[7月15日21:35.天候:曇 東京都墨田区花川戸 東武鉄道浅草駅]
稲生達を乗せた上り最終特急は、無事に終点の浅草駅に接近していた。
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、浅草、浅草です。3番線に到着致します。お出口は、右側です。これより、急カーブを通過致します。電車、大きく揺れる場合がございますので、お立ちのお客様はご注意ください。また、網棚のお荷物にもご注意ください。浅草駅より東京メトロ銀座線、都営地下鉄浅草線はお乗り換えです。……」〕
電車が隅田川の鉄橋をゆっくり渡る。
というのは、渡り切った先に90度直角カーブと言っても良いほどの急カーブがあるからだ。
これは本来、業平橋(現・とうきょうスカイツリー)駅止まりだった線路を、どうしても川向うに延伸したかった為に起きたことである。
勇太:「マリア、もうすぐ着くよ。大丈夫?」
マリア:「うーん……」
マリアは途中で眠ってしまい、勇太に寄り掛かるようにしていたのだが、さすがに起こさなければならかった。
マリア:「大丈夫……」
とはいえ、疲れの色が隠しきれないでいる。
勇太:「早くホテルに行って休もう」
マリア:「うん……」
制限速度15キロという厳格な徐行規制の中、電車はようやく所定の停止位置に停車した。
〔ご乗車、ありがとうございました。あさくさ、浅草、終点です。東京メトロ銀座線、都営地下鉄浅草線はお乗り換えです。3番線に到着の電車は、折り返し、21時59分発、特急“リバティけごん”259号、新栃木行きとなります。……〕
2人はホームに降り立った。
隣のホームには、群馬県に向かう特急列車が停車している。
そこそこ乗客が乗っているようだ。
マリア:「ちょっとトイレに行きたいけど、いい?」
勇太:「いいよ。改札の外にあるから」
ホームをそのまま真っ直ぐ歩いて、特急改札口を通過する。
その後、自動改札機を通過すると、もう手元にキップは無い。
目の前に下に降りる階段やエスカレーターがあるのだが、そこを回り込んで、向こう側にあるトイレに向かった。
勇太もついでにトイレを済ませるが、戻ってきてもまだマリアはいない。
そこで、ワンスターホテルに一報入れておくことにした。
オーナー:「お電話ありがとうございます。ワンスターホテルでございます」
代表電話に掛けると、フロントに繋がる。
そこで出たのはオーナーだった。
勇太:「あっ、オーナー。稲生ですけど、エレーナから聞いていますか?」
オーナー:「稲生様、いつもご利用ありがとうございます。ええ、御心配には及びません。先日ご利用頂いた御部屋と、同じお部屋をお取りしてございます」
勇太:「本当ですか。どうもすいません。今、浅草駅に着いた所です。これからタクシーで向かいますので、よろしくお願いします」
オーナー:「浅草駅からでございますね?かしこまりました。それでは、御到着をお待ち申し上げます」
勇太:「よろしくお願いします」
勇太は電話を切った。
勇太:「良かった、エレーナに掛けなくて」
シフト的に、エレーナは休みか何かなのだろう。
そんな時に電話しなくて良かった。
マリア:「エレーナに掛けようとしたのか?」
その時、不機嫌そうなマリアな声がした。
勇太:「あっ、いや、違うんだ!ちゃんと部屋が取れてるかどうか、ホテルに確認を……って、大丈夫かい!?」
元々白人で肌の白いマリアだが、トイレから出て来ると、余計に白くなっているように見えた。
マリア:「……早く休みたい」
顔色が悪い所は、かつて会った時と似ていた。
毎晩のように悪夢に苛まされていた当時のマリアは、睡眠時間が僅かしか確保できず、常に顔色を悪くしていた。
勇太:「わ、分かった!早く行こう!」
近くにエレベーターがあったので、それで1階に降りる。
そして、駅の外に出て、タクシー乗り場に向かった。
だが、数台しか止まるスペースが無い為か、タクシーは1台も客待ちをしていなかった。
勇太:「くっ、こんな時に……!」
と、そこへ空車のタクシーが通り掛かった。
屋根の行灯がカタツムリのような形をしていることから、『でんでん虫』と呼ばれる個人タクシーである。
大きく手を挙げてタクシーを止め、それに乗り込んだ。
勇太:「江東区森下のワンスターホテルまでお願いします」
運転手:「森下のワンスターホテルですね。分かりました」
タクシーはすぐに走り出す。
運転手:「あれ?お客さん、ひょっとして……稲生君?!」
勇太:「えっ!?……あっ!」
運転手:「やっぱりだ!稲生君と……えーと、マリー……アントワネットさん?」
勇太:「フランス革命じゃないです!マリアさんですよ!」
運転手:「ああっと、これは失礼!」
勇太:「カンベンしてくださいよ、大原班長」
この個人タクシーの運転手、勇太の所属する寺院支部の班長であった。
班違いではあるが、顔見知りでもあるし、ダンテ一門の騒動に巻き込まれた人物の1人でもある。
かつてダンテ一門の魔女達が、キリスト教系魔女狩り集団に追われたことがある。
捕まった魔女を助け出す為、この大原タクシーを活用したことがあった。
大原:「いやいや、ゴメンゴメン」
勇太:「また、新車買ったんですね?新しいクラウンだ」
大原:「おかげさまでね。キミ達の騒動に巻き込まれてから、何だか売り上げが良くなっちゃって」
ダンテ一門の綱領の1つに、『受けた恩と仇は必ず返すこと』とある。
恐らく、魔女狩り集団に捕まった仲間を助ける協力に対する謝礼として、売り上げが上がるよう、便宜が図られたのだろう。
勇太:「それは良かったですね」
大原:「それより最近、お寺に来ないじゃない?」
勇太:「いやあ、ちょっと忙しく4て……。今も走り回っている最中なんですよ」
大原:「仕事かい?」
勇太:「まあ、仕事ですね」
大原:「ま、仕事は大事だからね。仕事が終わったら、お寺に足を運ぶんだよ」
勇太:「分かりました」
尚、個人タクシーでも多くの場合、クレジットカードが使える。
この大原タクシーもまた、例外ではなかった。
稲生達を乗せた上り最終特急は、無事に終点の浅草駅に接近していた。
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、浅草、浅草です。3番線に到着致します。お出口は、右側です。これより、急カーブを通過致します。電車、大きく揺れる場合がございますので、お立ちのお客様はご注意ください。また、網棚のお荷物にもご注意ください。浅草駅より東京メトロ銀座線、都営地下鉄浅草線はお乗り換えです。……」〕
電車が隅田川の鉄橋をゆっくり渡る。
というのは、渡り切った先に90度直角カーブと言っても良いほどの急カーブがあるからだ。
これは本来、業平橋(現・とうきょうスカイツリー)駅止まりだった線路を、どうしても川向うに延伸したかった為に起きたことである。
勇太:「マリア、もうすぐ着くよ。大丈夫?」
マリア:「うーん……」
マリアは途中で眠ってしまい、勇太に寄り掛かるようにしていたのだが、さすがに起こさなければならかった。
マリア:「大丈夫……」
とはいえ、疲れの色が隠しきれないでいる。
勇太:「早くホテルに行って休もう」
マリア:「うん……」
制限速度15キロという厳格な徐行規制の中、電車はようやく所定の停止位置に停車した。
〔ご乗車、ありがとうございました。あさくさ、浅草、終点です。東京メトロ銀座線、都営地下鉄浅草線はお乗り換えです。3番線に到着の電車は、折り返し、21時59分発、特急“リバティけごん”259号、新栃木行きとなります。……〕
2人はホームに降り立った。
隣のホームには、群馬県に向かう特急列車が停車している。
そこそこ乗客が乗っているようだ。
マリア:「ちょっとトイレに行きたいけど、いい?」
勇太:「いいよ。改札の外にあるから」
ホームをそのまま真っ直ぐ歩いて、特急改札口を通過する。
その後、自動改札機を通過すると、もう手元にキップは無い。
目の前に下に降りる階段やエスカレーターがあるのだが、そこを回り込んで、向こう側にあるトイレに向かった。
勇太もついでにトイレを済ませるが、戻ってきてもまだマリアはいない。
そこで、ワンスターホテルに一報入れておくことにした。
オーナー:「お電話ありがとうございます。ワンスターホテルでございます」
代表電話に掛けると、フロントに繋がる。
そこで出たのはオーナーだった。
勇太:「あっ、オーナー。稲生ですけど、エレーナから聞いていますか?」
オーナー:「稲生様、いつもご利用ありがとうございます。ええ、御心配には及びません。先日ご利用頂いた御部屋と、同じお部屋をお取りしてございます」
勇太:「本当ですか。どうもすいません。今、浅草駅に着いた所です。これからタクシーで向かいますので、よろしくお願いします」
オーナー:「浅草駅からでございますね?かしこまりました。それでは、御到着をお待ち申し上げます」
勇太:「よろしくお願いします」
勇太は電話を切った。
勇太:「良かった、エレーナに掛けなくて」
シフト的に、エレーナは休みか何かなのだろう。
そんな時に電話しなくて良かった。
マリア:「エレーナに掛けようとしたのか?」
その時、不機嫌そうなマリアな声がした。
勇太:「あっ、いや、違うんだ!ちゃんと部屋が取れてるかどうか、ホテルに確認を……って、大丈夫かい!?」
元々白人で肌の白いマリアだが、トイレから出て来ると、余計に白くなっているように見えた。
マリア:「……早く休みたい」
顔色が悪い所は、かつて会った時と似ていた。
毎晩のように悪夢に苛まされていた当時のマリアは、睡眠時間が僅かしか確保できず、常に顔色を悪くしていた。
勇太:「わ、分かった!早く行こう!」
近くにエレベーターがあったので、それで1階に降りる。
そして、駅の外に出て、タクシー乗り場に向かった。
だが、数台しか止まるスペースが無い為か、タクシーは1台も客待ちをしていなかった。
勇太:「くっ、こんな時に……!」
と、そこへ空車のタクシーが通り掛かった。
屋根の行灯がカタツムリのような形をしていることから、『でんでん虫』と呼ばれる個人タクシーである。
大きく手を挙げてタクシーを止め、それに乗り込んだ。
勇太:「江東区森下のワンスターホテルまでお願いします」
運転手:「森下のワンスターホテルですね。分かりました」
タクシーはすぐに走り出す。
運転手:「あれ?お客さん、ひょっとして……稲生君?!」
勇太:「えっ!?……あっ!」
運転手:「やっぱりだ!稲生君と……えーと、マリー……アントワネットさん?」
勇太:「フランス革命じゃないです!マリアさんですよ!」
運転手:「ああっと、これは失礼!」
勇太:「カンベンしてくださいよ、大原班長」
この個人タクシーの運転手、勇太の所属する寺院支部の班長であった。
班違いではあるが、顔見知りでもあるし、ダンテ一門の騒動に巻き込まれた人物の1人でもある。
かつてダンテ一門の魔女達が、キリスト教系魔女狩り集団に追われたことがある。
捕まった魔女を助け出す為、この大原タクシーを活用したことがあった。
大原:「いやいや、ゴメンゴメン」
勇太:「また、新車買ったんですね?新しいクラウンだ」
大原:「おかげさまでね。キミ達の騒動に巻き込まれてから、何だか売り上げが良くなっちゃって」
ダンテ一門の綱領の1つに、『受けた恩と仇は必ず返すこと』とある。
恐らく、魔女狩り集団に捕まった仲間を助ける協力に対する謝礼として、売り上げが上がるよう、便宜が図られたのだろう。
勇太:「それは良かったですね」
大原:「それより最近、お寺に来ないじゃない?」
勇太:「いやあ、ちょっと忙しく4て……。今も走り回っている最中なんですよ」
大原:「仕事かい?」
勇太:「まあ、仕事ですね」
大原:「ま、仕事は大事だからね。仕事が終わったら、お寺に足を運ぶんだよ」
勇太:「分かりました」
尚、個人タクシーでも多くの場合、クレジットカードが使える。
この大原タクシーもまた、例外ではなかった。
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