報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「南端村の一夜」

2022-07-31 22:57:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月14日17:30.天候:晴 アルカディアシティ南端村 魔界稲荷]

 人力車が鳥居の前の階段下に到着する。

 坂吹:「到着です。お疲れさまでした」
 勇太:「ありがとう」
 美狐:「ご苦労さま!」

 勇太と美狐は人力車を降りた。

 勇太:「この階段を昇るのが大変なんだ」
 美狐:「アタシ、担ごうか?」
 勇太:「えっ?いや、そんな子供に……うわっ!」

 美狐は見た目年齢10代前半という少女ながら、勇太をヒョイと担ぐと、ホイホイと階段を駆け登って行った。

 勇太:「わあ!」
 美狐:「エーッサ♪エーッサ♪エッサホイサッサ♪」
 勇太:「それ、“おさるのかごや”!キミ、妖狐でしょ!」

 などというツッコミをしている間に、美狐は階段の1番上まで昇り切った。

 美狐:「ふう……」

 しかし、バテる様子はなく、ただ単に一汗かいたという感じだった。
 さすがは妖狐。

 勇太:「あ、ありがとう。そういえば昔、威吹にも似たようなことされた気がする……」
 美狐:「ほんと!?お父さんも同じことしたの!?」
 勇太:「う、うん。だいぶ昔ね……」
 美狐:「血は争えないね!」
 勇太:「いや、全く……」
 弟子A:「御嬢、お帰りなさい!」
 弟子B:「禰宜様がお待ちです!」

 威吹の弟子が、台座から飛び下りて跪いた。
 結局この2人の弟子、稲荷神社の狐に化けれていなかった。

 美狐:「夕食のお手伝いしろってんでしょ。全く、狐使い荒いんだから……。ねぇ、稲生さん!後でお父さんの昔話、もっと詳しく聞かせて!?」
 弟子A:「じゃあ、俺も」
 弟子B:「わっちも」
 勇太:「ええーっ!?」
 坂吹:「バカ野郎!お前ら、身分を弁えろ!」
 弟子A:「坂吹先輩……」
 坂吹:「俺が一番弟子として、いの1番に聞く権利がある!というわけで、稲生殿、某も是非!」
 勇太:「……威吹の許可が取れたらね?」
 一同:「ええーっ!?」
 勇太:(よほど威吹、昔の話をしたがらないんだな……)

 江戸時代の失敗談はともかく、勇太が学生時代、敵の妖怪と共闘した話はしても良いだろうと思った。

 勇太:(それとも、学生時代の事は僕に遠慮してるのかな?)
 威吹:「これ!何を外で駄弁っておるか!ユタを早く家に案内せんか!」
 美狐:「お父さん、ごめんなさい!」
 威吹:「おう、美狐。何も無かったであろうな?」
 美狐:「もちろん。それとも、もっと稲生さんを誘惑した方が良かった?」
 威吹:「ユタを食い殺すなでござるよ」
 勇太:「食い殺すの!?」
 威吹:「あー……ユタ、ボクは一応、人食い妖狐だったんだよ?」
 勇太:「そ、それもそうか。で、でも……」
 威吹:「分かってる。ユタも、あの魔女も食い殺すことはない。ユタとは長い付き合いなんだ」
 勇太:「よろしく頼むよ」
 威吹:「というわけだ。美狐、分かったな?」
 美狐:「えー……」
 威吹:「分かったら『ハイ』は!?」
 美狐:「は、ハイ!」
 勇太:「もうすっかり父親だな?」
 威吹:「おかげさまで。さくらも、あと少しで2人目が生まれるところだよ」
 勇太:「あ、それでか……」

 身重なので、あまり家の中を動き回ることができないらしい。
 こういう時、弟子持ち師匠は良い。
 そういった家事を弟子達に振ることができるのだから。

 勇太:「今度は男の子だろうか?」
 威吹:「一姫二太郎というから、男が良いような気がするが、まあ、そこはさくらに任せる」
 勇太:「男の子だったら、きっと威吹にそっくりだろうね」
 威吹:「うむ。そうだと良い」

 もっとも、長女の美狐も、十分威吹に似ている。
 髪の色や瞳の色などがだ。
 普段は厳格な態度を取っている威吹が、勇太の前では柔和な顔つきで話す様を、美狐はほっこりとして見ていたという。

[同日18:00.天候:晴 魔界稲荷 客間]

 夕食は威吹達と一緒に食べることにした。
 夕食は、いわゆる『ちゃんこ鍋』。
 威吹の弟子達が料理を作ると、どうしてもこうなるのだ。
 まるで、相撲部屋である。
 しかしながら、身重のさくらが栄養を取るには打ってつけの料理であるとも言える。

 さくら:「こういう状態ですので、何のお構いもできませんで……」
 勇太:「いえいえ、とんでもない。こんな時に押し掛けちゃった上、一晩泊めて頂くことになって、真に申し訳無いです」

 さくらはこの稲荷神社の禰宜として働いているが、身重の為に、今は袴を穿いていない。

 マリア:「もし良かったら、これから生まれて来るBabyのことを占わせてください」

 マリアは水晶玉を取り出した。

 威吹:「フム。占いの見料が、今宵の宿泊代といったところか。よし、ならば占ってもらうとしよう。……夕食が終わってからな」
 美狐:「どうぞどうぞ、稲生さん」

 作務衣のような私服から、再び接客用?の着物に着替えた美狐が、勇太の御酌にやってきた。

 勇太:「ああ、どうも」
 美狐:「マリアさんも」
 マリア:「ああ、申し訳ない。日本酒は飲めないんだ」

 日本酒や焼酎では悪酔いするマリア。

 マリア:「私はお茶でいい」
 威吹:「それに、これから占ってもらうのに、酒を飲ませてはイカンよ」
 美狐:「それもそうか」
 威吹:「それでユタ、事務所の方はどうだった?」
 勇太:「そ、それは……」
 マリア:「まさか、失敗したのか?」
 勇太:「いや、あの事務所では上手く行ったよ。そこの所長で、代理人の坂本さんから推薦状をもらった」
 マリア:「やった!あとはこれを魔王城に持って行って、安倍首相との面会を求めるだけだ!」
 勇太:「い、いや、それが……。今は非常事態だから、もう1人、別の代理人から推薦状をもらわないとダメなんだって」
 マリア:「な、何だってー!?」
 勇太:「こ、これ以上は、せっかくの夕食が不味くなるから、後で話すよ」

[同日20:00.天候:晴 魔界稲荷 客室]

 夕食が終わり、食後のお茶やデザートの和菓子なんかを楽しんだ。
 その後でマリアは早速、占う。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。……ちょっと、お腹を触らせてもらってもいいですか?」
 さくら:「どうぞ」
 勇太:「ああっと!僕は後ろ向いてます!」

 さくらは着物を着ている為、腹を出そうとすると、胸も出すことになる為。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ……」

 マリアは左手で水晶玉を翳しつつ、右手でさくらの腹の上を触った。

 マリア:「このBabyが男なら青、女なら赤色に光れ」

 すると、水晶玉が赤色に光った。

 マリア:「どうやら、女の子のようです」
 さくら:「女の子ですか!」
 美狐:「やった!妹!」
 威吹:「そ、そうか。まあ、良い。それで、元気に生まれ、育つのであろうな?」
 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。異常ありなら赤、無しなら緑に光れ」

 すると水晶玉、緑色に光った。

 マリア:「Green signal!問題無く生まれる、つまり元気ということです」
 威吹:「い、いつ頃生まれる?」
 さくら:「威吹、だいたいあと1ヶ月って、先生に言われたでしょ?」
 威吹:「し、しかし……」
 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。出産の残り日数を指し示せ。……えーっと……」

 マリアはキョロキョロと辺りを見回した。

 勇太:「どうしたの?」
 マリア:「何かこう……カウンターみたいなものは無いか?数字を示すヤツ」
 勇太:「えっ!?と、言われても……」
 威吹:「あの時計ではダメか?」

 威吹は柱時計を指さした。

 マリア:「まあ、あれでもいいか」
 威吹:「待ってろ。今……」
 美狐:「あっ!」

 すると美狐、着物の中から、サイコロを取り出した。

 美狐:「これはどう!?」
 マリア:「これでもいい」
 さくら:「何でもサイコロなんか持ってるの?」
 美狐:「お父さんの狐妖術の修行」
 威吹:「サイコロを使う妖術があるの?面白そうだね」
 美狐:「今度、見せてあげるね!」
 威吹:「まだ使いこなせてないから、ムリでござるよ」
 マリア:「じゃあ、サイコロを振ります。出た目の数が、残りの出産月日です」

 マリアはサイコロを2個転がした。

 勇太:「桃鉄の急行カードみたい」
 威吹:「シッ!」

 すると、サイコロは1と3を現した。
 桃鉄の急行カードであれば、ハズレの出目である。
 何しろ、4マスしか進めないのだから。

 威吹:「こ、これは?」
 マリア:「残り、1.3ヶ月だ」
 威吹:「す、すると、1ヶ月……」
 勇太:「だいたい、1ヶ月と2~3週間ってところかな?」
 威吹:「そうなの?」
 勇太:「だいたいね」
 マリア:「さすがは大卒」

 他にも色々と占いを頼まれたマリアだった。
 だが実は、これもMPを消費するのである。
 最後にマリアは疲労困憊といった形で、お開きとなったのである。
コメント
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