報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「遠回り 急がば回れの 2人旅」

2022-07-10 21:14:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月10日06:50.天候:曇 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅→大糸線5321M列車先頭車内]

 出発の日を迎えた稲生勇太とマリアンナ・ベルフェゴール・スカーレットは、屋敷から車で白馬駅に送ってもらった。
 勇太の魔力を使ったので、日本のタクシーのような車種であるのはいつも通りである。

 勇太:「日曜日だから、下りは多分空いてるはずですよ」
 マリア:「あえて逆方向を行くのか」
 勇太:「それが“魔の者”の動きを誤魔化す方法なんですよ」

 白馬駅ではまだSuicaが使えない為、券売機でキップを買う。
 先日買ったのは、あくまで乗り換え先の新幹線のキップであって、近距離のキップは当日買いであった。
 副線ホームに2両編成のワンマン電車が入線してくる。

 駅員:「おはようございます。はい、ありがとうございます」

 改札口も自動改札機ではなく、駅員が立ってキップを切る。
 もっとも、昔ながらの改札鋏ではなく、ホチキス型のスタンプであった。

〔「3番線に停車中の電車は、6時58分発、普通列車の南小谷行きです。上り列車との待ち合わせの為、しばらく停車致します。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 副線ホームである3番線に行くには、跨線橋を渡らなくてはならない。
 階段を昇って、3番線に向かう。
 1番線に到着してくれると便利なのだが、そこは特急と上り列車が優先となる。
 下り列車でも、上り列車との待ち合わせが無ければ1番線に発着するのだろうが、今回は違う。

 勇太:「あーあ……。せっかく短いスカート穿いてるのに……」

 魔道士として移動する為、マリアはローブを着ている。
 その下は緑色のプリーツスカートに上は白いブラウス、グレーのニットといった制服ファッションを着ていた。
 スカートの裾は短いのだが、ローブの裾が長いので、後ろからパンチラの恐れは無い。

 マリア:「何だよ?」
 勇太:「何でもない……」
 マリア:「この電車?」
 勇太:「そう」

 コロナ対策として換気促進の為、半自動ドアを使用しなくなったJR東日本であるが、ワンマン列車だけは例外である。
 コロナ対策よりも、不正乗車対策の方が重要と考えているようだ。
 とはいうものの、有人駅では全てのドアが開閉可能ということもあり、この駅では自動ドアにして、全てのドアを開放していた。
 日曜早朝でも、上りホームにはそれなりの乗客がいたが、下りはガラガラだった。
 当駅始発ではないのだが、それでもボックスシートを確保できたくらいである。
 ボックスシートに向かい合って座り、いつものように人形の入ったバッグは荷棚に置く。
 朝食は屋敷で作ってもらったサンドイッチだった。
 これを駅で買った飲み物と一緒に食べる。
 飲み物は、窓の桟に置いた。

 勇太:「何か、どんより曇ってるね」
 マリア:「大気の状態が不安定だからね。この旅の途中で雨に当たるかもしれない」
 勇太:「マジか……」

 もっとも、魔道士のローブは防水になっており、羽織ってフードまで被れば、その下は濡れることはない。
 魔女や魔道士が傘を差さないのは、そこに理由がある。

[同日06:58.天候:曇 JR大糸線5321M列車先頭車内]

〔ピンポーン♪ この電車は大糸線下り、各駅停車の南小谷行き、ワンマンカーです。信濃森上、白馬大池、千国の順に停車致します。まもなく、発車致します〕

 上り列車が本線ホームに到着し、ポイントが切り替わって、出発信号機が青へと変わる。

〔「1番線から普通列車の信濃大町行き、3番線から普通列車の南小谷行きが発車致します」〕

 駅員の放送はあるが、発車ベルは無い。
 車掌の代わりに運転士が乗務員室の窓から顔を出し、笛を吹いてドア閉めの合図を行なった。
 そして、駆け込み客がいないのを確認して、ドアを閉める。
 ドアチャイムが2回鳴ってから、全てのドアが閉まった。
 実は外観も内観も、東北地方で運用されている701系電車とほぼ同じである。
 大糸線で運用されているのはE127系という別の形式であるが、前者との違いは交流か直流か、運転席のハンドルがツーハンドルかワンハンドルかの違いくらいである。
 電車はインバータの音を響かせながら、ゆっくりと発車した。
 もちろん、副線から本線へ移る為、ポイント通過で大きく揺れるからである。
 本線に入ると、電車はまた加速した。

 マリア:「それにしても、移動だけ早めにしろって言われたからしたけど……」

 マリアはサンドイッチを頬張りながら、眉を潜めた。

 マリア:「魔界の穴の使用条件が、ホテル一泊なんてフザけてやがる」
 勇太:「まあ、実際ホテルの中にあるわけだからね。向こうも商売だから、使用したければ客として泊まれってことなんだろうね」
 マリア:「そこは100歩譲るとして、肝心の部屋が3日後まで空いてないとは……」
 勇太:「エレーナの同胞のウクライナ人が避難しているのと、再び旅行客が増えたからだね」

 仕方がないので、最初の3日間は勇太の実家に泊まることになった。
 急な帰省に、勇太の母親の佳子は驚きながらも了承してくれた。

 マリア:「後で師匠から、勇太の家にも宿泊代を払ってもらわないとな」
 勇太:「別にいいよ。その代わり、ちょっと『予言』だけしてもらえれば」
 マリア:「宝くじとやらの予知でいいか?」
 勇太:「大変ありがたいけど、それは一等賞とかの話かい?」
 マリア:「……師匠だと一等前後賞全部当てられると思うけど、私は……そこまで高額賞金はまだ……かも」
 勇太:「まあ、低額賞金でもいいから、当たる予知だけしてくれればそれでいいと思うよ」

 ぶっちゃけ、最高賞金額数億円にまで膨れ上がっているというのに、実際は100万円すら当てるのは困難だ。

 マリア:「分かった。後で占ってみる」
 勇太:「よろしくね」

[同日07:17.天候:雨 同県同郡小谷村 JR南小谷駅]

〔ピンポーン♪ まもなく終点、南小谷です。南小谷では、全ての車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。乗車券、運賃、整理券は駅係員にお渡しください。定期券は、駅係員にお見せください。南小谷から大糸線、平岩、糸魚川方面はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 白馬駅から南小谷駅までは、ほんの20分程度の旅である。
 しかし、朝食のサンドイッチを食べ終わるには十分な時間だ。
 運転室の方から、けたたましいATSの警報音が鳴るが、これは別に異常でも何でもなく、駅に進入する為の場内信号機が黄色信号で、その先の出発信号機が赤なので、その速度制限の警報である。
 もちろん全く気にする必要が無いわけではなく、その速度制限を超えると非常ブレーキが掛かる仕組みになっている。

 勇太:「白馬駅から北に向かうのは初めてだ」
 マリア:「本当に大丈夫?」
 勇太:「大丈夫。時刻表とネットで、何度も下調べしたから」

 電車は本線の1番線に到着した。
 ということは、乗り換え先の糸魚川行きは反対側の副線ホームから出るということである。
 また、跨線橋を昇り降りしなければならないというわけだ。
コメント (2)
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