報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「雪中行軍」

2022-01-23 20:21:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月7日10:45.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

 当初は県道35号線(産業道路)をひたすら北上し、さいたま市大宮区の大宮駅東口を目指す予定であった。
 しかし、鉄道のダイヤが乱れていることや、降雪や凍結による車の流れの頗る悪いことから、そこは大渋滞となっていた。
 産業道路を少し北上すると、高速道路の外環道(高速道路のみの正式名称は東京外環道。下道も含めた正式名称は、東京外かく環状道路)と立体交差する。
 道路情報を見ると、外環道には冬タイヤ規制や速度規制はあるものの、通行止めにはなっていない。
 また、都内や神奈川の首都高は軒並み通行止めだったが、比較的雪害が小さかった埼玉県内の首都高は通行止めにはなっていなかった。
 昨日からの雪害は、関東に限定して言えば、南側が概して被害が大きかったのである。

 タクシー運転手:「お客さん、別料金になっちゃいますけど、高速を通った方が早いかもしれません」
 勇太:「分かりました。それでお願いします」
 タクシー運転手:「よろしいですか?」

 運転手は外環道(下道)の交差点を左折すると、外環道(高速)の入口を目指した。
 道路情報通り、川口西インターは開放されていた。
 そこから高速に乗り、料金所はETCで通過する。
 高速は東へ向かい(内回り)、美女木ジャンクションで首都高速・埼玉大宮線に入った。
 ダイヤモンド型と呼ばれるジャンクションだが、外環道側に信号機がある。
 高速道路にも関わらず、信号機付きの交差点がある稀有なジャンクションである。
 これは用地取得が困難であった為、ランプが設置できなかったことによる。
 基本的に、右折レーンが待たされるように設定されているが……。
 思った通り、埼玉県内の高速道路は冬タイヤ規制や50キロ規制が行われていたが、通行止めにはなっていなかった。
 予定変更で大宮駅は東口ではなく、西口に到着することにした。
 埼玉大宮線の終点、与野ジャンクションでループ線を回って下り、一気に地下トンネルの埼玉新都心線線に入る。
 そして、大宮駅の最寄りの出口である、新都心西出口から高速を降りた。
 ここは、旧・稲生家があった場所の近くである。

 勇太:「うわ、タクシーが1台もいない」

 大宮駅西口のタクシープールに入ると、いつもなら何十台と待機しているタクシーが1台もいなかった。
 場合によっては客待ちタクシーに阻まれて、降り場まで近づけず、その手前で降ろされることもあるというのに。
 当然、タクシー乗り場には長蛇の列ができていた。
 京浜東北線や埼京線などの通勤電車は、ダイヤが乱れつつも何とか走れているようだが、宇都宮線や高崎線などの中距離電車はもっとケガが大きいらしい。
 雪に最も強いと思われる東北新幹線でさえ、併結相手の山形新幹線や秋田新幹線が、在来線内でダイヤ乱れを起こした為、その影響を受けているようだった。
 勇太はタクシーチケットに料金を書き込んだ。
 メーターの料金の他、高速道路料金も別に書き込む。
 その間、マリアとイリーナは先に降りて、ハッチから荷物を降ろした。

 タクシー運転手:「ありがとうございました」
 勇太:「どうもお世話さまでした」

 タクシーは稲生達を乗せると、すぐにタクシー乗り場に移動した。
 タクシー会社は大宮区でも営業している大手の会社だったが、営業圏は川口と同じなのだろう(埼玉県南中央交通圏)。

 勇太:「それじゃ、まずはこの荷物をコインロッカーに置いて行きましょう」

 勇太は自分の荷物とマリアの荷物を持つと、エスカレーターで駅2階に上がった。
 改札外コンコースからも、現在の運行状況についての放送がガンガン聞こえていた。

[同日11:15.天候:晴 さいたま市大宮区 湯快爽快おおみや]

 コインロッカーに荷物を置いて、再び駅の外に出る。
 そして、ロータリーの外にある、西武バスの降車場の近く。
 そこには、1台のマイクロバスが停車していた。
 それに乗り込む。
 平日で、しかも交通が混乱気味ということもあってか、乗客は少なかった。
 後ろの座席に、3人並んで座る。
 バスは一応、決められた時間通りに発車した。
 それから、西に向かって市道を進み、国道17号線新大宮バイパスの下り線に入る。
 片側3車線の大幹線であるが、交通量は思いの外、多かった。

 バス運転手:「はい、到着しましたー」

 送迎バスは、温泉施設の入口に到着した。

 マリア:「チップっているんだっけ?」
 勇太:「要らないよ」

 イギリスやアメリカではタクシーはもちろん、送迎バスにもチップを払う習慣がある為(路線バスでは不要)。
 タクシーでは料金の支払いは、勇太に任せている。

 勇太:「うわ、寒い」

 バスを降りると、寒風が吹いて来た。

 勇太:「早く中に入りましょう」

 3人は急ぎ足で館内へと入って行った。

 マリア:「いい所なんだけど、まさか、あのヘンタイ理事がいたりはしないだろうな?」
 イリーナ:「大丈夫よ。あの理事、こっちの本業が忙しいみたいだから」

 イリーナは東の方を指さした。
 東の方には大宮駅があるが、更にその先にある物とは……。

 勇太:(顕正会の本部会館……か)

 と、勇太は察した。

 勇太:(何が忙しいのかは、聞かないでおこう)

 イリーナも、勇太が質問しなければ、それ以上言うつもりは無いようだ。

 勇太:「先に靴を脱いでくださいね」
 マリア:「そうだったな」

 勇太はスニーカー、マリアはペニー・ローファーである。
 制服ファッションには付き物の靴である。
 これらの靴は着脱しやすいが、イリーナの場合はロングブーツであり、こちらは着脱しにくいようだった。
 こちらは椅子に座って、脱ぐ。

 マリア:「シューズロッカーに入りますか?」
 イリーナ:「ただのブーツじゃないんだから」

 脛の部分が縮んで、まるでパンプスのようになる。
 確かにこれなら、すんなりと入る。

 勇太:「それじゃ、券を買います」

 因みに勇太だけ会員証持ち。

 イリーナ:「マッサージもお願いね」
 勇太:「中で申し込むみたいです」

 帰り際、イリーナたっての希望であった。
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“大魔道師の弟子” 「帰省最終日」

2022-01-23 16:04:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月7日08:00.天候:晴 埼玉県川口市某所 稲生家3F]

 起床した勇太は2階の洗面所で顔を洗った。
 洗面台そのものは3階にもあるのだが、給湯器がシャワールームと共用であり、マリアがシャワーを使っている為、勇太も洗面所を使うとお湯の出が悪くなるからだった。
 で、洗顔や歯磨きなどを終え、一旦自室に戻ろうとすると……。

 マリア:「あ、ユウタ」

 マリアが勇太の部屋から出てくるところだった。

 勇太:「おはよう。ど、どうしたの?僕の部屋に、何か用?」

 するとパジャマ姿のマリアは、溜め息をついた。

 マリア:「私のパンツ、返してね」
 勇太:「バレてた!」
 マリア:「いや、バレバレだから」

 マリアは呆れた様子で、ゲストルームに戻って行った。

 マリア:「師匠、起きてください。もう朝ですよ」

 ゲストルームに戻ったマリアは、まだベッドで横になっている師匠に言った。

 イリーナ:「やれやれ……。じゃあ、起きようかね」

 イリーナは大きく伸びをして起き上がった。

 イリーナ:「最近はウォッカを体に入れないと、よく眠れないんだよォ……」
 マリア:「昨夜、だいぶイビキかいて寝てたような気がしますが?」
 イリーナ:「それより、勇太君から下着は返してもらったの?」
 マリア:「はい」
 イリーナ:「マリアのことが好きでそうしたことは明らかなんだから、あげちゃえばいいのに」
 マリア:「まだ買ったばっかりなんで」

 マリアはそう答えながら、パジャマを脱いで服に着替えた。

[同日08:30.天候:晴 同市内 稲生家1F]

 ダイニングに移動して、朝食を取る。
 今朝の朝食は洋食だった。
 トーストにサラダ、ベーコンエッグなどである。
 昨日、勇太が頼まれたお使いの内容がふんだんに盛り込まれていた。
 で、室内のテレビでは、昨日の大雪で首都圏の交通が混乱していることを伝えていた。

 稲生佳子:「昨日は東京でも10cm積もったんですって」
 勇太:「あー……やっぱりそれくらい行ったか。都内で大雪警報とか……w」
 佳子:「別に、今日1日、うちでゆっくりして行っていいのよ?」
 勇太:「うーん……、僕もそうしたいんだけど、先生が大変でねぇ……」
 イリーナ:「すみませんねぇ……。何せ私が、お寝ぼすけさんなもので……」
 マリア:(自覚はあるんですね)

 マリアはイリーナの言葉に対するコメントを、喉元で抑え込んだ。

 勇太:「明日乗る特急“あずさ”唯一の大糸線直通が、8時ちょうどなんだ。ここから新宿発8時ちょうどの電車に乗ろうとすると、早起きしないといけないからね」
 マリア:「ルゥ・ラ(瞬間移動魔法)を使えばいいのに……」
 イリーナ:「だったら、あなたが使えるようになりなさい」
 マリア:「く……!」

 まだ、瞬間移動魔法が苦手なマリアだった。
 瞬間移動魔法にも、長距離と中距離、近距離の3つがある。
 位の高い魔道師になればなるほど長距離が得意になるが、近距離が苦手になる(大魔道師が移動に魔法を使わないのはその為)。
 その理屈で行けば、マリアは近距離が得意になるはずだが、それすら上手くできないという難点がある。
 尚、長距離や中距離は魔法陣を使うが、近距離は魔法陣を使わない。
 また、長距離や近距離の定義は曖昧である。
 さすがに地球の裏側に行くのは長距離であることは、共通しているようだが……。

 勇太:「取りあえず今日は、温泉でのんびりしつつ、新宿駅近くのホテルに一泊しようと思います」
 イリーナ:「私の希望だからね。ホテルの等級もミドル以下でいいからね」
 勇太:「はあ……」

 因みにイリーナ、随分謙虚に言っているように見えるが、国際的にはミドルクラスのホテルの中に、京王プラザホテルが入っているくらいだ。
 つまり、庶民から見て高級ホテルに分類されるはずの京王プラザホテルでさえ、国際的にはミドルクラスなのである。
 最高級のラグジュアリーは御三家と呼ばれる帝国ホテルやホテルオークラ、ニューオータニが有名。

 イリーナ:「新宿駅から近い所を予約してくれた?」
 勇太:「も、もちろんです」

 勇太の冷や汗を、マリアは察した。

 マリア:(新宿駅から徒歩圏内辺りのホテルは確保したが、ミドルクラス未満のホテルだったか。多分勇太のことだから、エレーナのホテルみたいなバジェットクラスではないだろうが……)

 バジェットクラスは低料金ホテルのことで、エコノミークラスよりも下である。
 作者愛用の東横インやスーパーホテルも、バジェットクラスに当たる。
 尚、日本のラグジュアリー御三家が先ほどの帝国ホテルなどであれば、バジェット御三家は東横イン、ルートイン、アパホテルと言われている。

 イリーナ:「あ、そうそう。私の希望なんだから、今日の費用については任せてくれていいからね」
 勇太:「あ、はい。ありがとうございます……」
 佳子:「先生、よろしいのですか?」
 イリーナ:「いいんですよ。弟子の世話も、師匠の使命ですから。私も、師匠にそう言われました。この世界は、そうやって成り立っているのです」
 佳子:「まるで徒弟制度ですね」
 イリーナ:「そう。言うなれば、徒弟制度ですよ」
 マリア:(その割には、随分とユルユルな徒弟制度だが……)

 もちろん、アナスタシア組などのように、キッチリとした徒弟制度の組もある。

[同日10:00.天候:晴 同市内 稲生家玄関→タクシー車内]

 家の前に予約したタクシーが到着する。
 首都圏の交通機関が乱れているので、タクシーも大忙しだと思うが、既に予知していたイリーナの言もあり、早めに予約していた勇太だった。

 佳子:「これ、お父さんが使ってって」
 勇太:「分かった」

 勇太は母親の佳子からタクシーチケットを受け取った。

 イリーナ:「これを置いて行きます。私の占いの結果です。機密漏洩防止の為、あえてロシア語で書いてあります。翻訳の方だけお願いします」
 佳子:「いつも申し訳ございません」
 マリア:(日本語はもちろん、英語で書くのですら面倒なだけだろうが……)

 イリーナはA4サイズの封筒を佳子に渡した。
 タクシーは赤羽から乗った高級ミニバンタイプではなく、普通のトールワゴンタイプである。
 運転手にハッチを開けてもらって、そこに荷物を乗せる。
 そして勇太は助手席に、マリアとイリーナはリアシートに座った。
 新型のトールワゴンタクシーは、女性にしては長身(170cm超え)のイリーナでも比較的ゆったり乗れるようであった。

 勇太:「大宮駅までお願いします」
 運転手:「はい。東口でよろしいですか?」
 勇太:「はい。東口でお願いします」
 運転手:「かしこまりした」

 タクシーがゆっくり走り出す。
 ゆっくりなのは、道がシャーベット状になっていたり、凍結していたりする為であった。

 運転手:「道がこういう状態なので、もしかしたら、着くまでに時間が掛かるかもしれませんが、よろしいですか?」
 勇太:「いいですよ。それでお願いします」
 運転手:「かしこまりました」

 本当に良いかどうか少し不安になったので、勇太はチラッとリアシートを見た。
 しかし、イリーナはローブのフードを被って寝入る体勢を取り、マリアは水晶玉を取り出して何か占いでもしていたので、特に問題無いと分かり、ホッとして再び前を向いた。
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