報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「プロジェクトX」

2020-03-04 14:47:39 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月2日09:27.天候:晴 東京都墨田区菊川 都営地下鉄菊川駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は再び政府エージェントの善場主任に会うべく、霞ケ関に向かう所だ。

〔まもなく1番線に、各駅停車、新宿行きが10両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 朝ラッシュのピークも過ぎてはいるが、まだまだ駅構内は賑わっている。
 そして、この場にはリサがいた。
 今日は3年生の卒業式であるが、新型コロナウィルスの影響で内容が大幅に縮小され、在校生代表の見送りはカットされたという。
 その為、例え在校生代表に選ばれなくても、卒業式会場の設営や撤収の手伝いは多くの在校生が駆り出されるのだが、それも要員が半分以下に削られた。
 で、リサはそれからも漏れたので、事実上の休みとなったわけだ。
 もちろん明日の終業式には参加する。
 一応、リサは学校の制服は着ていた。
 これでも霞ケ関の庁舎には行くわけだからな。
 普段はラフな格好の高橋にもスーツは着させているが、どうもこいつが着ると、ホストかチンピラヤクザに見えてしまうんだな。
 何度エントランスで警備員に止められたことか。

〔1番線の電車は、各駅停車、新宿行きです。きくかわ~、菊川~〕

 京王線から乗り入れて来た京王電車がやってきた。
 それが新宿止まりということは、いわゆる線内折り返しというヤツだろう。
 しばらくは都営地下鉄線内を走って走行距離を稼ぎ、それから京王線に帰るというパターンだな。
 その間に人身事故なんか起きて、相互乗り入れが中止されると、再開されるまで乗り入れ先に閉じ込められるという運命になる。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 私達がドアの前に立つと、すぐに電車が走り出した。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Morishita.S11.Please change here for the Oedo line.〕
〔『リーズナブルでお値段で、お客様の安眠をお約束します』ワンスターホテルへは、次でお降りください〕

 リサ:「外が見えない……」
 愛原:「地下鉄だから当たり前だよ」
 リサ:「こんな真っ暗闇の中、閉じ込められるのは嫌だな……」
 愛原:「霞ケ関に着くまでの辛抱さ」

 まずいな。
 地下鉄に乗っただけでこれだで?
 善場主任の紹介する秘密の研究所がどこにあるのかは知らんが、恐らく地下にでもあるのだろう。
 研究所というだけでリサを納得させるのが難しいのに、ましてやそれが地下となると……今度こそリサが暴走してしまうぞ。
 アメリカのルイジアナ州で起きたバイオハザード事件のように……。

 リサ:「この電車じゃ行けないよ?」
 愛原:「分かってる。途中で乗り換えるさ。小川町で千代田線に乗り換えできるからな、それで霞ケ関に行けるんだ」

 私が時間が掛かりつつも、なるべく都営バスを利用するようにしているのは、リサが地下の闇を嫌がるからだ。
 もし仮にだ。
 もしも仮に停電が発生して、電車や駅が真っ暗になったら、リサは暴走するかもしれない。
 もちろん、真っ暗にはならないよう非常灯は備えられているはずだが、それで大丈夫かどうか……。

[同日10:00.天候:晴 東京都千代田区霞が関 某行政機関庁舎]

 私達が乗った地下鉄新宿線も千代田線も、何事も無く運転してくれた。
 その甲斐あってリサは暴走せず、私達も約束の時間に霞が関に到着することができた。

 善場優菜:「御足労頂きまして、ありがとうございます」

 庁舎内の外部会議室で待っていると、善場主任と部下の男性職員1人が入って来た。
 国家公務員ということもあってか、いつも善場主任はスーツがよく似合う。

 愛原:「いえ、こちらこそ恐れ入ります」
 善場:「今度は警備員に止められませんでしたか?」

 善場主任は高橋を見て笑みを浮かべた。

 愛原:「さすがにもう顔を覚えてくれたみたいです」
 善場:「それは良かったです」
 高橋:「どうせ俺はスーツなんて似合わないっスよ」
 善場:「今度はもう少しカジュアルな場所でお話しできるといいですね」
 愛原:「さすがに今回は重い話でしょうから……」
 善場:「ええ、残念なことに。特に、リサさんにとっては」
 リサ:「!」
 愛原:「善場主任、それはやはり……?」
 リサ:「ええ。厚生労働省からのたっての依頼で、やはりリサさんには協力して頂くことになりました」
 愛原:「うーむ……やはり……」
 リサ:「何の話?」
 善場:「もちろん、愛原さん達にも御一緒して頂きます。その方がいいでしょう」
 愛原:「そういうことなら……」

 私はリサの方を向いて言った。

 愛原:「まあ、その……何だ。春休みの間、ちょっと一緒に出掛けようかって話」
 リサ:「先生達と一緒に?」
 愛原:「そうだ。高橋と高野君も一緒だ」
 高橋:「俺も実験動物っスか?」
 愛原:「そういうこと言わない」
 リサ:「実験!?」
 善場:「リサさん、実験といっても、あなたが昔に受けて来たものじゃないのよ」
 愛原:「あれでしょ?採血するくらいでしょ?」
 善場:「そういうことです」
 愛原:「それでそんな長期になりますかね?」
 善場:「? 長期になるとは申し上げておりませんが?」
 愛原:「あっ……」

 それは斉藤絵恋さんの話だ。

 愛原:「まあ、とにかくだ。リサ、研究所には行くことになるが、別にあのアンブレラの研究所ってわけじゃないし、俺達も一緒に行くから。な?」
 リサ:「ううーん……」

 リサは警戒したのか、第0形態から第1形態へと変化してしまった。

 善場:「大丈夫ですよ。場所もそんなに遠い所じゃありませんし」
 愛原:「場所が『首都圏』で濁されてますけど?」
 善場:「厚労省の秘密の研究所ですから」
 リサ:「先生達も実験されるの?」
 善場:「ちょうど霧生市の事件からの生還者も調べたいらしいからね」
 愛原:「Tウィルスに関しての抗体があることは、もう分かっていると思いますが?」
 善場:「そうじゃなくて、本当にその抗体で特効薬ができるかどうかの実験です」
 愛原:「うーむ……」

 ま、行くっきゃないか。
 善場主任の所属機関では、リサを成人後は特務エージェントとして使いたい計画なわけだから、今の段階で無理はしないだろう。

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