報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「帰省初日の夜」

2022-07-17 20:28:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月10日17:34.天候:曇 埼玉県川口市 蕨駅東口バス停→国際興業バスSC01系統車内]

 夕方になり、稲生親子とマリアはイオンモールへ行く為、最寄りのバス停に向かった。
 早速そこから“魔の者”の監視が始まっているのか、さっきまで晴れていたのに、急に曇ってきた。
 だが、雨が降りそうな感じは無い。
 夏の厚い日差しを遮る程度の雲だ。

 マリア:「ここのレストラン、廃業したんですね」
 稲生佳子:「そうなのよ」

 以前、イリーナとも一緒に食事会をやった料亭の建物が取り壊されている。
 どうやら、経営破綻ではなく、店舗移転によるものだそうだ。
 バスに乗り込み、空いている座席に座る。
 佳子は1人席に座り、勇太とマリアは後ろの2人席に座った。
 日曜日のイオンモール行きということもあってか、客層は家族連れが多い。

〔「イオンモール川口前川行き、発車致します」〕

 発車の時間になり、バスのエンジンが掛かる。
 頭上のクーラー吹き出し口から、強い冷房の風が吹いてきた。
 そして、中扉が閉まって、バスが走り出す。
 目の前の交差点の信号機が、鉄道の出発信号機のようなものだ。

〔♪♪♪♪。毎度、国際興業バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは、イオンモール川口前川行きです。途中お降りの方は、お近くのブザーを押してお知らせ願います。次は猫橋、猫橋でございます。……〕

 勇太:「また晴れて来た」

 バスが交差点を左折し、進路を東に変えると、バス車内に夕日が差し込んで来た。
 晴れて来たという証拠だ。
 どうやら、“魔の者”が勇太達が上京するわけではないと気付いて、警戒を解いたのだろう。

 マリア:「忙しいヤツというか暇なヤツというか……」

 マリアも呆れている。
 とにかく、これで今日は雨の心配は無さそうである。

 勇太:「そもそも、こういう一般の路線バスが都内まで行くわけないのにね」
 マリア:「勇太みたいにバスに詳しいわけでもないんだから、そこはしょうがないんじゃない?」
 勇太:「それもそうか」

 しかし川口駅まで行けば、荒川を渡って、東京・赤羽方面に向かう路線バスが出ている。

 勇太:「マリアの言うルートで誤魔化せるだろうけど、雨くらいは覚悟した方がいいかもね」
 マリア:「そうだな」

[同日17:45.天候:晴 同市前川1丁目 イオンモール川口前川]

 バス車内はそんなに混んでいなかったのだが、この路線のボトルネックは産業道路との交差点。
 県道同士の交差点であるが、バス路線の111号線より、主要地方道である35号線が優先道路となる為、青信号が短く、赤信号が長い。
 要はまあ、タイミングが悪ければ遅延必至というわけである。
 これは国道同士でも言えることであり、番号の若い方が優先道路となる事が多い。
 先述したと思うが、さいたま市内では片側1車線の地方県道たる産業道路は、川口市内では片側2車線のちょっとした国道並みの規格である為、初見だとこれが国道122号線と間違えられることもあるのだとか。

〔♪♪♪♪。イオンモール川口前川、イオンモール川口前川、終点でございます。お忘れ物の無いよう、ご注意願います。ご乗車ありがとうございました〕

 バスはバスとタクシー専用の入口から構内に入り、専用のバス停に停車する。
 構内バス停は1バースしかないが、その後ろにもう1台バスが着けられるようになっている。
 その後ろはタクシー乗り場。
 但し、他のイオンモールのようにタクシープールは無い為、タクシー利用者はその都度、最寄りのエントランスに設置されているタクシー会社へのホットラインを利用するか、自分で予約するしかない。

 勇太:「お世話さまでした」
 マリア:「Thanks.」

 2人は手持ちのICカードで運賃を払う。

 勇太:「あ、そろそろチャージしとかないとなぁ……」
 佳子:「駅に行くか、セブン銀行ね」
 勇太:「うん」

 あと一応、バス車内でもチャージはできるが、1000円だけである。

 マリア:「師匠のカードを現金化して、チャージすればいい」
 勇太:「違法じゃないんだけど、何だか言い方が黒いな」
 マリア:「何だよ?」
 勇太:「いや、別に……」
 佳子:「要は、銀行のATMでキャッシングするだけの話でしょう?」
 勇太:「まあね」
 佳子:「銀行なんて近所にいくつもあるんだから、後で行けばいいのよ」
 勇太:「それもそうか」
 佳子:「まだ、お父さん来てないみたいね。もう少し待ちましょう」

 サウスコートと呼ばれる吹き抜けのホールで待つことにした。
 週末などは、ここでイベントが行われることも多い(が、コロナ禍では自粛されていた)。

 宗一郎:「やあ、お待たせ」

 それから宗一郎が来たのは、凡そ15分経ってからのことだった。

 勇太:「父さん、お疲れ」
 宗一郎:「おーう。マリアさん、いらっしゃい」
 マリア:「また、お世話になります」
 宗一郎:「それじゃ行こうか」

 レストランモール・イーストへと向かう。

 勇太:「父さん、ゴルフバッグは?」
 宗一郎:「宅急便で送ったよ。さすがに持ち運びは大変だからね」
 勇太:「車で送り迎えされてるのに?」

 役員車を使ったはずだが、ここまで送ってもらった後、帰したようだ。

 宗一郎:「だからだよ。会社の経費を私的に使うわけにはいかないだろう?」

 ゴルフに関しては、『接待』という立派な『業務』であるという。

 マリア:「宅急便で送られて、家に届くのはいつですか?」
 宗一郎:「明後日らしいな。平日になるから、適当に受け取っておいて」
 佳子:「あれ重いから、運ぶの大変なのよ」
 勇太:「今回は僕がやるから、大丈夫だよ」
 宗一郎:「そういえば勇太達は、何日間いるんだ?」
 勇太:「3日間。だから、明後日なら家にいると思うよ」
 宗一郎:「そうなのか。一応、午前中指定にはしてあるから」
 勇太:「午前中指定ね。分かった」

 宗一郎も合流して4人となった勇太達は、モール内のレストランへと入って行った。
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“大魔道師の弟子” 「帰省初日」

2022-07-17 15:33:31 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月10日14:45.天候:晴 埼玉県川口市某所 稲生家]

 蕨駅に着いた時点では雷雨だったのだが、改札口を出ると雷が止んだ。
 そして、東口から外に出ると、今度は雨が止んだ。
 更に徒歩で実家に移動している間に、雲は見る見るうちに晴れて行き、実家に着く頃にはカンカン照りになっていた。

 勇太:「明らかに誰かの操作だ。誰かの!」
 マリア:「“魔の者”しかいないじゃん。天気を操作できるなんて……」
 勇太:「それを神と崇める集団が理解できない」
 マリア:「勇太の宗派だって、これを『諸天の加護ガー』とか言わない?」
 勇太:「よく知ってるねぇ……!」

 ジリジリと照り付けて来る太陽を、魔道士のローブで遮りながら実家に向かった。
 日差しやそれによる暑さは魔道士のローブでカットできるが、湿気に関しては防ぎ切れていない。
 いかに魔道士のローブは、夏でも乾燥する欧州向けの品だということが分かる。
 冬は十分、防寒着としての役割を果たしてくれるのだが。

 勇太:「ただいまァ……」
 稲生佳子:「お帰りなさい。珍しいわね。急に帰ってくるなんて……」
 勇太:「ちょっと急に忙しくなりそうだからさ。……はい、お土産。新潟の」
 佳子:「わざわざ新潟回りで帰って来るなんて……。ああ、どうぞ。上がって」
 マリア:「またお世話になります」

 マリアは今度は靴を脱いで上がった。
 家の中は、さすがに冷房が効いていて涼しかった。

 佳子:「荷物を置いて来たら?冷茶でも入れておくから」
 勇太:「分かった。マリア、部屋に案内するよ」
 マリア:「ありがとう」

 2人はホームエレベーターで3階に向かった。
 さすがに、廊下とエレベーター内には冷房が無いので暑い。
 エレベーターの中には、換気ファンが回ってはいるが……。
 マリアが泊まる部屋に行くと、既にベッドは用意されていた。
 折り畳み式ベッドではなく、エアーベッドである。
 シングルサイズのマリア用である。
 これとは別に、イリーナ用のダブルサイズがあるという。

 勇太:「これって、今はもう“魔の者”の監視から外れてるってことだろうか?」

 勇太は窓の外を見ながら言った。

 マリア:「監視自体は外れてないだろう。ただ、今日は私達が上京しないと確信したようだ」
 勇太:「はてさて、エレーナのホテルにはどうやって行ったらいいか……」
 マリア:「……私に考えがあるんだけど……」
 勇太:「なに?」
 マリア:「勇太からしてみれば、大した考えじゃないかもしれない」
 勇太:「んん?」
 マリア:「“魔の者”は、どうやら上空からの視点で私達を監視しているらしい。だから、この家の中に入る所までは見ているけども、家の中までは上からでは見えないだろう」
 勇太:「そうなんだ。透視とかできないの?」
 マリア:「できないか、或いはできるけど、あえてしないか……」
 勇太:「それで?」
 マリア:「幸いエレーナのホテルの最寄り駅は、地下鉄でしか行けないだろう?」
 勇太:「うん。都営地下鉄と都営バスだけだね」
 マリア:「上空からの視点では、地下鉄の中までは確認できない」
 勇太:「うん。だけど、都営地下鉄は全線が都内だよ?まあ、都営新宿線の本八幡駅は千葉県だけど」
 マリア:「それでね……」

 マリアは勇太に耳打ちした。

 勇太:「……なるほど。そういう手があるかぁ……」

 勇太は感心した。

 勇太:「マリアも交通機関に詳しくなったんじゃない?」
 マリア:「そりゃ、勇太とは何年の付き合いだよ?」
 勇太:「あはは……。そうと決まれば、時刻表を調べて予約しよう」

 勇太は自分のスマホを取り出した。
 そして、1階のリビングに向かった。

 佳子:「お父さんがね、今日の夕食はイオンモールで食べようってさ」
 勇太:「そうなんだ。またゴルフ?」
 佳子:「色々と付き合いがあるからね、副社長さんは」
 勇太:「だろうね」

 社長の椅子まであと一歩なのだが、イリーナがこれ以上のアドバイスをくれないということは、社長の椅子には座れない運命なのかもしれない。
 魔道士はその先の運命を読むことはできても、変えることはできない。
 もちろん、普通の人間は自分の先の運命など分かるわけがないから、それを魔道士が教えてあげることで報酬を得るのだという。

 佳子:「夕方、イオンに行くからね。それまでは寛いでて」
 勇太:「ああ、分かった。後でパソコン借りるよ」
 佳子:「いいよ」

 佳子が出してくれた冷茶とお菓子をおやつに食べると、勇太は宗一郎の書斎に向かった。

 マリア:「これはダディのPCでしょう?使っていいの?」
 勇太:「父さんが使っていない時は、使っていいことになってる。家のPCなら、プリンターもあるしね」

 勇太は慣れた手つきでデスクトップ型のPCの電源を立ち上げ、ネットに接続する。
 そこから高速バスの予約サイトにアクセスした。

 勇太:「まさかマリアのアイディア、上京に高速バスを使うなんて盲点だよ」

 そう言いながら、目当ての路線を検索した。
 もちろん、屋敷のある長野から高速バスに乗ろうものなら、“魔の者”の標的されること請け合いである。
 しかし、ここ埼玉からだったら?
 まさか、埼玉から隣の東京都に行くのに、高速バスを使うなんて発想、普通は無い。
 だが、ある目的地に行こうとするなら、選択肢の1つとして現れる交通手段なのだ。
 本当に選択肢の1つとして現れるだけなので、実は交通手段的にはあまり一般的ではないようである。
 その為か、作者が最後まで付き合っていた見合い相手とそれでモメた

 マリア:「……ただ、問題が1つある」
 勇太:「なに?」
 マリア:「実はこの手口、昔1回使ってるんだ。“魔の者”が覚えてなければいいんだけど……」
 勇太:「そうなんだ。いつ?」
 マリア:「確か、私が“魔の者”に執拗に狙われていた頃だよ。北海道に行く前だったと思う」
 勇太:「あー……何か、どこからか乗った気がするね!……言われるまでずっと忘れてたから、“魔の者”も忘れてるって信じたいね」

 しかし、こうやって実家に帰省する時も、迂回して何とかなったのだ。
 ワンスターホテルに向かう時も、迂回ルートで上手く行くと信じたい勇太であった。

 勇太:「うん、予約は取れた」
 マリア:「本当か!」

 加護自体はあるようだ。
 加護自体は。
コメント (1)
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