報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「旧校舎を探索、その後……」

2024-07-31 20:27:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月24日11時30分 天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校・教育資料館]

 事務室で鍵を借りた愛原は、それで教育資料館入口のドアを開けた。
 元はれっときとした旧校舎であり、怪談の宝庫である。
 木造2階建てであり、何度も取り壊しの計画が立ったのだが、その度に祟りのような現象があり、何度も頓挫した。
 その理由は現在、ただの怪奇現象ではなく、取り壊しを拒絶した特異菌の菌根が、関係者に胞子を吸わせて起こした幻覚・幻聴によるものだと判明している。
 今はその特異菌も除菌され、怪奇現象はウソみたいに無くなっている。
 このことから、今では取り壊し計画が再燃されようとしている。

 愛原「“トイレの花子さん”がいたのは2階だな?」
 リサ「うん、そう」

 教育資料館として再生しているのは1階部分だけ。
 2階部分は依然として立入禁止のままである。
 しかし、今回はその2階に上がった。
 1階はリニューアルされているが、2階は殆ど手つかずのままなので、かつての面影を色濃く残している。
 さすがに朽ちた床板などは交換されているが。

 リサ「“花子さん”がいるのは、奥から2番目の個室……」
 愛原「そして、ここで斉藤早苗が首吊り自殺したというわけか」
 高橋「それ自体は本当の話なんですね?」
 愛原「ああ。最強の事故物件だよ」

 特異菌の中には、そんな人間の残留思念を吸収し、具現化させる力を持つ者もいる。
 “トイレの花子”さんが幽霊でありながら、実体があるように見えるのは、特異菌の持つ能力によるもの。

 リサ「あっ!!」

 木製の外側に開くドアを開ける。
 この旧校舎は長らくの間、汲み取り式トイレであった。
 新校舎(現校舎)が落成したのは1980年代。
 その前から新校舎建設計画はあり、完成したら旧校舎は取り壊す予定だったので、最後まで水回りはリニューアルされなかったようである。

 愛原「何だ!?」

 中を覗くと、和式便器の横に1つの金庫が置いてあった。
 その金庫は鍵式であった。

 愛原「まさかこの鍵を……」

 愛原は城ヶ崎が持っていたという鍵を鍵穴に差した。
 そして……。

 愛原「開いた……!」

 愛原が金庫を開けた時だった。
 それは、突然中から飛び出してきた。

 愛原「うわっ!」

 それは手首だけのモノ。
 しかし、その手首は男の物のようにゴツく、黒カビだらけである。
 まるで、モールデッドの手首のようだった。
 そしてそれは、愛原の首を掴んだ。

 愛原「ぐっ……!!」
 高橋「て、てめっ!」

 高橋は手持ちの銃を取り出したが、愛原に被弾してしまう恐れがあるので、手首だけを狙って撃つことはできない。

 リサ「だぁーっ!!」

 リサは両手の爪を長く鋭く伸ばすと、それで愛原の首を絞める手首を引き裂いた。
 痛みを感じるのか、手首は愛原の首から離れた。
 更にリサはその手首を何度も踏みつけた。
 ようやく手首は、白く変色し、石灰化してバラバラに砕け散った。
 どうやら本当に、モールデッドの手首だったようである。

 リサ「先生、大丈夫!?」
 愛原「あ、ああ……」

 愛原は仰向けに倒れていたが、高橋の手を借りて、咳き込みながら何とか立ち上がった。

 高橋「くそっ!何てトラップだ!誰だこんなもん仕掛けたの!?」
 リサ「“トイレの花子さん”か、城ヶ崎かなぁ……」
 愛原「それより、金庫の中身は!?」
 リサ「あっ!」

 個室の中は、昼間でも薄暗い。
 また、1階は教育資料館として再生している為に通電しているが、2階は停電したままである。
 その為、愛原はマグライトを照らした。

 愛原「ん、無いじゃん!?」

 一見して金庫の中には何も無かった。

 リサ「あっ、待って。下の方に引き出しがあるよ?」
 愛原「ん?」

 リサが引き出しを開けると、その中には書類が入っていた。

 リサ「これは……?」
 愛原「ん?」

 A5版サイズの茶封筒に入った書類。
 そこには何故か、とある学習塾のGW特別講習のお知らせが入っていた。

 高橋「何だこりゃ???」
 愛原「学習塾の特別講習のパンフだな……。『中学受験コース』『高校受験コース』『大学受験コース』とか色々あるぞ」
 高橋「何でこんな物が!?バカにしやがって!」

 何かもっと他の重要な物を隠す為のカムフラージュではないかと思った愛原は、金庫の中をもっとよく調べてみた。
 しかし、どこをどう見てもそれ以外に怪しい物は無かった。

 愛原「そもそもこの金庫、前からあったか?」
 リサ「無いよ。前に来た時は無かったよ」
 愛原「すると、外から運び込まれたものか。どうやって?鍵は掛かってただろ?」
 リサ「先生!窓の鍵が開いてる!」
 愛原「えっ?」

 外から覗かれない為の配慮か、窓は曇りガラスになっている。
 明り取りと、換気用の窓として機能しているようだ。
 確かに、窓の固定具が外れている。

 愛原「たまたま誰かが閉め忘れたんじゃないのか?」

 愛原はガラガラと窓を開けた。
 窓の外は、現校舎の裏庭と、忘れ去られたかのように植わっている桜の木がある。
 この桜の木も、“学校の七不思議”に何度か登場する曰く付きなのだとか。

 バッ!

 愛原「!!!」

 と、突然、窓の上からぶら下がるかのように愛原の前に逆さに現れる女。
 それは逆さ女でもサスペンデッドでもなく……白い仮面を着けて、おかっぱ頭の少女……。
 それだけならリサと似ている……。

 愛原「わぁーっ!?」

 びっくりした愛原は後ろに仰け反った。
 その弾みで、すぐ後ろにいた高橋にぶつかってしまう。

 高橋「せ、先生!?」

 その結果、逆将棋倒し的な状態になってしまった。
 2人が仰向けに倒れたと同時に、仮面の少女はくるっと1回転して窓の桟に立ったかと思うと、すぐにジャンプして出て行った。

 愛原「り、リサ!あいつを追えーっ!」
 リサ「!!!」

 リサは反射的に、自分も2階から飛び降りた。
 鬼型BOW故、自分も2階から飛び降りたくらいでは何ともない。
 リサと同じくらいの身体能力を、仮面の少女は持っているようだ。
 そして、服装。
 ここの旧制服かと思うようなセーラー服を着ている。

 リサ「待てーっ!」

 リサが仮面の少女を追うと、少女は校庭のど真ん中で立ち止まった。
 そして振り向きざま……。

 リサ「ぎゃあああああ!?」

 リサは同じ、電撃技を使ってきた。
 まともに食らったリサは、まさか自分が食らうとは思わず、体中を痺れさせた。
 リサが感電している隙に、仮面の少女は学校の敷地外に出て行ってしまった。
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“愛原リサの日常” 「午前中の会議と探索」

2024-07-31 15:18:58 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月24日10時00分 天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 臨時休校となった月曜日、リサは愛原や高橋と共に車で新橋に向かった。
 免許の点数も残り少なくなった高橋の運転の為、愛原は高橋に慎重な運転を求めた。
 その甲斐あってか、往路は特に警察の取り締まりを受けることもなく、また、駐車場も新橋駅前の地下駐車場を利用した為、駐車禁止の取り締まりも受ける心配は無くなった。
 愛原はスーツを着ていたし、リサは学校の制服を着ていたが、高橋は相変わらず私服。
 しかし、いつもの恰好である。

 

 リサ「新しい制服、無事ゲットだよ。ありがとう」
 善場「それは良かったです。卒業まで今年度中とはいえ、大事に着てくださいね」
 リサ「もちろん、わたしはそうしてる。敵対者が、気を使ってくれればねぇ……」
 高橋「まあ、使うわけねぇな」
 リサ「だよね」

 会議室に通され、各々椅子に座る。

 善場「今日はお集り頂き、ありがとうございます。本日は、先日にリサが手に入れた鍵のことについてでございます」

 モールデッド化した1年生男子生徒、城ヶ崎。
 校舎の屋上から飛び降り自殺を図った前生徒会長の弟である。

 愛原「鍵の出所が分かりましたか?」
 善場「こちらで調査しましたところ、鍵のロゴマークは、かつて日本アンブレラ100%出資の子会社、アンブレラ・ロジスティックスという運送会社の物に酷似していることが分かりました」
 愛原「そうだ!思い出した!霧生市の研究所、そこの駐車場に止まっていたトラックに描かれてたヤツだ!」
 リサ「それで何となく覚えてたんだね」
 善場「今は日本アンブレラから資本が切り離されて分社化し、本流の『UL運送』と、一部のドライバー達が独立して設立した『ユー・ライン』という、どちらも運送会社ですが、その2つに分かれています。そして、アンブレラ・ロジスティックスの倉庫部門だった所も独立して、『傘森倉庫』という会社になっています」
 愛原「佐川急便とか、ヤマト運輸に資本を買われたわけではないんですな」
 善場「そのようですね」
 愛原「その城ヶ崎さんは、その旧アンブレラ・ロジスティックスに関係が?」
 善場「東京中央学園のデータベースを確認したのですが、特にそういった物は見受けられませんでした。両親とも、日本アンブレラとは全く関係の無い仕事に就いています」
 愛原「んん?」
 善場「日本アンブレラのデータベースを確認しましたが、そちらにも『城ヶ崎』という名前の関係者はありませんでした」
 愛原「じゃあ、何で彼はその鍵を持っていたのでしょう?」
 リサ「拾った?」
 高橋「ボコして分捕った」
 善場「……この場合、リサの意見の方が現実的ですね」
 愛原「拾ったってどこで?」
 リサ「それは知らないよ。まあ、学校か家の近くとかじゃないの?」
 善場「私が想定しているのは、『斉藤早苗からもらった』なのですがね」
 愛原「まさか……!?」
 リサ「まあ、有り得るね。元々“トイレの花子さん”だったんだから、それに化けて……」
 愛原「まさか、今もそこにいるってんじゃないだろうな?」
 リサ「それはないでしょw 今はもう幽霊じゃないんだから」
 高橋「お前は先生の仰る事を否定するのか?」
 愛原「だけど、本来の予定では、旧校舎の2階に行くはずだったんだよな?」
 リサ「まあね」
 善場「……皆さんに御依頼があります」
 愛原「何でしょう?」
 善場「この鍵を持って、東京中央学園上野高校・旧校舎の探索をお願いします。もしかしたら、この鍵で開く何かがあるのかもしれません」
 愛原「分かりました。すぐに行って参ります」
 善場「私共は城ヶ崎家に行ってみたいと思います。何か分かりましたら、御連絡を」 
 愛原「了解しました」

 会議はものの30分程度で終わった。

[同日11時00分 天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校]

 リサ「学校休みなのに、学校に来ちゃうなんて」
 愛原「これなら、俺もお祓いに行けば良かったかな」

 さすがにもうお祓いは終わっているらしく、関係者の姿は無い。
 車を来客用駐車場に止めると、愛原は現校舎の事務室に向かった。

 愛原「お疲れ様です。PTA会長の愛原です」
 事務員「愛原さん?お祓いなら、もう終わりましたよ」
 愛原「分かっています。予定としては、明日からは生徒も通常通りですね」
 事務員「そうです。それで、何か用ですか?」
 愛原「ちょっと鍵を貸して欲しいんです」
 事務員「鍵?どこの?」
 愛原「教育資料館です」
 事務員「教育資料館?そんな気軽に……」
 愛原「政府機関からの『捜査協力依頼書』です」
 事務員「えっ!?」

 警察関係者が、施設の監視カメラを確認したい時によく持って来る書類だ。
 今はもう警察手帳の提示だけでは、施設関係者はカメラの映像を見せない為。
 捜査令状があれば問答無用で応じなければならないのだが、その手続きは猥雑である。
 そこで、法的拘束力は無いものの、責任の所在を明確にする為の書類が折衷案として出され、それが『捜査協力依頼書』である。

 愛原「今日は探偵として参りました。よろしく御協力お願い致します」
 事務員「……わ、分かりました」

 愛原は無事に鍵を借りることができた。
 尚、捜査協力依頼書の発行元は、NPO法人デイライトではなく、警察庁になっている。
 だが、善場の本来の所属元がそことは限らない。
 善場の口ぶりからして、警察庁の上部組織の国家公安委員会、もしくは更にその上の内閣府である可能性を愛原は指摘している。

 愛原「よし、行こう」
 リサ「“トイレの花子さん”がいた場所は知ってるから、わたしが案内するよ」

 リサは愛原と高橋を先導すると、旧校舎たる教育資料館へと向かった。
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