報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「新潟県内を移動」

2022-07-12 20:02:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月10日08:50.天候:曇 新潟県糸魚川市 糸魚川駅前バス停→頚城自動車“ときライナー”車内]

 自動化されていない改札口で、駅員にキップを渡し、駅の外に出る。
 それから向かうのは、日本海口のロータリーから少し歩いた所にあるバス停。

 勇太:「ここから、バスに乗るよ」
 マリア:「東京行き?」
 勇太:「いや、新潟行き」
 マリア:「Nigata...?」

 バスはすぐにやってきた。

 マリア:「チケットは?」
 勇太:「現金かICカードだって。Suicaで乗れるよ」
 マリア:「そうなんだ……」

 “ときライナー”という名前のバスだけあって、車体も朱鷺色に塗られている。
 但し、車種や内装はトイレ無し・4列シートの高速バスだった。
 乗り込んでから、進行方向左側の2人席に座る。
 人形の入ったバッグは、荷棚に置いておいた。

〔「お待たせ致しました。発車致します」〕

 駅前からは10人ほどの乗客を乗せて、バスが出発した。

 勇太:「1日2往復しか無い高速バスなんだ。新潟行きは、この便が最後だよ」
 マリア:「そうなの!」
 勇太:「マリアはこのバスのことは知らないでしょ?」
 マリア:「もちろん」
 勇太:「僕も調べて分かったんだ。どう?これなら、“魔の者”の追尾は誤魔化せそうでしょ?」
 マリア:「確かにね。そんな気がする」
 勇太:「新幹線は、新潟に着いてから」
 マリア:「あ、なるほど。そのタイミングで乗るんだ」
 勇太:「そういうこと」

 マリアは納得した。
 ところが……。

 マリア:「こ、これは……!」

 バスが北陸自動車道に入り、新潟方面に向かった途端、雨が降り出して来た。
 それまでどんよりと曇っていたのだから、そのこと自体は想定内である。
 不思議なのは、雷鳴が轟いていたのだが、雷鳴も雷光も日本海の向こう側のみなのである(「日本海」である。けして、「東海」などと呼称してはならない)。

 勇太:「あれはもしかして……」

 日本海の向こうで激しい雷が鳴っているだけで、こちらは雨が降っているだけである。
 それがはっきりと見えるのは、道路が日本海に寄った時であり、内陸に移ったり、トンネルに入ったりすれば分からない。
 だが、恐らく……。

 勇太:「日本に入って来れない“魔の者”の、精一杯の悪あがきなのかもしれないね」
 マリア:「そうかもな」

[同日10:40.天候:雨 新潟県刈羽郡刈羽村 北陸自動車道刈羽PA]

 乗客の誰かが後者ボタンを押す。

〔「それではご希望がありましたので、刈羽パーキングエリアでトイレ休憩を取りたいと思います」〕

 “ときライナー”には、ダイヤ上のトイレ休憩は設定されていない。
 それでいてトイレ無しの車両で運用されるのだから、少し厳しいところがある。
 そこでバス会社では、トイレ休憩希望者がある場合は刈羽パーキングエリアに立ち寄ることになっていた。
 希望を取る方法は、降車ボタンを押してもらうこと。
 微かに雷鳴だけが聞こえ、雨だけがそれなりの強さで降る中、バスは刈羽パーキングエリアに到着した。
 臨時のトイレ休憩箇所に設定しているだけあって、パーキングエリアの規模は小さく、トイレと自販機、電話ボックスくらいしか無い。
 自販機コーナーの横にはベンチや、東屋などの休憩スペースもある。

 マリア:「せっかくだから、私も行こう」
 勇太:「じゃあ、僕も」

 雨が降っていたので、2人はローブを着込んでバスから降りた。
 傘を持っている乗客は傘を差して行ったし、持っていない客はトイレまで全力ダッシュ。
 小用の勇太は、当然ながらマリアよりも早くトイレを済ます。
 運転手からは、トイレが終わったら直ちにバスに戻るように言われていたが、マリアが出て来たら一緒に戻ることにした。
 自販機コーナーはあったが、飲んでいるヒマは無いだろうなと思う。

 勇太:「ん!?」

 自販機は2つあって、そのうちの1つは上部にLED表示機が付いている。
 そこでは道路情報やニュースなどを文字放送で流せるようになっているのだが、そこに奇妙な文章が流れた。

 『陰陽師の末裔、死んだ。向こうへ行く障害 1つ減った』

 勇太:「???」

 その直後、ニュースが流れた。

 『安倍元総理が銃撃され、死亡した事件で、犯人の男は……』

 勇太:「? 何だったんだろう、今の……?」
 マリア:「お待たせ。早く戻ろう」
 勇太:「う、うん」

 2人は急いでバスに戻った。

〔「お待たせ致しました。それでは皆様、お戻りになりましたので、発車致します」〕

 バスは再び雨が降る中、本線へと向かった。
 勇太はもう一度、例の自販機を見たが、変な表示が出ているというようなことは無かった。

 勇太:「おかしいな……」
 マリア:「何が?」

 勇太は先ほどの自販機の話をした。
 と、上空から雷鳴が響いてくる。
 どうやら、本当に雷雲が上空に現れたらしい。

 勇太:「実は……」
 マリア:「そ、それは“魔の者”からのメッセージじゃないのか!?」
 勇太:「ええっ!?」
 マリア:「オンミョージとやらが、誰のことを指しているか分からないけど……」
 勇太:「もしかして、安倍元総理のことじゃない?系譜的には、あの安倍晴明のそれの流れを汲むとか聞いたことあるんだけど……」
 マリア:「暗殺された元首相のことは知らないけど、アルカディアの安倍首相なら、勇太以上の霊力を持っているのは知ってる。その親戚ともなると、容易に想像はつくよ」
 勇太:「『障害が1つ減った』とは?」
 マリア:「“魔の者”の来日を阻む障害が1つ減ったということだろうね」
 勇太:「安倍元総理の死で?!」
 マリア:「……うん。そういうことになるかも」
 勇太:「ま、マズいんじゃない?」
 マリア:「マズいと思う」
 勇太:「ヤバッ!このルート、間違えたかもしれない!」

 “魔の者”は現在、日本海を越えられないでいるという。
 それでタカをくくってこのルートにしたのだが、日本海の向こうでド派手に雷を鳴らしていたというのは、ただの負け惜しみではなく……。

 マリア:「今すぐの変更は?」
 勇太:「ムリ!」
 マリア:「……“魔の者”が、私達がこれから上京することに気づいていないことを祈ろう。私達が移動していることは気づいているかもしれないが、まさかこのルートで上京するとは思ってもみないだろうから」
 勇太:「そ、そうだね」

 いつの間にか、雷は止んでいた。
 雨は相変わらず降っているのだが……。

 マリア:「急ごしらえの脅迫しかできない所を見ると、私達がどういうルートを通って、どこへ向かおうとしているのか分からないってことだから」
 勇太:「な、なるほど」
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“大魔道師の弟子” 「日本海へ」

2022-07-12 15:00:36 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月10日07:20.天候:雨 長野県北安曇郡小谷村 JR南小谷駅→大糸線423D列車内]

 

 2両編成の電車を降りた魔道士2人は、雨が降り出した駅構内を歩いた。
 乗り換え先の列車が隣のホームに到着する為、再び跨線橋を渡るのである。
 まだ、列車は到着していなかった。
 山の中ということもあってか、そんなに暑くはなかったが、しかし湿気は凄かった。
 ローブを着ていると、確かに雨は防いでくれるが、湿気までは防いでくれなかった。
 日本では流行らなかった理由は、そこにあるのかもしれない。
 ホームの有効長は比較的長いが、そこにたったの2両編成の電車が真ん中に止まっているのは、とてもシュールである。
 少ししてから、下り方向よりディーゼルエンジンの音が響いて来た。
 糸魚川方面からやってきた、JR西日本のキハ120系である。
 この南小谷駅はJR東日本とJR西日本の境界線であり、ここから北へはJR西日本の管轄となる。
 何気に勇太にとっては魔道士になってから初めて、マリアに至っては来日してから初めてのJR西日本だった(東海道新幹線乗車時、JR西日本の車両に乗ったことはある)。

 勇太:「たったの1両か……」

 先ほどまでのJR東日本区間が2両編成の電車、ここから先のJR西日本区間が1両だけの気動車であった。
 恐らくそれでも、平日は通勤通学客で満席くらいにはなるのだろうが、日曜日ということもあって、ここまで乗って来た乗客は少なかった。

 

 JR東日本にも似たような気動車は存在するが、乗降扉が引き戸であるのに対し、こちらは折り戸である。
 乗客のいなくなった車両に乗り込むと、空いているボックスシートに向かい合って座った。
 電車の方もそうだが、気動車の方もボックスシートよりはロングシートの方がメインといった構造である。

 

 勇太:「この列車で、終点まで乗ります。終点の糸魚川が、本当に大糸線の終点です」

 大糸線の糸とは、糸魚川の糸である。

 マリア:「海沿いの町か」

 マリアは自分の水晶玉で、糸魚川市の概要を見た。

 勇太:「ここから先は更にトンネルが多くなり、要は山をいくつも通って、それからようやく海に出るといった感じかな」
 マリア:「なるほど。この鉄道、実は海に繋がっていたとは……」
 勇太:「どうしても、南小谷駅で乗り換えさせられるからね」

 JRが違うし、そもそもここから先は電化すらされていない。

 勇太:「ちょっと、飲み物買って来る」
 マリア:「売っている所、あるの?」
 勇太:「駅の中に自販機くらいあるはずだよ。何しろ、有人駅なんだからね」

 駅によっては、無人駅でも自販機くらい置いてあるくらいだ。
 ましてや南小谷駅は有人駅であるからして……。

 勇太:「いや、お茶でも買ってこようかと思ってね」
 マリア:「私のもお願い。私は水でいいや」
 勇太:「水ね。了解」

 勇太はローブを羽織ると、再びホームに降り立った。

[同日07:38.天候:雨 JR大糸線423D列車内]

〔「本日もJR西日本をご利用頂き、ありがとうございます。7時38分発、大糸線、平岩方面、普通列車の糸魚川行きです。終点まで、各駅に止まります。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕

 勇太がペットボトル2つを買って、再び車内に戻ると、マリアはローブを脱いでいた。
 防暑着の役割も果たすローブではあるが、強い日差しには抵抗できても、やはり湿気には弱いらしい。
 ローブを脱ぐと、高校3年生のようである。
 それもそのはず。
 マリアが魔道士になったのは18歳の時。
 契約した悪魔の力が及んだせいで、そこから体の成長は極端に遅くなっているのだから(それでも出会った頃より身長は少し伸びているのと、胸も【お察しください】)。
 発車の時刻になり、JR東日本のとは明らかに違うデザインの制服を着たJR西日本の運転士が肉声放送を行う。
 ワンマン運転の列車ならではだ。
 運転士はミラーと時計をにらめっこしている。
 発車の時刻になり、他に乗客が乗ってこないのを確認すると、運転席のドアスイッチを操作してドアを閉めた。
 折り戸の方が、引き戸よりも開閉が速いような気がする。
 それからハンドルを操作する音が聞こえて、単行の気動車はディーゼルエンジンの唸り声を上げて発車した。

〔ピンポーン♪ 次は中土、中土です。お降りの際、運賃、キップは整理券と一緒に、運転士後ろの運賃箱にお入れください。両替機は、運賃箱に付いています。定期券は運転士に、分かりやすくお見せ願います〕

 マリア:「確かに、こんな方向で行くのなら、“魔の者”は誤魔化せそうだな」
 勇太:「でしょ?いつもなら白馬駅から上りに乗るのに、初めての下り列車だからね」

 勇太はマスク越しにニッと笑った。

[同日08:35.天候:曇 新潟県糸魚川市 JR糸魚川駅]

〔ピンポーン♪ 今日もJR西日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく終点、糸魚川、糸魚川です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。……〕

 列車はいくつものトンネルを抜け、ついに日本海側へと到達した。
 雨は止んでいたが、しかしこの町にもどんよりとした雲が空を覆い尽くしている。
 しかも、しとしとと雨が降っていた山間部よりも黒い雲である。
 何だか不気味に感じた。
 もうとっく朝日が車内に差し込んでいても良い時間なのに、まるで早朝のような明るさである。
 因みに、マリアは向かいの席には座っていない。

 

 急いでトイレに向かった所を見ると、下半身に何かあったと勇太は見ている。
 が、そこは指摘しておかないでおく。
 上記の写真を見てもらえれば分かるかもしれないが、キハ120系車両は、実は元々トイレは付いていなかった。
 乗客の要望等を受けて、後から取り付けられたものである。
 最初から付いていたならば、こんな後付け感は無いだろうし、位置的にももう少し自然な所にあるはずである。
 幸い後付けということもあり、トイレは洋式である。

 マリア:「ふぅ……」

 なのでイギリス人のマリアも、安心して使えるというわけだ。

 勇太:「大丈夫だった?」
 マリア:「何とかね」

 列車は速度を落として、糸魚川駅に入線した。
 北陸新幹線も停車する駅ではあるが、在来線としては第3セクターのえちごトキメキ鉄道(愛称、トキ鉄)の乗り場となっており、JR西日本としてはこの大糸線だけである。
 どうもJR西日本としては、この大糸線も切り離したいようだが……。

 勇太:「じゃ、降りようか」

 列車は切り欠きホームの4番線に到着した。
 南小谷駅発車時よりは乗客は増えていて、勇太達はそんな乗客達と一緒にホームに降りた。

 マリア:「ここから新幹線に乗り換えて、東京へ?」
 勇太:「違う」
 マリア:「違う!?」
 勇太:「これだけだと、まだ“魔の者”は誤魔化せないと思う。更に遠回りしようと思ってるんだ。マリアに渡したキップが、白馬駅からの近距離キップなのが証拠だよ。このキップは、この駅までだよ」
 マリア:「じゃあ、ここから先はどうするの?」
 勇太:「僕に任せてついてきて」

 勇太は手招きして、マリアを先導した。
 勇太は、ここからどのようなルートを行くつもりなのだろうか?
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