報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「無効印」

2019-12-17 21:09:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月25日12:26.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・東海道新幹線ホーム→東海道新幹線655A列車1号車内]

〔「レピーター点灯です」〕

 ホームに発車メロディが鳴り渡る。
 かつては“のぞみ”号の車内チャイムで使われていたものだ。
 JR東日本の新幹線ホームが未だに電子電鈴を流す中、そこはしっかり区別されている(はずだが14番線と15番線ホームは歴史上、北に向かう新幹線ホームと近接している為、そちら側で発車ベルが流れると混同しやすい)。
 車内チャイム時代と同様、1コーラスしか流さないのが基本だが、最終列車の場合は2コーラス、場合によっては3コーラス流すこともある。

〔15番線、“こだま”655号、名古屋行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「15番線から“こだま”655号、名古屋行きが発車致します。ITVよーし!乗降、終了!ドアが閉まります。ご注意ください。ドアが閉まります」〕

 ブー!という客扱い終了合図のブザーが鳴って、ドアが閉まる。
 JR東海では安全(可動)柵と呼ばれるホームドアも一緒に閉まるが、この時、安全柵側では“乙女の祈り”が流れる。
 基本的にはイントロ部分しか流れないが、稀れに再開閉する際にサビまで流れることもある(作者、勤務中に体験)。

〔「4号車のお客様、安全柵から離れてください!危険です!」〕

 マリア:「日本の新幹線のプラットホームは、イギリスの高速鉄道のホームよりやかましいな」
 稲生:「これも安全の為です」

 自動放送が事細かく流れ、発車メロディのオンパレードはもはや日本の鉄道文化とも言える。
 そして、ようやく列車が走り出した。

〔♪♪(車内チャイム。“いい日旅立ち・西へ”のイントロ)♪♪。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。次は、品川です〕
〔Ladies & Gentlemen.Welcome aboard the Shinkansen.This is the Kodama superexpress bound for Nagoya...〕

 エレーナ:「ほお。箱根に行って温泉入るって?」
 稲生:「体の傷痕を少しでも治してもらいたいからね」
 エレーナ:「おい、聞いたか、皆?これだけ気を使ってくれる男に普通の人間だった頃、出会えたか?」
 マリア:「……無かった」
 ルーシー:「あったと思うけど忘れた」
 稲生:「いや、別に大したことでは……」
 マリア:「そういうエレーナはどうなんだ?」
 エレーナ:「私か?………………………………………」
 マリア:「無いなら無いと素直に言え!」
 エレーナ:「“湯けむり旅情殺人事件 〜3人の非モテ魔女は見ていた〜”というタイトルに今から変えよう」
 ルーシー:「私を巻き込むな!」
 マリア:「勇太を仲間外れにすんなっ!」
 稲生:「僕は……どっちでもいいけど……」

 多摩:「……だってさ、雲羽?」
 雲羽:「サスペンスものは“私立探偵 愛原学”と被るからダメです」

[同日13:01.天候:晴 神奈川県小田原市城山 JR東海小田原駅→箱根登山鉄道小田原駅]

 稲生の言う通り、新横浜駅を出た“こだま”号は、次の小田原駅まで最高速度で走行した。
 東北新幹線などでは高架線の上を走り、防音壁があるせいで、なかなかスピード感を味わうことはできない。
 また、東北地方に入ればトンネル区間が多いのもスピード感に乏しい理由である。
 しかしながら東海道新幹線は地平を走り、近くに建物もあることで、スピード感は北へ向かう新幹線よりもあった。
 ルーシーに限らず、マリアもそのスピード感に車外へ目を取られた。

 稲生:「さすがのホウキ乗りも、こんなスピード出せないでしょ?」
 エレーナ:「無い無い。こんなに出すくらいなら、フツーに新幹線乗るぜ」
 稲生:「思いっ切り現実的だな」
 エレーナ:「悪魔と契約して魔力使い放題だからといって、調子に乗ってはダメなんだぜ」
 稲生:「ほお……」

〔♪♪(車内チャイム。“いい日旅立ち・西へ”のサビ)♪♪。まもなく、小田原です。東海道本線、小田急線、箱根登山鉄道線、伊豆箱根鉄道線はお乗り換えです。小田原の次は、熱海に止まります〕

 列車が速度を落とし始める。

 エレーナ:「あっという間だったな」
 稲生:「そりゃそうさ。新富士だって、あっという間なんだから」

 小田原駅には通過線が存在する。
 大抵の“こだま”号はここで後続の“のぞみ”や“ひかり”に追い抜かれるというわけだ。
 その為、大体の停車時間は5分くらいである。
 “こだま”の停車する副線ホームに入るのに、ポイントの通過がある。

〔おだわら、小田原です。おだわら、小田原です。ご乗車、ありがとうございました。……〕

 

 意外とここで降りる乗客は多い。
 もっとも、乗車客もそれなりに多いが。
 稲生達がホームに降りて数歩歩いた時、既に後続列車が轟音を立てて通過していった。
 新幹線定期の客も多く、“こだま”は通勤列車としての顔も持っているのだ。

 稲生:「えーと……ここから、箱根登山鉄道です」

 稲生は時刻表アプリを入れたタブレットを手に、まずは改札口に向かった。

 マリア:「……え?あ、欲しいの?」

 マリアが稲生に耳打ち。

 マリア:「ルーシーがね、新幹線のキップを記念に持ち帰りたいんだって」
 稲生:「ああ、そうですか。それは可能ですよ。有人改札口に行って、駅員さんに言えば……」
 ルーシー:「私はまだ日本語が喋れないの」
 稲生:「自動通訳魔法具は?」
 ルーシー:「調子が悪い。そろそろ交換しないとダメみたい」
 エレーナ:「何だ、私に言ってくれれば、予備用を融通したのに」
 マリア:「どうせ高く売りつける気でしょう?」
 エレーナ:「いや、お買い得だぜ!?」
 稲生:「というか、自動通訳魔法具って消耗品だったことに驚きですよ」
 エレーナ:「魔法具ってのは、基本的に消耗品だぜ?」
 稲生:「あ、そういえばそれは聞いたことがある」
 マリア:「私が日本語を勉強したのは、何も勇太の御両親に挨拶する為だけじゃないんだよ」
 稲生:「失礼しました。じゃあ、僕が通訳してあげるよ」
 ルーシー:「ありがとう」

 因みにダンテ門内における公用語は英語となっている。
 ラテン語でもなければ、ロシア語でもない。

 

 稲生:「すいません、この人がキップを記念に持ち帰りたいと……」
 駅員:「かしこまりました」

 小田原駅も外国人観光客の多い所なのか、駅員はそういう申し出には慣れているようで、1つ返事で乗車券と特急券に無効印を押した。
 その無効印というのが……。

 ルーシー:「Oh!」

 普通なら『無効 小田原駅』という黒い四角形の無機質なスタンプが押されることを想像するが、新幹線は違った。
 青いインクの丸いスタンプに、N700系の先頭車部分がデザインされたものだった。
 あとは『小田原駅 JR東海 使用済』と書かれている。

 
(写真は全てウィキペディアより)

 稲生:「へえ!こういう無効印なんだ!何だか意外だなー!」

 稲生も何だか欲しくなったので、ついでにお持ち帰りすることにした。

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