[5月1日16:30.天候:雨 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園1F東側通路→大浴場]
私達は浴衣に着替えると、大浴場に向かった。
1階のロビーまで一旦下りると、またリサが反応した。
リサ:「私と似た臭い……」
愛原:「スタッフの人達だろう?」
1階の奥に向かうと、途中に従業員用のドアがある。
そこにセーラー服を着て、白い仮面を着けた少女が入って行った。
リサ:「えっ!?」
愛原:「い、今の……!?」
高橋:「リサ・トレヴァーっすよね!?日本版の」
私はそのドアを開けようとした。
だが、鍵が掛かっており、開けることはできない。
愛原:「一体このホテルは何なんだ?」
本当にゆっくりできるのだろうか。
愛原:「なあ、高橋……」
脱衣場の造りや、大浴場の造りも変わった所は無かった。
大抵の温泉地にあるホテルならではの造りだった。
私が違和感に思ったことがある。
愛原:「いくら何でも、ガラガラ過ぎないか?」
そうなのだ。
確かに今はコロナ禍である。
如何に観光地が書き入れ時とはいえ、客足が伸び悩んで疲弊している所は多々あると聞く。
それにしても、それにしてもだ。
あまりにも、他の客が居なさ過ぎないか?
先ほどのロビーにせよ、この大浴場にせよ、他の宿泊客と1度も会っていないのだ。
高橋:「そうっスね。貸切状態っスね」
高橋は特に気にしていないようだ。
高橋:「先生!またいつものよろしいっスか!?」
愛原:「分かったよ」
こういう所に来ると、高橋はいつも私の背中を流したがる。
家でもやりたいようだが、それは断っていた。
家風呂くらい、1人でゆっくり入りたいものだ。
愛原:「さすがに露天風呂は無理か……」
私は雨足の強い外を見て呟いた。
高橋:「後で俺が外の様子を見てきますよ」
愛原:「そうか?」
高橋に背中を流してもらい、後の部分は自分で洗った。
それから大きな岩風呂に入って一息つく。
高橋:「じゃあちょっと俺、露天風呂の方、見てきます。先生はゆっくり入っててください」
愛原:「ああ。すまない」
高橋は露天風呂に出るドアの方に向かった。
そして……。
愛原:「どうだった?」
戻ってきた高橋に状況を聞いてみた。
高橋:「何か微妙っスね。屋根の付いてる部分はあるんスけど、それ以外は風呂に入りながら天然のシャワーを浴びるって感じっス」
愛原:「やっぱりか。しょうがない。露天風呂は今日のところは諦めよう」
高橋:「残念っスね。それと、1つ気になったことがあるんスけど……」
愛原:「何だ?」
高橋:「外から、何か鐘の音が聞こえてくるんスよ」
愛原:「鐘の音?お寺のか?」
高橋:「まあ、そうッスね。ほら、坊さんがお経唱える時に、カーンって叩くヤツがあるじゃないッスか」
愛原:「鈴(りん)だな」
高橋;「あんな感じの音っス」
愛原:「近くにお寺でもあるんだろう。で、この時間は夕方の勤行をやるから、それで鈴を叩いているのかもしれない」
高橋:「それと、何か太鼓の音も聞こえてきて……」
愛原:「宗派によっては、お経の時に太鼓を叩く所もあるんだ。それだろう」
高橋:「そういうもんスか」
愛原:「だと思うよ」
この時、私は特に気にはしていなかった。
[同日17:30.天候:雨 同ホテル1F・ロビー]
大浴場から出ると、私はフロントに向かった。
フロント係:「え?他のお客様でございますか?」
愛原:「そう。いくらコロナ禍とはいえ、随分と寂しいなぁと思って」
フロント係:「確かに本日のお客様は、斉藤様方だけでございます」
愛原:「やっぱり!まさかと思うけど、いつもこんな感じじゃないよね?」
フロント係:「いえ、もちろん普段は多くのお客様にご利用頂いております。本日はたまたまでございます」
愛原:「そうか……。あとそれと、外から鈴の音と太鼓の音が聞こえてきたんだ。この近くに、お寺があるの?」
フロント係:「それは天長会の『お祈り』の時間ですね。このホテルの敷地内に、『聖堂』がございますので……」
愛原:「あ、そうか。ここは天長会の直営だもんね」
フロント係:「さようでございます」
愛原:「あと、もう1つ聞きたいのは……実はさっき、従業員入口のドアから入って行くセーラー服に白い仮面を着けた女の子を見かけたんだ。あれは誰だろう?」
フロント係:「ああ、あれはうちのスタッフです。ここでアルバイトをしているのです。出勤前に、『聖堂』で『お祈り』に参加するところだったようですね」
愛原:「白い仮面というのは?」
フロント係:「天長会では、『巫女』は白い仮面を着けて『お祈り』に参加するのです。それですね」
愛原:「日本版リサ・トレヴァーが同じ仮面を着けるのと、何か関係はある?」
フロント係:「申し訳ございませんが、そこまでは私は存じかねます」
あるんだろうな、きっと。
そして、東京中央学園上野高校旧校舎に括り付けられている“トイレの花子さん”が白い仮面を着けている理由も、きっと……。
愛原:「最後に1つだけ。天長会では、人は自殺をしたらどうなると教えてますか?」
フロント係:「神が定めた寿命を勝手に終わらせたことは大罪であり、その罰として、自殺をしたその場に暫く縛られることになります。その期間は、神しか知りません」
もしかして……あの花子さんって、天長会の信者で、しかも『巫女』だったんじゃないか。
愛原:「その……罰を受けた死んだ人が、神様に赦されるには、周りの生き残った人間としてはどうすればいいのだろう?」
フロント係:「神の啓示を待つのみ。あとは、ひたすらお祈り申し上げるのみですね。もしくは、自殺に追いやったとされる側が明らかに悪い場合、神からの罰を受ける場合があります。その罰が終わった後、赦されるとも言われています」
愛原:「それは……神様の罰で死ぬってこと?」
フロント係:「罪の内容次第です」
日本アンブレラの次は、宗教団体か。
フロント係:「よろしければ、向こうに天長会について紹介しているコーナーがございます。お夕食の後、御覧になってみてはいかがでございましょうか」
愛原:「なるほど。それでは、後で見せてもらおうかな」
私はフロントをあとにして、ロビーに戻った。
私達は浴衣に着替えると、大浴場に向かった。
1階のロビーまで一旦下りると、またリサが反応した。
リサ:「私と似た臭い……」
愛原:「スタッフの人達だろう?」
1階の奥に向かうと、途中に従業員用のドアがある。
そこにセーラー服を着て、白い仮面を着けた少女が入って行った。
リサ:「えっ!?」
愛原:「い、今の……!?」
高橋:「リサ・トレヴァーっすよね!?日本版の」
私はそのドアを開けようとした。
だが、鍵が掛かっており、開けることはできない。
愛原:「一体このホテルは何なんだ?」
本当にゆっくりできるのだろうか。
愛原:「なあ、高橋……」
脱衣場の造りや、大浴場の造りも変わった所は無かった。
大抵の温泉地にあるホテルならではの造りだった。
私が違和感に思ったことがある。
愛原:「いくら何でも、ガラガラ過ぎないか?」
そうなのだ。
確かに今はコロナ禍である。
如何に観光地が書き入れ時とはいえ、客足が伸び悩んで疲弊している所は多々あると聞く。
それにしても、それにしてもだ。
あまりにも、他の客が居なさ過ぎないか?
先ほどのロビーにせよ、この大浴場にせよ、他の宿泊客と1度も会っていないのだ。
高橋:「そうっスね。貸切状態っスね」
高橋は特に気にしていないようだ。
高橋:「先生!またいつものよろしいっスか!?」
愛原:「分かったよ」
こういう所に来ると、高橋はいつも私の背中を流したがる。
家でもやりたいようだが、それは断っていた。
家風呂くらい、1人でゆっくり入りたいものだ。
愛原:「さすがに露天風呂は無理か……」
私は雨足の強い外を見て呟いた。
高橋:「後で俺が外の様子を見てきますよ」
愛原:「そうか?」
高橋に背中を流してもらい、後の部分は自分で洗った。
それから大きな岩風呂に入って一息つく。
高橋:「じゃあちょっと俺、露天風呂の方、見てきます。先生はゆっくり入っててください」
愛原:「ああ。すまない」
高橋は露天風呂に出るドアの方に向かった。
そして……。
愛原:「どうだった?」
戻ってきた高橋に状況を聞いてみた。
高橋:「何か微妙っスね。屋根の付いてる部分はあるんスけど、それ以外は風呂に入りながら天然のシャワーを浴びるって感じっス」
愛原:「やっぱりか。しょうがない。露天風呂は今日のところは諦めよう」
高橋:「残念っスね。それと、1つ気になったことがあるんスけど……」
愛原:「何だ?」
高橋:「外から、何か鐘の音が聞こえてくるんスよ」
愛原:「鐘の音?お寺のか?」
高橋:「まあ、そうッスね。ほら、坊さんがお経唱える時に、カーンって叩くヤツがあるじゃないッスか」
愛原:「鈴(りん)だな」
高橋;「あんな感じの音っス」
愛原:「近くにお寺でもあるんだろう。で、この時間は夕方の勤行をやるから、それで鈴を叩いているのかもしれない」
高橋:「それと、何か太鼓の音も聞こえてきて……」
愛原:「宗派によっては、お経の時に太鼓を叩く所もあるんだ。それだろう」
高橋:「そういうもんスか」
愛原:「だと思うよ」
この時、私は特に気にはしていなかった。
[同日17:30.天候:雨 同ホテル1F・ロビー]
大浴場から出ると、私はフロントに向かった。
フロント係:「え?他のお客様でございますか?」
愛原:「そう。いくらコロナ禍とはいえ、随分と寂しいなぁと思って」
フロント係:「確かに本日のお客様は、斉藤様方だけでございます」
愛原:「やっぱり!まさかと思うけど、いつもこんな感じじゃないよね?」
フロント係:「いえ、もちろん普段は多くのお客様にご利用頂いております。本日はたまたまでございます」
愛原:「そうか……。あとそれと、外から鈴の音と太鼓の音が聞こえてきたんだ。この近くに、お寺があるの?」
フロント係:「それは天長会の『お祈り』の時間ですね。このホテルの敷地内に、『聖堂』がございますので……」
愛原:「あ、そうか。ここは天長会の直営だもんね」
フロント係:「さようでございます」
愛原:「あと、もう1つ聞きたいのは……実はさっき、従業員入口のドアから入って行くセーラー服に白い仮面を着けた女の子を見かけたんだ。あれは誰だろう?」
フロント係:「ああ、あれはうちのスタッフです。ここでアルバイトをしているのです。出勤前に、『聖堂』で『お祈り』に参加するところだったようですね」
愛原:「白い仮面というのは?」
フロント係:「天長会では、『巫女』は白い仮面を着けて『お祈り』に参加するのです。それですね」
愛原:「日本版リサ・トレヴァーが同じ仮面を着けるのと、何か関係はある?」
フロント係:「申し訳ございませんが、そこまでは私は存じかねます」
あるんだろうな、きっと。
そして、東京中央学園上野高校旧校舎に括り付けられている“トイレの花子さん”が白い仮面を着けている理由も、きっと……。
愛原:「最後に1つだけ。天長会では、人は自殺をしたらどうなると教えてますか?」
フロント係:「神が定めた寿命を勝手に終わらせたことは大罪であり、その罰として、自殺をしたその場に暫く縛られることになります。その期間は、神しか知りません」
もしかして……あの花子さんって、天長会の信者で、しかも『巫女』だったんじゃないか。
愛原:「その……罰を受けた死んだ人が、神様に赦されるには、周りの生き残った人間としてはどうすればいいのだろう?」
フロント係:「神の啓示を待つのみ。あとは、ひたすらお祈り申し上げるのみですね。もしくは、自殺に追いやったとされる側が明らかに悪い場合、神からの罰を受ける場合があります。その罰が終わった後、赦されるとも言われています」
愛原:「それは……神様の罰で死ぬってこと?」
フロント係:「罪の内容次第です」
日本アンブレラの次は、宗教団体か。
フロント係:「よろしければ、向こうに天長会について紹介しているコーナーがございます。お夕食の後、御覧になってみてはいかがでございましょうか」
愛原:「なるほど。それでは、後で見せてもらおうかな」
私はフロントをあとにして、ロビーに戻った。
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