報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「登山前夜の魔の嵐」

2017-10-31 10:10:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月28日06:30.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷2F東側ゲストルーム]

 藤谷:「……不失心者 見此良薬 色香倶好 卽便服之……」
 稲生:「……不失心者 見此良薬 色香倶好 卽便服之……」

 朝の勤行の2人。
 どうせ2階東側にいるのは稲生と藤谷だけだから、特に気にせず大きな声で勤行をしても問題はあるまい。
 そう思っていた信徒2人であったが……。

 藤谷:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」
 稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」

 五座の御観念文まで終了し、最後に題目三唱で終了する。

 藤谷:「ご苦労さま」
 稲生:「いえいえ。何だか、久しぶりの勤行でした」
 藤谷:「その割にはいい声出てたよ」
 稲生:「ははは……。あ、そろそろ朝ご飯の時間なので、食堂に行ってみましょうか」
 藤谷:「分かった」

 部屋の外に出た稲生達。

 稲生:「んっ!?」
 藤谷:「こ、これは……!?」

 部屋の外、稲生達の勤行の声を聞いたトラップが全て破壊され、近くにいたメイド人形達まで被害が及ぶという惨事が起きていた。

[同日07:00.天候:晴 マリアの屋敷1F西側 大食堂]

 マリア:「半端無いなー、あんた達の勤行とやらは……」

 呆れるマリア。

 稲生:「ここが“魔”の巣窟であることを忘れていました」
 藤谷:「“魔の者”とやらも、俺達の勤行で倒せるんじゃね?」
 稲生:「いや、それは多分ムリです」
 マリア:「絶対ムリ」
 藤谷:「そ、そうスか……。それであの、イリーナ先生は?」
 マリア:「何か知らんが、藤谷さんの部屋を水晶球で覗こうとしてた」
 藤谷:「えっ!?」
 マリア:「キモいムフフ顔で」
 藤谷:「何ですと!?」
 マリア:「覗きなんて趣味悪いし、BBAのムフフ顔はキモいから止めたんだけど、振り切られちゃってね……」
 稲生:「そ、それで?」
 マリア:「藤谷さん達の勤行が始まった途端、水晶球が爆発してそのままKOだよ。今、寝込んでる」
 藤谷:「ええっ、マジっすか!?」
 稲生:「Oh!Jesus!」
 藤谷:「俺達、そんな凄いことやっちゃった???」
 稲生:「普通に日蓮正宗式の朝勤行やっただけですよね???」
 マリア:「コホン。とにかく、このままでは屋敷が崩壊しかねないので、勤行は禁止だ」
 稲生:「思い出した。それもあって、『日蓮正宗は離檀した方がいい』ってことになったんだっけ」
 マリア:「そう」
 藤谷:「しかし作者と違って稲生君自体、信仰心が失せたわけでもないし、『魔道師になるから信心活動できません』なんて、下手すりゃ黄色い救急車呼ばれるレベルだから、誰も信じてくれなくてね。離檀願は今でも俺が預かってるよ」
 稲生:「そういうもんですか」
 藤谷:「とにかく、イリーナ先生に申し訳無いことをしました。お見舞いさせてください」
 マリア:「朝食が終わったら案内するよ。勝手に男の部屋を覗いた仏罰とやらだろう。盛りのついたBBAにはいい薬だ」

 本人がいないとはいえ、かなりストレートな物言いをするのは欧米人ならではか。

[同日08:00.天候:晴 マリアの屋敷2F西側 オーナーズルーム]

 真下の1階はマリアが使用している。
 2階の主人の部屋は、やはり豪勢な造りだ。

 イリーナ:「うーん……うーん……腰が……腰がぁ……!ダルい……死ぬ〜……!」

 Ω\ζ°)チーン

 マリア:「別に、元気みたいだから見舞はいいみたいだ」
 藤谷:「ええっ!?」
 稲生:「水晶球の爆発で、どうして腰痛とダルさが???」
 藤谷:「せ、先生!水晶球は弁償しますんで、どうか1つ、お慈悲を!」
 イリーナ:「あ〜、そうだねぇ……。大魔道師の大事な水晶球を破壊するなんて、大したタマだねぇ……」
 藤谷:「何でしたら今、ここに小切手がありますんで!」

 藤谷は黒いスーツのジャケットから長財布を出した。
 財布だけで数万円しそうな感じだが、その中には如何にも札束が入っていそうな感じでもある。

 イリーナ:「いやいや。そんなものは必要無いよ」
 藤谷:「で、では!?」
 イリーナ:「この屋敷のエントランスに鍵を掛けた……!あと、屋敷の全トラップを作動させたから、永遠にこの屋敷で一緒に暮らしましょう……!フフフフフ……!」
 藤谷:(゚Д゚;)
 稲生:( ゚д゚)
 マリア:「……私の部屋にマスターキーがあるし、トラップを全て止める装置もあるから、それで帰ってくれ」

 マリアも一応、この屋敷においては管理権限のある住み込みの管理人である。

 藤谷:「へ、へい」
 稲生:「それじゃ先生、お大事に」
 イリーナ:「あっ、待って待って!さっきの全部、ウソよ、ウソ!見捨てちゃイヤーン!

 魔法使いの師弟関係も上下関係は厳しいものがあるのだが、その弟子がマスター認定されるとその距離は一気に縮まるということか。

[同日09:00.天候:晴 マリアの屋敷 エントランス]

 稲生:「忘れ物は無いですか、班長?」
 藤谷:「おう、バッチリ!」

 藤谷は車に乗り込んでエンジンを掛けた。

 稲生:「昨日来た道を真っ直ぐ戻れば、あの県道の峠道に出れますから」
 藤谷:「了解。それじゃ、今度は……」
 稲生:「正証寺でお会いしましょう」
 藤谷:「おっ、そっか。1度上京するって言ってたもんな。それじゃ、正証寺で会おう」
 稲生:「よろしくお願いします」
 藤谷:「それじゃマリアさ……あ、いや、先生。イリーナ先生によろしくお願いします」
 マリア:「ああ。藤谷さんも、変なBBAに目を付けられないように」
 稲生:「ええっ?」

 藤谷は車を走らせて、屋敷をあとにした。
 未舗装の砂利道とはいえ、そんなに走りづらくは無い。
 まるで林道を走っているかのようだ。
 そしてしばらく進むと、例のトンネルが見えて来た。
 トンネルはそんなに長くなく、入るとすぐに出口が見えて来るほどだ。
 但し、照明は無い。
 そこをヘッドライトを照らして進み、何の問題も無く反対側に抜けた。

 藤谷:「おや?」

 藤谷はミラーでさっきのトンネルを見た。
 トンネルの坑口の周りは、白いコンクリートになっていた。
 まるで、最近の鉄道トンネルのようである。
 確か来た時は、赤いレンガ造りだったはずだが……。

 藤谷:「ヘタに調べない方がいいな。要するに、あれが魔法使いの家に出入りする為のゲートなんだろう」

 藤谷は無事に県道に出ると、そのまま白馬村の中心街へ車を走らせた。

[同日同時刻 天候:晴 マリアの屋敷2F西側 オーナーズルーム]

 イリーナ:「…………」

 イリーナは机の前にタロットを並べていた。
 そして、その占いで出た結果に対して眉を潜めていた。

 マリア:「師匠、入ります」
 イリーナ:「いいよ」
 マリア:「まだ具合が悪いんですか?前にエレーナが押し売りしてきた薬がありますけど、使います?」
 イリーナ:「いや、大丈夫大丈夫。ハーブティーでも入れてくれれば」
 マリア:「分かりました。……何かあったんですか?」
 イリーナ:「うん、今度の稲生君の大石寺参詣なんだけどね……」
 マリア:「何か変なことが?」
 イリーナ:「特に無いわ。ユウタ君と、それと私達はね。ああ、もちろん藤谷さんも」
 マリア:「?」
 イリーナ:「でも一応、大石寺には私達も行きましょう。本当はユウタ君達が参詣している間、私達は街中で観光でもしたいところだけど」
 マリア:「はあ……」

 イリーナは何も無いとは言うが、そこは長年師事してきたマリア。
 やはり、イリーナが何か企んでいると踏んだのである。

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