報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔道士達の上京紀行 ~特急あずさ46号~」

2022-01-01 23:38:49 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月31日15:15.天候:雪 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅→大糸線46M列車9号車・10号車]

 もしもこれがRPGだとしたら、こういう質問をされるだろう。

 『列車を待ちますか?』

 『はい』『いいえ』

 なんて……。
 そして、この選択肢に勇太達は『はい』を選んだのである。
 足湯を堪能した後は駅前の土産物屋に行って、両親へのお土産や正証寺への御供物を購入した。
 末寺への御供物を購入する辺り、作者以上の信心を持つのだろう。

 駅員:「お待たせ致しました。15時16分発、特急“あずさ”46号、新宿行きの改札を始めます」

 駅事務室から駅員が出て来て、閉鎖されていた改札口を開けた。
 ブースだけでなく、ホームへの出入口ごと閉鎖している。
 そうすることによって、待合室の暖房が効くようにしているのだ。
 事実、駅員がホームへの出入口を開けると、そこから一気に寒気がなだれ込んで来た。

 駅員:「はい、ありがとうございます」

 駅員に赤いスタンプタイプの鋏を入れてもらう。
 これが車掌の改札印だと、青いインクになる。
 線路には雪が積もっており、レールの部分は顔を出しているが、枕木は完全に雪に埋没していた。
 そして、屋根に雪を積もらせた列車がやってくる。
 南小谷駅からやってきた列車なので、既に車内には先客の姿が見えていた。
 帰省客というよりは、スキー客が殆どのようだ。
 それもそのはず。
 今は都市部から地方への帰省ラッシュたけなわなのであり、その逆を勇太達は行こうとしている。
 実際列車に乗り込む時、他の乗客達の殆どはスキー客であった。

 勇太:「こちらです。先生の御席は」
 イリーナ:「ありがとう。それじゃ、アタシは寝てるから着いたら起こしてね」
 勇太:「分かりました。僕達は隣の車両にいます」

 イリーナを9号車のグリーン車に案内した後、勇太とマリアは隣の10号車の普通車に移った。
 そうしているうちに、列車は走り出す。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。この列車は、特急“あずさ”46号、新宿行きです。停車駅は信濃大町、穂高、豊科、松本、塩尻、岡谷、上諏訪、茅野、小淵沢、甲府、八王子、立川、終点新宿の順です。【中略】次は、信濃大町です〕

 隣の普通車に移動して、指定された席に座る稲生達。

 マリア:「人形達が、アイスクリーム買いたいってさ」

 荷棚にいつものバッグを置くと、そこから人形達が顔を出す。

 勇太:「車内販売はあるけど、さすがにもうアイスは無いよ」

 それどころか、ブレンドコーヒーも売らなくなってしまった。
 勇太達はテーブルを出して、そこに飲み物を置いたが、それは駅のキヨスクで買ったものである。

 マリア:「一体、私達の今日の最終目的地はどこなんだ?」
 勇太:「慌てなさんなって。その乗車券の区間外には出ないからさ」

 マリア、勇太に渡されたキップを見る。

 マリア:「いや、区間外ったって……」

 乗車券の区間は、『白馬→東京都区内』となっていた。

 マリア:「東京都区内って何だ?」
 勇太:「その名の通りだよ。東京23区内の駅なら、どの駅で降りてもいいって意味さ。もちろん、JRね」
 マリア:「これだと、最終的にどの駅で降りるのかが分からないが……」
 勇太:「大丈夫だって。後悔はさせないからさ」
 マリア:「んん?」
 勇太:「確かにこの電車の終点が目的地ではなく、新宿駅で乗り換えることに変わりは無いんだけど」

 特急券の区間は、『白馬→新宿』となっている。

 マリア:「師匠をあまり連れ回すと、『あー、疲れた。マリア、肩揉んで。腰揉んで。足揉んで』『昨日、歩き回って疲れた。あと5分寝かせて』とかうるさいから」
 勇太:「もちろん、乗り換えは1回だけだよ」
 マリア:「あとはあれだな。夕食」
 勇太:「ホテルに着いてからになるみたいだよ」
 マリア:「何だ、そうなのか」
 勇太:「あと、今日は大晦日だし、明日はお寺で元旦勤行が行われる」
 マリア:「行くのか?」
 勇太:「もちろん。午前2時半からね」
 マリア:「そんな時間に電車が走ってる?」
 勇太:「今年から来年にかけて、今回は終夜運転をやるみたいだよ。まあ、実際には乗るつもりは無いけどね。終電で行って、始発で帰って来るって感じ」
 マリア:「そうなのか」
 勇太:「あ、僕1人で行くから、マリアは寝てていいよ」
 マリア:「……いや、私も行く」
 勇太:「いいよ、無理しなくて」
 マリア:「弟弟子の監視をするのも、姉弟子の勤め」
 勇太:「僕、そんなに信用無い?」
 マリア:「申し訳ないが、あんまり。私が行かない時に限って勇太、どこかへ行こうとしたり……」
 勇太:「ギクッ!」

 勇太から率先してどこかへ行くわけではないのだが、何故か藤谷や鈴木に連れ回される恐れがあった。

 マリア:「ここぞとばかりに、エレーナがモーション掛けてきたりする恐れがある」
 勇太:「エレーナのことだから寝てるんじゃない?」
 マリア:「いや、私は信じてない」
 勇太:「魔女のことは、魔女にお任せってか。分かったよ」
 マリア:「それに、『神の御使い』を僭称する魔女狩り共から身を護るには、仏教の寺の中にいた方が安全だということも分かってる」
 勇太:「日蓮正宗の教えは、どの宗派よりも正しい。キリスト系カルト教団というだけで、外道以外の何物でもないのに、ましてや、魔女狩りの正当性を求めようとすると、逆ギレする有り様だ。『日蓮正宗の連中は面倒臭い』と思われてしまったけど、そのおかげで、『2度と関わるな』となり、『2度と境内に足を踏み入れない』となる。だから、安全地帯になるんだ」
 マリア:「そういうこと」

 マリアは大きく頷いた。
 するとその時、ミク人形が荷棚から顔を出した。
 屋敷にいる時はミカエラとして人間形態をして働いているが、移動時はミク人形(見た目が初音ミクに似ているから)に変化している。

 マリア:「え?車内販売?」
 勇太:「大糸線は無いんじゃないかな。中央本線に入ってからだと思うよ。松本駅で附属編成を増結して、ようやくフル編成になるから、そこで車内販売を始めると思う」
 ミク人形:「ちっ」

 ミク人形は舌打ちをして、荷棚の上に戻った。

 勇太:「高速バスの方が良かったかな?」
 マリア:「師匠の占いじゃ、高速道路がカオスな状態になるんだろ?だから、電車にしたんじゃないか」
 勇太:「そうだった」

 雪深い区間を走っており、お世辞にも高速で走行しているとは言い難いが、これでダイヤ通りである。
コメント
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