報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「新しい推理」

2021-11-15 10:53:54 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日10:45.天候:晴 東京都新宿区西新宿 エステック情報ビルB1F]

 よーし、リサへのプレゼント、ゲット!
 あとは帰るだけだな。
 私がビルの1階へ上がろうとした時だった。

 男:「あのー、すいません」
 愛原:「はい?」

 私よりも小柄な中年の男が話し掛けて来た。
 しかし、年齢は私よりも上だろう。
 50歳くらいか。

 男:「探偵の愛原学さんですよね?」
 愛原:「はい、そうですが。どちら様で……」
 男:「私、同業の者です」

 男は名刺を差し出した。
 そこには、『世界探偵協会日本支部東京地区本部所属 Akibaエージェンシー 秋葉悟』と、書かれていた。

 愛原:「同業の秋葉さんと仰いますか。それで、その同業者の方がどのような御用件で?」
 秋葉:「ちょっと、お話よろしいですか?」
 愛原:「は、はあ……」

 私達は同じビルのカフェに入った。
 まだ昼前ということもあり、店内は空いている。

 秋葉:「実は私、とあるクライアントに頼まれて、遺骨の捜索に当たっているのです」
 愛原:「その遺骨って、もしかして、50年くらい前に無くなった女子高生の物では?」
 秋葉:「やはり御存知ですか。さすが、尾行した甲斐がありました」
 愛原:「尾行なんてしなくても、直接うちの事務所に来て下されば、情報の共有くらいはしますよ?」

 “トイレの花子さん”こと、斉藤早苗さんの遺骨そのものについては、私の業務とは直接関係無い。
 白井伝三郎が盗んだとされているが、まだ決定的な証拠が無いからだ。
 それに、直接その遺骨捜索のことは全く依頼されていない。

 秋葉:「いやいや!私もさすがに、そんな危険は冒しませんよ!」

 秋葉氏は帽子を被っていたが、さすがに店内ではそれを取っている。
 盗ると、さすがに私よりも頭頂部は薄めであった。
 私も10年後はこうなるのだろうか。
 それにしても、恰好が昔の探偵だな。
 さすがに、松田優作ほどではないが……。

 愛原:「危険?」
 秋葉:「今、『最もテロ組織に近い探偵』として有名ですよ?愛原さんは」
 愛原:「私が……。あー……まあ、ねぇ……」
 秋葉:「少しだけでもあなたのことを尾行させてもらって、今あなたを狙うテロリストがいないかどうかを確認したのです」
 愛原:「で、いないと判断された?」
 秋葉:「そうですね。現時点で、あなたのことを尾行している人間はいないようです」
 愛原:「それは良かったです。で、私に何を聞きたいんですか?業務内容の物については、お話できないが……」
 秋葉:「それはお互いさまでしょう。私が聞きたいのは、そこではありません。愛原さんの身内の中に、科学者はいらっしゃいませんか?ジャンルは問いません」
 愛原:「私の身内?まあ、1人農学者がいますが……」
 秋葉:「農学者ですか。その方、主にどんなことを研究されてますか?」
 愛原:「詳しくは知らないですよ。まあ、本人は『グスコーブドリの再来』なんて自称してますけど……」
 秋葉:「グスコーブドリ?あの、宮沢賢治の?」
 愛原:「そうです。宮沢賢治作“グスコーブドリの伝記”の主人公です。もっとも、キャラクター的にはクーボー大博士の方ですがね」
 秋葉:「いずれにせよ、凄い方が身内にいらっしゃるんですね」
 愛原:「それが何か関係あるんですか?」
 秋葉:「その農学者の方は愛原公一博士ですね?」
 愛原:「分かりますか?」
 秋葉:「少なくとも、ネットを検索すれば出てきます。今は東北の大学の農学部名誉教授ですね」
 愛原:「そうです」
 秋葉:「ネットの情報によれば、農薬や化学肥料の研究・開発も行っていたということですが?」
 愛原:「そのようですね。製薬会社から、そのライセンス契約の話が来たこともあるくらいです」

 もっとも、それが日本アンブレラだったのだから皮肉なもんだ。

 秋葉:「なるほど。分かりました」
 愛原:「今のでいいんですか?」
 秋葉:「ええ、結構ですよ。ありがとうございます。御礼に、ここの代金は私が持ちましょう」

 秋葉氏は伝票を手に取った。


[同日11:43.天候:晴 同地区内 都営地下鉄新宿駅・新宿線ホーム→新宿線1120T電車最後尾車両]

〔「今度の電車は11時43分発、各駅停車の本八幡行きです」〕

 菊川駅には止まらない急行電車を見送り、その次の各駅停車を待った。
 新宿始発ということもあり、無人の状態で入線してくる。
 先発の急行は京王電車だったが、こちらの各駅停車は都営の車両だ。

〔この電車は、各駅停車、本八幡行きです〕
〔This is a local train bound for Motayawata.〕

 私は再び硬い座席に腰かけた。
 秋葉氏とは、新宿駅で別れた。
 急ぎ足でJRの方に向かって行った。
 こりゃもしかしたら、公一伯父さんの所に行くかもしれないな。
 しかし、“花子さん”の遺骨捜しで、どうして公一伯父さんが出てくるのだろう。

 愛原:「……!?」

 私は、ある仮説が浮かんだ。
 い、いや、まさかな。
 だが、秋葉氏の言動がどうも怪しいというか……。

〔「この電車は11時43分発、都営地下鉄新宿線、各駅停車の本八幡行きです。終点、本八幡まで、急行電車の通過待ちはありません。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕

 地下ホームに発車ベルが鳴り響く。
 同時に車外スピーカーからも、メロディが鳴った。
 私はスマホを取り出した。
 まずは、高橋にLINEを送る。
 そうしているうちに、電車が走り出した。

〔都営新宿線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、各駅停車、本八幡行きです。次は新宿三丁目、新宿三丁目。お出口は、右側です。丸ノ内線、副都心線はお乗り換えです。一部、電車とホームの間が広く空いておりますから、ご注意ください〕

 高橋には遅くなった理由を話した。
 だが、この電車なら昼頃には菊川に到着できるだろう。
 高橋は特に何か言ってくるわけでもなく、ただ単に、『お疲れ様です。お気をつけて』と、返して来ただけだった。
 あとは、善場主任だ。
 主任はLINEではなく、メールである。
 主任には、まず他の探偵に遺骨の捜索を依頼したかどうかの確認をした。
 そしたら、そんなことはしていないという。
 私はそれを確認した上で、先ほどの秋葉氏とのやり取りを報告した。
 それに対し、主任は、『そのことについて、愛原所長の推理をお伺いしたいので、午後にでも電話ください』とのことだった。
 複雑だ。
 いや、話はそんなに複雑ではない。
 私の心中がだ。
 もしも私の推理が正しければ、公一伯父さんが悪者になってしまうからだ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “私立探偵 愛原学” 「リサ... | トップ | “私立探偵 愛原学” 「善場... »

コメントを投稿

私立探偵 愛原学シリーズ」カテゴリの最新記事