[7月10日08:50.天候:曇 新潟県糸魚川市 糸魚川駅前バス停→頚城自動車“ときライナー”車内]
自動化されていない改札口で、駅員にキップを渡し、駅の外に出る。
それから向かうのは、日本海口のロータリーから少し歩いた所にあるバス停。
勇太:「ここから、バスに乗るよ」
マリア:「東京行き?」
勇太:「いや、新潟行き」
マリア:「Nigata...?」
バスはすぐにやってきた。
マリア:「チケットは?」
勇太:「現金かICカードだって。Suicaで乗れるよ」
マリア:「そうなんだ……」
“ときライナー”という名前のバスだけあって、車体も朱鷺色に塗られている。
但し、車種や内装はトイレ無し・4列シートの高速バスだった。
乗り込んでから、進行方向左側の2人席に座る。
人形の入ったバッグは、荷棚に置いておいた。
〔「お待たせ致しました。発車致します」〕
駅前からは10人ほどの乗客を乗せて、バスが出発した。
勇太:「1日2往復しか無い高速バスなんだ。新潟行きは、この便が最後だよ」
マリア:「そうなの!」
勇太:「マリアはこのバスのことは知らないでしょ?」
マリア:「もちろん」
勇太:「僕も調べて分かったんだ。どう?これなら、“魔の者”の追尾は誤魔化せそうでしょ?」
マリア:「確かにね。そんな気がする」
勇太:「新幹線は、新潟に着いてから」
マリア:「あ、なるほど。そのタイミングで乗るんだ」
勇太:「そういうこと」
マリアは納得した。
ところが……。
マリア:「こ、これは……!」
バスが北陸自動車道に入り、新潟方面に向かった途端、雨が降り出して来た。
それまでどんよりと曇っていたのだから、そのこと自体は想定内である。
不思議なのは、雷鳴が轟いていたのだが、雷鳴も雷光も日本海の向こう側のみなのである(「日本海」である。けして、「東海」などと呼称してはならない)。
勇太:「あれはもしかして……」
日本海の向こうで激しい雷が鳴っているだけで、こちらは雨が降っているだけである。
それがはっきりと見えるのは、道路が日本海に寄った時であり、内陸に移ったり、トンネルに入ったりすれば分からない。
だが、恐らく……。
勇太:「日本に入って来れない“魔の者”の、精一杯の悪あがきなのかもしれないね」
マリア:「そうかもな」
[同日10:40.天候:雨 新潟県刈羽郡刈羽村 北陸自動車道刈羽PA]
乗客の誰かが後者ボタンを押す。
〔「それではご希望がありましたので、刈羽パーキングエリアでトイレ休憩を取りたいと思います」〕
“ときライナー”には、ダイヤ上のトイレ休憩は設定されていない。
それでいてトイレ無しの車両で運用されるのだから、少し厳しいところがある。
そこでバス会社では、トイレ休憩希望者がある場合は刈羽パーキングエリアに立ち寄ることになっていた。
希望を取る方法は、降車ボタンを押してもらうこと。
微かに雷鳴だけが聞こえ、雨だけがそれなりの強さで降る中、バスは刈羽パーキングエリアに到着した。
臨時のトイレ休憩箇所に設定しているだけあって、パーキングエリアの規模は小さく、トイレと自販機、電話ボックスくらいしか無い。
自販機コーナーの横にはベンチや、東屋などの休憩スペースもある。
マリア:「せっかくだから、私も行こう」
勇太:「じゃあ、僕も」
雨が降っていたので、2人はローブを着込んでバスから降りた。
傘を持っている乗客は傘を差して行ったし、持っていない客はトイレまで全力ダッシュ。
小用の勇太は、当然ながらマリアよりも早くトイレを済ます。
運転手からは、トイレが終わったら直ちにバスに戻るように言われていたが、マリアが出て来たら一緒に戻ることにした。
自販機コーナーはあったが、飲んでいるヒマは無いだろうなと思う。
勇太:「ん!?」
自販機は2つあって、そのうちの1つは上部にLED表示機が付いている。
そこでは道路情報やニュースなどを文字放送で流せるようになっているのだが、そこに奇妙な文章が流れた。
『陰陽師の末裔、死んだ。向こうへ行く障害 1つ減った』
勇太:「???」
その直後、ニュースが流れた。
『安倍元総理が銃撃され、死亡した事件で、犯人の男は……』
勇太:「? 何だったんだろう、今の……?」
マリア:「お待たせ。早く戻ろう」
勇太:「う、うん」
2人は急いでバスに戻った。
〔「お待たせ致しました。それでは皆様、お戻りになりましたので、発車致します」〕
バスは再び雨が降る中、本線へと向かった。
勇太はもう一度、例の自販機を見たが、変な表示が出ているというようなことは無かった。
勇太:「おかしいな……」
マリア:「何が?」
勇太は先ほどの自販機の話をした。
と、上空から雷鳴が響いてくる。
どうやら、本当に雷雲が上空に現れたらしい。
勇太:「実は……」
マリア:「そ、それは“魔の者”からのメッセージじゃないのか!?」
勇太:「ええっ!?」
マリア:「オンミョージとやらが、誰のことを指しているか分からないけど……」
勇太:「もしかして、安倍元総理のことじゃない?系譜的には、あの安倍晴明のそれの流れを汲むとか聞いたことあるんだけど……」
マリア:「暗殺された元首相のことは知らないけど、アルカディアの安倍首相なら、勇太以上の霊力を持っているのは知ってる。その親戚ともなると、容易に想像はつくよ」
勇太:「『障害が1つ減った』とは?」
マリア:「“魔の者”の来日を阻む障害が1つ減ったということだろうね」
勇太:「安倍元総理の死で?!」
マリア:「……うん。そういうことになるかも」
勇太:「ま、マズいんじゃない?」
マリア:「マズいと思う」
勇太:「ヤバッ!このルート、間違えたかもしれない!」
“魔の者”は現在、日本海を越えられないでいるという。
それでタカをくくってこのルートにしたのだが、日本海の向こうでド派手に雷を鳴らしていたというのは、ただの負け惜しみではなく……。
マリア:「今すぐの変更は?」
勇太:「ムリ!」
マリア:「……“魔の者”が、私達がこれから上京することに気づいていないことを祈ろう。私達が移動していることは気づいているかもしれないが、まさかこのルートで上京するとは思ってもみないだろうから」
勇太:「そ、そうだね」
いつの間にか、雷は止んでいた。
雨は相変わらず降っているのだが……。
マリア:「急ごしらえの脅迫しかできない所を見ると、私達がどういうルートを通って、どこへ向かおうとしているのか分からないってことだから」
勇太:「な、なるほど」
自動化されていない改札口で、駅員にキップを渡し、駅の外に出る。
それから向かうのは、日本海口のロータリーから少し歩いた所にあるバス停。
勇太:「ここから、バスに乗るよ」
マリア:「東京行き?」
勇太:「いや、新潟行き」
マリア:「Nigata...?」
バスはすぐにやってきた。
マリア:「チケットは?」
勇太:「現金かICカードだって。Suicaで乗れるよ」
マリア:「そうなんだ……」
“ときライナー”という名前のバスだけあって、車体も朱鷺色に塗られている。
但し、車種や内装はトイレ無し・4列シートの高速バスだった。
乗り込んでから、進行方向左側の2人席に座る。
人形の入ったバッグは、荷棚に置いておいた。
〔「お待たせ致しました。発車致します」〕
駅前からは10人ほどの乗客を乗せて、バスが出発した。
勇太:「1日2往復しか無い高速バスなんだ。新潟行きは、この便が最後だよ」
マリア:「そうなの!」
勇太:「マリアはこのバスのことは知らないでしょ?」
マリア:「もちろん」
勇太:「僕も調べて分かったんだ。どう?これなら、“魔の者”の追尾は誤魔化せそうでしょ?」
マリア:「確かにね。そんな気がする」
勇太:「新幹線は、新潟に着いてから」
マリア:「あ、なるほど。そのタイミングで乗るんだ」
勇太:「そういうこと」
マリアは納得した。
ところが……。
マリア:「こ、これは……!」
バスが北陸自動車道に入り、新潟方面に向かった途端、雨が降り出して来た。
それまでどんよりと曇っていたのだから、そのこと自体は想定内である。
不思議なのは、雷鳴が轟いていたのだが、雷鳴も雷光も日本海の向こう側のみなのである(「日本海」である。けして、「東海」などと呼称してはならない)。
勇太:「あれはもしかして……」
日本海の向こうで激しい雷が鳴っているだけで、こちらは雨が降っているだけである。
それがはっきりと見えるのは、道路が日本海に寄った時であり、内陸に移ったり、トンネルに入ったりすれば分からない。
だが、恐らく……。
勇太:「日本に入って来れない“魔の者”の、精一杯の悪あがきなのかもしれないね」
マリア:「そうかもな」
[同日10:40.天候:雨 新潟県刈羽郡刈羽村 北陸自動車道刈羽PA]
乗客の誰かが後者ボタンを押す。
〔「それではご希望がありましたので、刈羽パーキングエリアでトイレ休憩を取りたいと思います」〕
“ときライナー”には、ダイヤ上のトイレ休憩は設定されていない。
それでいてトイレ無しの車両で運用されるのだから、少し厳しいところがある。
そこでバス会社では、トイレ休憩希望者がある場合は刈羽パーキングエリアに立ち寄ることになっていた。
希望を取る方法は、降車ボタンを押してもらうこと。
微かに雷鳴だけが聞こえ、雨だけがそれなりの強さで降る中、バスは刈羽パーキングエリアに到着した。
臨時のトイレ休憩箇所に設定しているだけあって、パーキングエリアの規模は小さく、トイレと自販機、電話ボックスくらいしか無い。
自販機コーナーの横にはベンチや、東屋などの休憩スペースもある。
マリア:「せっかくだから、私も行こう」
勇太:「じゃあ、僕も」
雨が降っていたので、2人はローブを着込んでバスから降りた。
傘を持っている乗客は傘を差して行ったし、持っていない客はトイレまで全力ダッシュ。
小用の勇太は、当然ながらマリアよりも早くトイレを済ます。
運転手からは、トイレが終わったら直ちにバスに戻るように言われていたが、マリアが出て来たら一緒に戻ることにした。
自販機コーナーはあったが、飲んでいるヒマは無いだろうなと思う。
勇太:「ん!?」
自販機は2つあって、そのうちの1つは上部にLED表示機が付いている。
そこでは道路情報やニュースなどを文字放送で流せるようになっているのだが、そこに奇妙な文章が流れた。
『陰陽師の末裔、死んだ。向こうへ行く障害 1つ減った』
勇太:「???」
その直後、ニュースが流れた。
『安倍元総理が銃撃され、死亡した事件で、犯人の男は……』
勇太:「? 何だったんだろう、今の……?」
マリア:「お待たせ。早く戻ろう」
勇太:「う、うん」
2人は急いでバスに戻った。
〔「お待たせ致しました。それでは皆様、お戻りになりましたので、発車致します」〕
バスは再び雨が降る中、本線へと向かった。
勇太はもう一度、例の自販機を見たが、変な表示が出ているというようなことは無かった。
勇太:「おかしいな……」
マリア:「何が?」
勇太は先ほどの自販機の話をした。
と、上空から雷鳴が響いてくる。
どうやら、本当に雷雲が上空に現れたらしい。
勇太:「実は……」
マリア:「そ、それは“魔の者”からのメッセージじゃないのか!?」
勇太:「ええっ!?」
マリア:「オンミョージとやらが、誰のことを指しているか分からないけど……」
勇太:「もしかして、安倍元総理のことじゃない?系譜的には、あの安倍晴明のそれの流れを汲むとか聞いたことあるんだけど……」
マリア:「暗殺された元首相のことは知らないけど、アルカディアの安倍首相なら、勇太以上の霊力を持っているのは知ってる。その親戚ともなると、容易に想像はつくよ」
勇太:「『障害が1つ減った』とは?」
マリア:「“魔の者”の来日を阻む障害が1つ減ったということだろうね」
勇太:「安倍元総理の死で?!」
マリア:「……うん。そういうことになるかも」
勇太:「ま、マズいんじゃない?」
マリア:「マズいと思う」
勇太:「ヤバッ!このルート、間違えたかもしれない!」
“魔の者”は現在、日本海を越えられないでいるという。
それでタカをくくってこのルートにしたのだが、日本海の向こうでド派手に雷を鳴らしていたというのは、ただの負け惜しみではなく……。
マリア:「今すぐの変更は?」
勇太:「ムリ!」
マリア:「……“魔の者”が、私達がこれから上京することに気づいていないことを祈ろう。私達が移動していることは気づいているかもしれないが、まさかこのルートで上京するとは思ってもみないだろうから」
勇太:「そ、そうだね」
いつの間にか、雷は止んでいた。
雨は相変わらず降っているのだが……。
マリア:「急ごしらえの脅迫しかできない所を見ると、私達がどういうルートを通って、どこへ向かおうとしているのか分からないってことだから」
勇太:「な、なるほど」