報恩坊の怪しい偽作家!

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“愛原リサの日常” 「愛原への迎え」

2020-11-29 13:51:00 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 物語を始める前に、愛原が付けた療養日記なるものがある。
 まずはこちらを紹介しよう。

「11月11日。瓦礫と化した建物を脱出した。その外は廃墟と化した町が広がっていたが、霧生市だろう。誰もいないその町を駆け巡る夢だったが、1人の少女が現れた。最初はリサ・トレヴァーの『1番』かと思ったが、どうやら違うらしい。『2番』のリサとよく似た少女が『1番』だという。だとしたら、これは10歳くらいの子なので確かに似ていない。それにしても、子供にしては不気味な笑いを浮かべる。私は走り去る彼女を呼び止めて、名前を尋ねた。すると、彼女は後ろを振り向き、不気味かつ無邪気な笑顔で答えた。『エブリン』と」

「11月12日。あの夢は見ていない。いつ見た夢なのか分からない。熱が下がらない。頭も痛いし、咳がヒドイ。コロナではないらしいが……」

「11月14日。何日め……?またしばらく意識が無かった。だけど、最初に見た夢をもう見ることはない。熱は……39度……。頭が重い」

「11月15日。先生の話をようやく聞けるようになった。どうやら私の体に入ったウィルスは変異して、まるでインフルエンザのような感じになったらしい。とても珍しいことらしい。検査をしたいからと、採血をされた。熱は38度」

「11月16日。リサや高橋からお見舞いの手紙が届く。何故か高野君からのメッセージは無い。熱は38度。しかし、頭痛は治まった。強いて言えばボーッとするくらい。咳もまだ出るが、果物などは食べれるようになった」

「11月17日。ICUから一般病棟に移される。但し、感染症の為か、入った病室は個室だ。まあ、咳をゴホゴホやっている状態で、大部屋には入れないか」

「11月18日。リサの夢を見る。リサも寂しがっていることだろう。早く退院したい」

「11月19日。やっと熱引いた。咳も収まっている。今日から流動食だが、何とか食欲も戻ったみたいだ」

「11月20日。今日からリハビリに入る。ずっとベッドで横になっていたから、起き上がるのも億劫だ。確か、新型コロナウィルスで入院していた患者も同じことを言っていたような気がする」

 中略。

「11月26日。時折微熱が出たり多少の頭痛がしたり、咳が出たりしていたものの、今日は全くもって健康だ。病院食も普通の食事になったし。明後日には退院できることになった。土曜日に退院なんて不思議な話だが、如何に私が特別な感染症だったかということだ。何しろ、BOWリサ・トレヴァーから直接感染させられたのだから」

「11月27日。今頃はリサ達もこの町に到着したはずだ。何しろ、片道3時間以上のこの町では、前泊は必須だろう。それにしても、気になることがある。私はリサ・トレヴァー『8番』の血反吐を浴びたことで感染した。『8番』に限らず、リサ・トレヴァーには自分の意思で自分のウィルスを活性化させたり、或いは無毒化させたりと自由にできるのだという。『8番』の場合は本当に私達を殺すつもりで感染させたのだから、ウィルスもさぞかし強毒化されたものだったろう。それを同じリサ・トレヴァー『2番』から血清やらワクチンやら作れたおかげで、私はこうして無事にいる。『2番』のリサには感謝する他無いのだが、それってつまりその『2番』のリサにもそのような能力があるということだ」

[11月27日23:00.天候:晴 福島県南会津郡南会津町 福島県立南会津病院]

 愛原:「……はっ!」
 看護師:「愛原さん、どうしました?」

 愛原は変な夢を見て目が覚めた。
 ちょうどそこへ見回りの看護師がやってくる。

 愛原:「あ……いえ、何でもないです。ちょっと、変な夢を見ちゃって……」
 看護師:「ああ。明日はいよいよ退院ですから、ゆっくり休んでくださいね」
 愛原:「あ、はい。すいません」

 愛原は再び布団を被った。
 愛原が見た夢は、久しぶりに現れた『エブリン』を名乗る少女。
 愛原が懸念しているリサ・トレヴァーの能力くらい自分も簡単に使えること、そしてその能力はリサ・トレヴァーも敵わないことを自慢げに話していた。

 愛原:(大丈夫なんだろうか……?)

[同日16:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 時間は少し遡る。
 リサは急いで学校から帰って来た。

 高橋:「来たなー。急いで出発の準備をしろ。明日は先生のお迎えだ」
 リサ:「分かった!」

 とはいえ、予め先にできる準備だけはしておいた2人。
 リサは服は制服のまま行くつもりでいた。
 一応、ブラウスと下着だけ替えた。
 部屋のインターホンが鳴る。

 高橋:「はい!」

 高橋が応答すると、相手は善場だった。

 善場:「善場です。お迎えに参りました。準備はできましたでしょうか?」
 高橋:「大急ぎでやってるとこっス!」
 善場:「17時の電車に乗りますからね、急いでください」
 高橋:「了解っス!」

 そして準備を終えた2人は、大急ぎでマンションのエントランスに向かった。
 裏手の駐車場に回ると、高野を連行した黒塗りのハイエースではなく、アルファードが止まっていた。

 善場:「お迎えに参りました。さ、早く乗ってください」

 善場が合図をすると、運転席に座っている黒服の部下が電動スライドドアを開けた。

 高橋:「またこれで片道3時間以上掛けて向かうんスね」
 善場:「愛原所長のお迎えなら、これくらい平気じゃないですか?」
 高橋:「当たり前っス!」
 リサ:「当たり前」
 善場:「じゃ、行きましょう。お願い」
 部下:「はっ。それでは、浅草駅まで向かいます」

 部下はスライドドアを閉めると、車を出した。

 高橋:「案外、入院期間長かったっスね」
 善場:「まあ、そうですね。あのリサ・トレヴァーが感染させたウィルスということもあり、新型コロナウィルス以上の態勢でもって対応する必要があったので。実態はインフルエンザのようなものでしたが」
 高橋:「こいつの体ん中に、そんなのが入ってるんですか?」
 リサ:「無いと思うけどなぁ……」

 リサは首を傾げた。

 善場:「ええ。恐らく無いでしょう。『8番』はTウィルスを強化したものを愛原所長に感染させたのです。しかし、愛原所長は元々Tウィルスへの抗体を持っていました。通常の毒性でしたら、そもそも感染すらしなかったと思います。しかし、『8番』は強化したものを送り込みました。それが所長の体の中で変異し、結果的にはインフルエンザのようなものに変異したと考えられます」
 高橋:「何か、アホみたいな話っスね。いや、インフルエンザだって、ヘタすりゃ殺人ウィルスだってことくらいは知ってますよ。だけど俺達、ゾンビウィルスの中を走り回ったくらいだから、今更インフルエンザって言われてもなぁ……と」
 善場:「まあ、そうですね。そのお気持ちは分かります。あとは『2番』のリサの血から作ったものが功を奏したと言えましょう」
 高橋:「毒を以て毒を制す、ってヤツっスか」
 善場:「正しく、言葉通りですね。結果的にそれで愛原所長が助かったのですから、それで良しとしましょう」
 高橋:「うス」

 善場と高橋の会話を、リサは上機嫌で聞いていた。
 自分の血が命の恩人を救う結果になったこと、とても狂喜という言葉すら甘いほどだった。
 殺戮の為に造られたリサ・トレヴァーの中で、1人でも逆に命を救うことをしたのは『2番』だけであろう。

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