室にいる。
「今度は楽器を弾いてもらう。アルエットは何ができるんだっけ?」
「何でもできます」
「! そうか。じゃあエミリーがピアノ、シンディがフルート、アルエットがトランペットを吹いてくれ。指揮は俺がやる」
「凄いね、アルエット」
 シンディが目を丸くした。
「さすがは・最新モデル・だ」
 エミリーも目を細める。
「よし。10時から始めるぞ。取りあえず着替えたら、また展示スペースに行ってくれ」
「はい!」

[同日10:00.十条の家・地下室 十条達夫]

 まるで銀行の金庫室かと思うようなドアの先に、コンクリート造りの地下室がある。
 そこで達夫は手記を書いていた。
『今のレイチェルは殺人アンドロイドだ。何としても、伝助の命令が解除される来週まで生き延びられれば良いが……』
『外から女の断末魔が聞こえた。どうやら、ダニエラが破壊されたらしい。リカルドといい、どうして私の使用人ロボット達はこんなにも短命なのか』
 とか。
 そして最後には、
『ついにこの場所が発見されてしまった!廃業した銀行から払い下げられた、厚さ1メートルの鉄扉はバージョン4.0程度の力では破壊できないはずだ。だが、相手はあのレイチェルだ。そのドアが破壊されるのも、時間の問題だろう。最悪、相模湖まで水路を使って逃げるか……』
『外が静かになる。侵入を諦めたか?いや、相手はあのマルチタイプだ。そう簡単に諦めるとは思えない。恐らく、仕切り直しに一旦出たのだろう』
『食糧は十分ある。何とかこれで……』

[同日同時刻 十条の家・仏間 レイチェル]

 見るも無残に破壊された仏壇。
 そこにお目当ての物は無かった。
「レイチェル様、カクナル上ハ、ドクター達夫ヲ捕エル他アリマセン!」
 配下の4.0が申し出る。
「レイチェル様!地下室ヲ発見シマシタ!厳重ナ鉄扉ニヨッテ施錠サレテイマス!」
「その中にドクター達夫はいるの?」
「分カリマセン。デスガ、家中捜索シマシタガ、全ク発見デキズ!残ルハソノ鉄扉ノ先ニ他ナラナイカト!」
「すぐに破壊して捜索しなさい」
「ソレガ、余リニモ堅牢デ、我々の力でハ破壊デキナイノデス!レイチェル様、何卒、アナタ様ノお力で!」
「……しょうがないね」

[同日11:00.仙台市科学館 敷島、エミリー、シンディ、アルエット]

 敷島がタキシード姿に着替え、ミニステージの上に立つ。
 あくまでもパフォーマンスであり、敷島の指揮が無くても、マルチタイプは確実なテンポで演奏を行うのだが。
(それにしても……)
 と、シンディはフルートを吹きながら思う。
(レイチェルのヤツ、全然こっちに来ないけど、本当にアタシ達の居場所が分からないのかしら?)
 そして、ピアノを弾くエミリーをチラッと見る。
(姉さんは相変わらずGPSは入れたままだから、姉さんを頼って飛んできそうなものだけどねぇ……)
 アルエットはトランペットを吹いた他は、バイオリンを弾いたりした。

 エミリーのテーマ曲“人形裁判 〜人の形弄びし少女〜”、シンディのテーマ曲“千年幻想郷 〜History of the moon.〜”、アルエットのテーマ曲“竹取飛翔 〜Lunatic Princess.〜”
 え?全部、“東方Project”だろうって?気にしない気にしない。

「社長、あの……」
 アルエットのテーマ曲まで弾いた後、シンディが何か申し出た。
「何だ?」
「レイチェルのテーマ曲もやりたいんですけど、音源ありますか?」
「……ある。やるのか?ヘタすると、ここがバレるぞ?」
「それは、姉さんがいますから」
「レイチェルに・勝手なことは・させません」
 もしここにやってきてテロ行為を働こうものなら、エミリーが長姉として取り押さえるとのことだ。
 白兵戦になれば、それが苦手なレイチェルは取り押さえられると……。
「分かった。じゃあ、やろう」
 敷島は指揮棒を上げた。

 レイチェルのテーマ曲“上海紅茶館 〜Chinese Tea.”
 ……やっぱり“東方Project”だ。
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“新アンドロイドマスター” 「惨劇の始まり」

2015-07-26 02:55:27 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月18日21:00.天候:晴 地下鉄旭ヶ丘駅 敷島孝夫、鏡音リン・レン、シンディ、アルエット]

 全てのロイド達の整備も終わり、市街地に向かう敷島達。
 夕方に降っていたゲリラ豪雨もこの時点では止み、再び蒸し暑さが市内全域を覆っている。
 電車が来るまでの間、ホームにはBGMが流れる。
「広瀬川~♪流れる岸辺~♪」
「だからリン、ここで歌っちゃダメだって」
 敷島が注意すると、
「ちぇ~っ。リンもシンガーソングライターの歌、カバーしたかったのにぃ……」
 と、やや頬を膨らます。

〔1番線に、富沢行き電車が到着します。……〕

 そうこうしているうちに、電車がやってきた。
 これから市街地へ向かう方は空いている。
 いつもの通り電車に乗り込むと、敷島以外は立つ。
「いいんじゃないか?ガラガラなんだし、リンとレンも座ったら」
 敷島が言うと、ボーカロイド姉弟は素直に従った。
 敷島やボーカロイドの護衛という名目上、シンディは彼らの横に立ち、アルエットも従姉機に従ってかその横に立っていた。

〔1番線から、富沢行き電車が発車します〕

 短い発車サイン音の後、電車はドアを閉めて走り出した。
 車窓には公園が見えるが、時間帯のせいか、トンネルの中の風景とあまり変わらない。
 この駅より北の地上区間であれば、例え夜でも地下とはまた雰囲気も違うのだろうが。
 半地下というのが、何とも微妙な光景だ。

〔次は台原、台原です。台原森林公園南口は、こちらです。……〕
〔日蓮正宗上方山・日浄寺へは北仙台、法龍山・仏眼寺へは愛宕橋駅でお降りください。それぞれ駅から徒歩5分です〕

「すっかり遅くなっちゃったねぇ……」
 リンが呟くように言うと、敷島は、
「まあ、最終の東京行きには間に合うし、平賀先生も丁寧に診てくれたわけだからな」
 と、答えた。
「明日は入れ替わりでKAITOが来るから、お前達とはまた違った盛り上がりになるだろうな」
「うんうん」

[同日21:45.JR仙台駅・東北新幹線ホーム 上記メンバー]

〔「今度の13番線の電車は21時47分発、“やまびこ”60号、東京行きです。本日の東京行き、最終列車です。ご利用のお客様は、お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 時折、生温かい風が吹き抜ける新幹線ホーム。
 そこまで見送りに来た敷島達。
「いいか?東京駅に着いたら、真っ直ぐタクシーに乗り換えて、事務所まで戻るんだぞ?」
「分かりました」
「もーっ、コドモじゃないんだから~」
 レンは素直に頷いたが、リンは大仰な見送りをされることに対し、少し不満そうだった。
 見送り不要だと地下鉄を降りた時に主張したのだが、却下された。
「まだ、KR団がどこで見張ってるか分からないだろ?本当ならシンディをついて行かせたかったんだが……」
「アリス博士の命令で、社長から離れられないしね」
 シンディは右手を腰にやってウインクした。
「かといって、アルエットを勝手に使うわけにはいかないし……」
 そもそもアルエット自身が戦闘慣れしていない。
 シンディ達もそうだが、最初から戦闘データを入力されているわけではなく、人間のように実戦データを積み重ねて、それで独自の戦闘法を確立させていくというシステムだ。
 エミリーが白兵戦(近距離での銃撃または組み付き)、シンディが遠距離からの狙撃とナイフ(ナイフは対人用につき、事実上の封印)、レイチェルが重火器を使用した狙撃に特化していたりと、同型機なのに戦い方が違うのはその為である。

〔13番線に21時47分発、“やまびこ”60号、東京行きが10両編成で参ります。この電車は途中、福島、郡山、宇都宮、大宮、上野に止まります。まもなく13番線に、“やまびこ”60号、東京行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 自動放送が鳴り響くと、今度は駅員が肉声放送を流す。
 最終列車であることを強調しているが、実際はこの後にもう1本ある。
 ただ、郡山止まりなだけだ。
 眩いヘッドライトを光らせた列車が入線してきたが、“はやぶさ”用のE5系ではなく、“はやて”用に製造されたE2系である。
 が、
「おお~、これは充電コンセントが付いてるパターンだよ、レン?」
「うん。充電できるね」
 と、ボカロ姉弟は大喜び。
「充電だぁ?」
「整備はしてもらいましたけど、充電はあまりしてなかったので……」
 敷島の疑問に、レンが答えた。
「そうだったのか。コンセントは仲良く回せよ」
「大丈夫だYo~。グリーン車、1人ずつコンセントあるしぃ」
「ん?そうだったか?」
 売れっ子の2人は、正にそれで帰る。
 いつもそうしているわけではなく、例えば本当にシンディを付かせる場合は逆に普通車の3人席に座らせ、固めた方が良い場合もある。
 さすがのマルチタイプも、超高速で走行中の新幹線に対し、ピンポイントでの狙撃は照準が合わせられない為、無理であるという。
「じゃあ気をつけて帰って、明日も仕事頑張れよ」
「うん!」
 9号車に乗り込む2人。
 それと同時に、仙台駅新幹線ホームオリジナルの壮大な発車メロディが鳴り響く(作者が子供の頃から既に使われており、子供の頃はそれが新幹線全ての駅で流れているものと思っていた)。

〔「最終の東京行き、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 けたたましい客扱い終了の合図音と共にドアが閉まり、列車が走り出した。
 余談だが、E2系グリーン車の座席は菜の花畑をイメージしてデザインされたとされ、それが同じく黄色がイメージカラーのリンとレンにマッチしているように見えるのだ。

〔「今度の東北新幹線上り列車は、13番線から22時25分発、“やまびこ”290号、郡山行きが発車します。……」〕

 敷島達は本当の最終列車の案内を背に、改札口へ向かった。
「どれ、俺達も帰って休もう」
「はい!」
「今度は社長がアルエット達の部屋に泊まるのよ」
 シンディがニヤッと笑った。
「えっ?」
「良かったわね、ハーレムで。それとも、逆3Pって言った方がいい?」
「機械仕掛けの女達に囲まれたところで、何の旨味もねぇっての」
「せっかくだから、アルエットにも“夜の技”を教えてあげましょうよ」
「変な事教えるなって、達夫爺さんからクレーム来るからダメ!」
「でも……」
 そんなことを言い合いながら、ホテルに戻る3人だった。

 遠く離れた相模湖の近くにおいて、まもなく惨劇が起ころうとは、露ほども知らない。
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